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seisai_no_resonance:sce07_03_03_1
中村さんの炎を蹂躙する嵐――
そこにヤヤの面影は無かった。
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風が吹き付ければ、
肌に突き刺さる悪寒を感じる。
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穢れすれすれと言った通り、彼女から感じる巫女の力は、
明らかに変質していた。
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祓うための力ではなく、暴虐を尽くすための力――。
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「ヤヤ……」
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初めてヤヤの得物を見た時、風は嵐にもなると感じた。
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あながち間違いでは無かったのかもしれない。
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今はそう思えるほど、
ただ破壊するための武器がそこにあった。
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「くっ……化け物め……!」
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「弱いなぁ、それで本気?」
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息を切らせた中村さんに対し、ヤヤは嘲笑う。
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そして、鉄球のついた鎖をジャラリと響かせた。
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殺気を孕んだ風を伴い、横薙ぎに鈍器が振るわれる。
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「なっ……!?」
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加速する鉄球を避けきれず、
咄嗟に中村さんが大剣を盾にした。
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ゴウゥゥン――ッ!!
耳が痛くなるほど、金属のぶつかり合う轟音が鳴り響く。
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次いで、衝撃に耐えきれず中村さんの身体が、
風に散る火の粉同様に薙ぎ払われてしまう。
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「ぐはっ!?」
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風までは防ぎきれず、中村さんが背中から木に(BROKEN:8_20)
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よろめきながら体勢を立て直そうとした時、
ゆらりと影が彼女の足下から這い上った。
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「利き手もーらい」
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ゴキッ――と鈍い音が耳に飛び込んでくる。
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「ぐあああぁっ!!」
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ヤヤに掴まれた中村さんの左腕が、あらぬ方向へ曲がっていた。
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握っていた大剣が虚しく地面に転がり落ちていく。
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「ぐうぅっ!(BROKEN:8_20)
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激痛に顔を顰めながらも、
中村さんが残った右手に炎を集束させる。
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蒼い炎を横薙ぎにしてヤヤを狙うが、
その姿が再び掻き消えてしまう。
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目で追えないほどの速度――風を背に受けて加速している。
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「このっ!!」
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中村さんが続けざまに炎を紡ごうとするが……。
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「後ろっ!!」
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「くっ……!?」
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中村さんの背後にヤヤの姿が現れ、同時に足を払っていた。
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バランスを崩された中村さんが前のめりになって地面に倒れる。
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「一対じゃないとこんなものか……弱いなぁ」
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ヤヤの握る鎖がジャラリと音を響かせた。
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<RB='たぐ'>手繰<RB>り寄せられた鉄球が地に転がる中村さんに狙いを定める。
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「マコ、お母さんに会いたい?」
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「……どういうつもりだ?」
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「カナもずっとそう思ってるんだよ。
(BROKEN:8_20)
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「だから、マコの希望も砕かれても仕方ないよね」
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「…………!」
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その場から転がって中村さんが逃げようとした。
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しかし、そんな彼女の折れた左腕をヤヤが踏みつける。
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「ああああああぁっ!!」
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「うるさいなぁ……でも、これでおしまい」
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ヤヤの鉄球が蠢き、その場でのたうった中村さんを狙う。
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それも急所、確実に死へ追いやる頭部に鈍器が迫る。
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とても守りに入れる状態ではない。
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「ヤヤ、ダメっ!!」
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声を上げ、私はその場から飛び出す。
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「……カナ、やっぱり来たんだ。
(BROKEN:8_20)
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ヤヤに私の声は届いた。
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でも、聞き分けてくれることはなく、
無情にも中村さんへ鉄球が――落とされる。
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「あ…………」
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「……な、なに……?」
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寸前、冷気が迸ったかと思えば、
中村さんを防ぐ盾を構成した。
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「何をしているっ!(BROKEN:8_20)
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奈岐の怒声が響き、中村さんがその場から転がる。
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その直後、ドンッと冷気の盾を砕き、
鉄球が地面に窪みを作った。
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もし当たっていれば、中村さんは今頃……。
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「ナギっち……どうして?」
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巫女服を纏った奈岐が私を横切り、ヤヤへ歩んでいく。
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「殺せば、その魂が穢れに呑まれるぞ」
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「それに何かあれば、と鼎に頼まれたからな」
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「ここで見逃したら、またカナを狙うかもしれない」
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「だったら、その時に鼎を守れ。
(BROKEN:8_20)
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奈岐がその瞳にヤヤを映し、彼女の魂を見定める。
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「もう戻るつもりは無かったんだけどね」
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「それを私に言ってどうするか」
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「とにかく中村真琴は私が回収する。聞きたいこともあるしな」
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「鼎、禰津は任せたぞ」
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奈岐は冷気を星霊石に戻すと、
地に倒れたままの中村さんへ歩んでいく。
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「……ヤヤ」
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「…………」
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禍々しさすら感じたヤヤの力が星霊石に戻る。
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「隠してたのって、こういうことだったんだね」
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「……かっこ悪いところ見られちゃったなぁ」
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「それで、どっちにしても戻ってこないつもりだったんだ」
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「…………」
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ヤヤがそのまま黙り込んでしまう。
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そこにいつも明朗な彼女の姿は無い。
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さっきまでの空気に呑まれたかのように、
陰鬱とした視線はつま先へ落ちていた。
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「勾玉が返ってくれば、それでいいってわけじゃないんだよ」
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「ヤヤと引きかえに戻ってきたって嬉しくない」
