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seisai_no_resonance:sce06_04_20_0
部屋を飛び出して視線を左右に。
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奈岐の後ろ姿がどこにも無い。
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「まさか……!」
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手すりに駆け寄り、階下にあるロビーへ視線を落とす。
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ドッ――。
奈岐がロビーに着地すると同時に冷たい風が頬を撫でる。
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三階から飛び降りて、着地の衝撃を冷気で受け止めた……?
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さっき私を吹き飛ばした時の応用だ。
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出来るかもしれないとは思ったけど、
いきなり、こんな状況で成功させるなんて――。
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「――――」
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私の視線に気付いた奈岐が一階の廊下へ逃げ出す。
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既に寮は消灯しており、正面のドアは鍵がかけられている。
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奈岐はいつもの空き部屋から外に出るに違いない。
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急がないと――寮の外に出られたら、どこへ行くのか分からない。
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奈岐のような真似は出来ないから、一階へ続く階段に向かって
全力で私は駆け出す。
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窓枠を蹴り、土の上に着地する。
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「奈岐は……!?」
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再び視線を左右――見当たらない。
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焦る気持ちを落ち着けながら、ぐるりと回りながら周囲を確認。
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いない、どこにもいない。
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森か学園の方へ逃げたのか、せめて何か分かる方(BROKEN:8_20)
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考えはするものの、その場で立ち止まってはいられずに、
私は靴底で土を踏み、歩きだそうとした。
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「…………これだ」
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自分が残した足跡のすぐ近く、
走り抜けたような小さな足跡を見つける。
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奈岐の足跡だ。
向かった方向は……森の中!
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僅かに残る足跡を目で追いながら、私は夜の森へ入っていく。
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視界はさらに最悪になった。
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目を凝らさないと、奈岐の足跡を辿りことが出来ない。
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だから、私は走るわけじゃなくて、
足跡を確認しては早足で進み、確認しては進むの繰り返し。
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これじゃ……追いつくどころか、引き離されてしまうばかりだ。
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「――――」
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ここまで続いてきた足跡へ振り返り、
そして続いていく足跡へ目を凝らす。
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どこか目指しているのなら、その場所さえ分かれば、
全力で追いかけることが出来る。
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寮を出て、森を北へ――いくつもの場所が頭をよぎっていく。
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その中でも印象強く記憶に残っている場所。
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奈岐と一緒に何度も行って、御魂の訓練や色んな話をした場所。
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その浜辺で……もし私の勾玉を捨てるとしたら?
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ううん、違う。浜辺じゃない。
浜辺で勾玉を捨てるより、もっと効果的な場所から捨てるはず。
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あの絶壁から勾玉を捨ててしまえば……きっと回収出来ない。
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岩場は浜辺からもそんなに遠くないし、方角も合っている。
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「奈岐……はやまらないで」
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地面の足跡を追っていた視線を真っ直ぐへ。
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目的地はきっとあそこ――外れたら目も当てられないけど、
追いつけずに終わるよりは、きっとマシだ。
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小さく息を吸い込むと、私は岩場へ向かって走り出す。
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追いつける、きっとまだ追いつけるはず。
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そう信じて、そう繰り返して、息を切らせながら森を突っ切る。
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「はぁっ、はぁっ……!」
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岩場に出ると視界が開けた。
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月の明かりを光源に、荒々しい岩の山が照らし出されている。
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肩で息をする間隔は短く、私の体力は既に限界に達していた。
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額から滴る汗が目に入らないように、手の甲で(BROKEN:8_20)
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「奈岐……」
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探し人の名前を呟きながら、残り僅かな気力を振り絞って、
岩場を歩き始める。
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カタッ――その時、耳に届いたのは小石が転がり落ちていく音。
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吹き付けてくる潮風の仕業?
