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seisai_no_resonance:sce06_04_22_1
ぽたぽたと海水を滴らせながら、二人して森を進む。
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いつもとは違った方角へ向かい、
幾重にも重なった茂みを掻き分けていく。
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そうして、ひときわ開けた場所に出ると、
眩い光が私の目に飛び込んでくる。
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その光が水面に反射した月明かりだと気付く。
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ため池?(BROKEN:8_20)
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「すごい……綺麗」
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夏を間近に控え、鬱蒼とした生い茂る草木を抜けた先には、
水底が見えるほど澄んだ池があった。
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「――奈岐のとっておきだ。
(BROKEN:8_20)
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「こんなに綺麗な場所なのに?」
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「島の北側は禁足地に近い。島で寄りつく者なんていない」
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そんな北側を私と奈岐は毎晩のように出歩いていたわけだけど。
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奈岐はフッと笑ってから屈むと、池の水面に手を伸ばす。
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「冷たくて気持ちがいい。べたべたした海水も洗い流せる」
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「ホント?」
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奈岐の声に誘われて私も水面に触れる。
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指先が冷たさに少し驚くけれど、
それ以上の心地良さがあった。
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この感じ、まるで誰かさんとそっくりだ――。
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「……何の話だ」
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「あはは……」
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覗かれていたのか半眼で睨まれてしまう。
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私は立ち上がりつつ笑顔で誤魔化しておく。
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「じゃあ奈岐が先に水浴びして。その間に服を洗っておく」
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「でも……」
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「ほら、海に落っこちたのは私のせいだし」
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「いや、そうじゃなくて……その……」
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頬を赤く染めた奈岐が私から顔を背ける。
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「恥ずかしいから……あまり見ないでほしい」
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「あ、そういうことか。うん、分かった」
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そういえば、同じ部屋になってからも着替えは別だったような。
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奈岐が恥ずかしがり屋なのはよく知っているし。
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「じゃあ……」
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と、木陰の向こうに行ってしまう。
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ここからでは、茂みやら奈岐の身長の関係もあってか、
僅かに揺れる髪の毛が見える程度だった。
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そうして少し経った後、木の枝に奈岐の制服がかけられる。
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「制服、一緒に洗っておくね」
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「……頼んだ」
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奈岐の制服を手に取る前に自分の服も脱いでおく。
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海水をたっぷりと吸ったパーカーやキャミを見ると、
嫌でもこの島に来た直後のことを思い出す。
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もうあれから一ヶ月と少し――。
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長いようで短くて、一日一日がとても貴重な日々だった。
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気が抜けないとも言うけれど、と内心で苦笑しつつ、
ズボンに手をかける。
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パシャッ――と小さな水音が聞こえ、奈岐が池に入っていく。
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あまり見ないように言われたので、視線を明後日に向けながら、
私は二人分の服を池に浸して海水を洗い落とす。
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服を絞って水気を切り、近くの枝にかける。
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しわになるだろうけど、ずぶ濡れで帰るよりはマシだろう。
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さて。
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さて、暇になった。
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「…………」
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下着も洗ったので、全裸で佇んでにいると、
色んな意味で開放的な気持ちになれる。
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あと何だか虚しい。
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「んー。あまり、あまり見ない――か」
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だから魔が差したのだと、
そういうことにしておこう。
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私は水面に足をそっと伸ばし、木の陰の向こうを覗く。
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足先から広がっていく波紋が、もう一つの波に重なる。
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その小さな波に気付いたのか――。
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月明かりを受け、銀色に見える髪から雫が散った。
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広がっては重なる水面の波紋、
その先に私の知らない奈岐がいる。
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季節外れの雪を彷彿させる白い肌が外気にさらされ、
髪色もあいまってか、幻想的な光景を醸し出す。
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おとぎの国で妖精でも見ているような気持ちになる。
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「…………」
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息を呑む音の後、僅かに驚いたような瞳が私を捉えた。
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「…………」
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もし奈岐に見つかったら、笑って誤魔化したり、
冗談を言うつもりだったけど、どうしてか言葉が出てこない。
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ああ、そっか……私も奈岐の姿に息を呑んでいたんだ。
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だから何も言えなくて。
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「鼎……?」
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奈岐が不思議そうに私の名前を呼んでいた。
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声を聞いてから数回まばたき――ようやく唇が動いてくれる。
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「えっと……つい」
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ようやく口から出たのは正直な言葉だった。
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こうして見られている以上、何を言ってもバレてしまうけど。
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「……あまり見ない約束」
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「えーっと……」
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半眼で言われてしまい、慌てて視線を上へ向ける。
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広がる夜空に瞬く星々も綺麗だけど、やっぱり私の視線は――。
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「…………」
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素直にも奈岐へと戻ってきてしまう。
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「あはは……」
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「はぁ……鼎、奈岐はこの肌が嫌いなんだ。
(BROKEN:8_20)
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「白くて綺麗なのに?」
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そんな会話を以前にもしたような気がする。
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あの時は確か――髪のこと。
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髪も肌も嫌い。それはきっと間違いなく、鬼子に繋がる。
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「こんな外見でなければ……人に肌を見られると、いつも思う」
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「でも、私は綺麗だって思ったよ」
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「……それは鼎が島の外から来た人間だから。
(BROKEN:8_20)
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「見鬼のことを知らなくても、みんな鬼が怖いんだ」
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自分達と異なる外見、優れた知性、鬼という文字――
植え付けられてきた先入観が恐怖を招く。
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だけど、それは逆にも言えること。
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みんなと異なる外見に生まれ、鬼と呼ばれ、一線を画される。
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そして、本人には周囲の悪意が見えてしまう。
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だからこそ、誰とも触れ合わず、逃げ隠れ、自身の心を守る。
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そうして生きてきた奈岐と出会い、私は彼女から孤独を奪った。
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それは――これからも続いていく。
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「ね、あまり見ないから、もっとそっちに行ってもいい?」
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「……何か企んでないか?」
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「何も何も」
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笑顔で答えながら、頭の中で水浴びのイメージだけを紡ぐ。
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こうすれば、きっと何も分からないはず。
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「やれやれ……鼎も慣れてきたな」
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呆れたように言うけれど、奈岐の声色はどこか嬉しそうで。
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「ふふんっ、こういう時のため、普段から努力してました」
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私のどうでもいいような自慢にも微笑んでくれる。
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でも、恥ずかしさは消えないからか、奈岐は背中を向けたまま。
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「わ……奈岐、真っ赤だ」
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浅い水底を歩き、奈岐の側にやってくると、
その肌色のせいか、分かりやすいぐらいに照れている。
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「そんなこと、わざわざ言わなくていい……」
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「今、奈岐に触れたらダメ?」
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「……そ、それは……その……」
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さらに赤くなった奈岐が視線を彷徨わせた。
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照れてしまって、私の魂胆を覗かなかったのは――
奈岐の失敗かな、と内心でほくそ笑む。
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seisai_no_resonance/sce06_04_22_1.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)