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「…………」
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「…………」
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「歯、食いしばって。言ったからね」
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私の言葉にヤヤが目を閉じる。
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それを見てから、私は平手を振りかぶり――。
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パンッとヤヤの前で自分の手を(BROKEN:8_20)
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「えっ?」
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「直前まで正直引っぱたいてやろうと思ってた。
(BROKEN:8_20)
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「私はいつものヤヤが嘘だなんて否定はしないし、
(BROKEN:8_20)
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「全部含めたヤヤを知ることが出来た。
(BROKEN:8_20)
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「嫌いになるとか、ひいちゃうとか、勝手に決めつけない。
(BROKEN:8_20)
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「私を好きだって言ってくれたなら、逃げないで欲しい。
(BROKEN:8_20)
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「以上、私のわがままとお説教でした」
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唖然としたまま、ヤヤが私を見ている。
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気付けどころか、少しびっくりさせすぎたかもしれない。
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「……カナ?(BROKEN:8_20)
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「ん、もっと何か言った方がいいの?」
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「だって、ヤヤは……」
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「勝手にどこかに行こうとしたこと以外、
(BROKEN:8_20)
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「カナは……ヤヤが怖くないの?(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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「ヤヤは私を怖がらせたいの?」
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「そんなこと……」
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「じゃあ、平気だよ。今までと変わらない。
(BROKEN:8_20)
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「…………」
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ヤヤは僅かに息を漏らした後、少し涙の滲んだ目を向けた。
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「カナ、ごめん……」
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「ふふっ、それは何のごめんかな?」
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「……黙って出て行ったこと」
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「うん、次また同じことしなければ許すよ」
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落ち込んだ表情のヤヤに微笑みかける。
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すぐには笑ってくれなかったけれど、いつものヤヤのように、
優しい目をしてくれた。
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「カナ、これ、受け取っておいて」
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ヤヤが勾玉を差し出してくれる。
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「うん、ありがと」
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受け取った勾玉から僅かに熱を感じた。
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間違いない、本物だ。
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ようやく手元に戻ってきてくれたと胸に抱く。
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「話は済んだか。思い通りにはいかなかったな、禰津?」
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からかうように言いながら奈岐が私達の元へ歩んでくる。
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「……ナギっち、最初からお見通し?」
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「さあ、どうだろうな?」
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肩をすくめた後、奈岐が改まった表情を見せた。
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「さて、中村真琴だが……利き手が完全にへし折れている。
(BROKEN:8_20)
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「つまり儀式に間に合わない?」
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「そういうことだ。これで松籟会がどう転ぶか。
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中村さんが戦線離脱となれば、他に巫女候補を当てるしかない。
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ただ残された時間は?
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「ナギっち、儀式の予定はいつか分かったの?」
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「一週間以内は確実だが、明日行うつもりだったかもしれないし、
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そう言った後、奈岐が中村さんへ振り返る。
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中村さんは木を背に、座り込んだまま、荒い息をついていた。
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「聞いてみるのも手だが……必要以上の情報は知らされていない
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「痛みを堪えてる分だけ響くんだ」
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奈岐が自分のこめかみを人差し指でつつく。
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「とりあえず、寮にまで戻った方が良さそうだね」
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「私はこの件で動きがあるか探ってみる」
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奈岐に頷いた後、怪我をした中村さんのもとへ向かう。
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「肩を貸すから、寮まで歩ける?(BROKEN:8_20)
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「高遠……何故、私を助けた?」
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中村さんの顔色は青く、冷や汗が幾筋も頬を伝っていた。
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折れた腕が相当痛んでいるのだろう。
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「私のお母さんがしたこと、それが何か分からないうちに、
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「ちゃんと謝ることも出来ないし、責任も取れない」
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「…………」
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「フッ……おかしな奴だな。
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「だから、やりかえす――
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「もうしないで、とか……勾玉のこと黙ってて、とか……
(BROKEN:8_20)
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中村さんの状態に言及すると、彼女は痛みを堪えながら、
ふらふらと立ち上がる。
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「……一つだけ答えてくれ。お前達、母さんをどこへやった?」
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問いに対しての回答を持ち合わせていないので、
ヤヤと奈岐に振り返った。(BROKEN:8_20)
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「ヤヤはホントに知らない。ナギっち?」
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「私は鼎と違ってぬるくないぞ。
(BROKEN:8_20)
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何やら言いかけた奈岐の髪をもふもふしておく。
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「か、鼎っ、まだ話をしているところだっ……!」
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「ちゃんと言わないと、もふもふし続ける」
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「はぁ……今は理事長達のところにいるはずだ。
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正直に喋ったので、もふもふを終了しておく。
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「……そうか、分かった」
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中村さんは安堵した表情を見せた後、苦しげに息を漏らす。
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早く病(BROKEN:8_20)
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その後、理事長達の元へ向かう奈岐と別れて、
私達は帰路を急いだ。
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勾玉こそ戻ってきたけれど、奈岐の言った通り、
中村さんが巫女を務めるのは難しい。
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必ず動きがあるのは確かなこと。
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それが最悪の方向に転ばないように今は願っておく。
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seisai_no_resonance/sce07_03_03_1.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)