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でも、僅かな違和感を感じて。
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「奈岐――」
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私は奈岐の名前を呼んだ。
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まるでそこにいると、知っているかのように堂々と振る舞う。
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幸か不幸か、私の予感は的中してくれた。
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「……どうして追いつけた?」
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岩の陰から色素の薄い髪を揺らし、
奈岐がゆっくりと輪郭を顕わにする。
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「きっとここかな、っていう勘だよ」
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「勘か……裏をかけば良かったとも思ったけど、
(BROKEN:8_20)
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「どういうこと?」
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奈岐が左腕を水平にして、真っ暗な海へ向けた。
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その手に握られているのは――私の勾玉だ。
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「これが無くなるところを見せれば、鼎はもう諦めるしかない」
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「こんなことをして、許されるなんて思っていない。
(BROKEN:8_20)
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「鼎が奈岐と一緒にいてくれなくなっても……
(BROKEN:8_20)
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奈岐の瞳に迷いは見られない。
代わりにあるのは強い意志だった。
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「だから、この石を捨てる。鼎を巫女にはさせない」
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一定の距離を保ったまま、奈岐と正面から向かい合う。
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「奈岐、私は約束を守るよ」
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「指切りしたよね?(BROKEN:8_20)
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「奈岐も約束を守るために……これを捨てる。
(BROKEN:8_20)
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奈岐の言葉を噛み締めるようにして一歩前へ。
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「奈岐、私は約束を守る。何があっても独りにしないよ」
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「もし巫女になったら……守れない可能性の方が大きい」
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「奈岐、私は死なないよ。穢れになったりもしない」
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力強く――想いが伝わるように言葉を口にした。
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見鬼の術で視るだけじゃ決して伝わらないぐらいの想いを込める。
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「鼎の言葉は信じたい……でも根拠が無い。
(BROKEN:8_20)
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僅かにだけど、奈岐の瞳が迷いに揺れた。
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「奈岐、そのままでいいから聞いて」
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「穢れになった巫女達のことを覚えてるよね?
(BROKEN:8_20)
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穢れに堕ちても、最期の記憶だけは残し続けていた。
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この島で起きている事実と、自分達が存在を伝えるため、
穢れに堕ちる瞬間まで――記憶を残してくれていた。
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「巫女の中には、私や奈岐と同じ想いを抱えた子達もいたと思う。
(BROKEN:8_20)
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「そんな想いをもう繰り返させたくない。私にはそれが出来る」
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「穢れになった巫女達を。これから先、巫女になる子達を――
(BROKEN:8_20)
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目を伏せた奈岐が、私の意志を否定するように首を振った。
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「それは希望でしかない。巫女が救われる方(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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「そんな一か<RB='ばち'>八<RB>かの望みになんて賭けられるわけが無い」
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「だから――これ以上の話し合いは無駄だ」
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奈岐の左手が勾玉を強く握り締める。
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「奈岐、私は守るから。約束も、これからの巫女達も」
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「なら、奈岐は鼎だけを守る……それで、それだけいいっ!」
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奈岐の左手が大きな弧を描いていく。
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肩から指先まで真っ直ぐに伸びきった腕、
その手から勾玉が放たれる。
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底が知れない暗い海へ向け、勾玉が投げ捨てられた。
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「奈岐――守ってくれるって、信じてるから」
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この瞬間を逃さずに、私は中空へ向かって跳ねる。
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腕を伸ばし、海へ放たれた勾玉を掴み取ろうと、
私は崖の先端から飛び出す。
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ほんの一瞬だけの浮遊感の後、数十メートル下にある海面へと
強烈に引き寄せられる。
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「届いて――!!」
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振るった指先に、勾玉を繋ぐ紐がかすれた。
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あと一歩、届かない。海面まで数秒も無い。
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だから、これがきっと最後の悪足掻きになる。
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「――燃えろッ!!」
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開いた手を拳に変え、勾玉の力を解放させた。
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視界の端、火の粉が無数に並ぶ赤い線を引いていく。
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海面にぶつかるまでに、勾玉を巫女の力へ変えることが出来れば、そんな最後の悪足掻き――。
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でも、そんな悪足掻きも一秒に満たない時間が足らない。
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そう確信出来ても、私は力の解放を止めずに――。
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奈岐を信じた。
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「鼎っ!!」
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明らかな怒声。でも、遠くない。すぐ近くに聞こえた。
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そして、私の周りに火の粉だけでなく、冷たい氷が舞い始める。
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「衝撃に備えるっ!!」
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星霊石を輝かせ、落下を加速させ、奈岐が私に追いつく。
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私の身体に回される細くて白い腕――それを確かに感じながら、
奈岐がくれた一瞬という時間に全てを賭ける。
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熱という熱を爆発させ、勾玉を炎へ変化させていく。
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「くっ――!」
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「このっ!!」
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海面が手に届く距離で奈岐が星霊石の輝きをさらに強めた。
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寮の三階から飛び降りた時と同じように、
衝撃を受け止められる力を解き放つ。
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同時に私の身体が炎を纏っていくのを感じた。
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きっと、間に合った――!
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でも。
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視界が夜の海に飲まれ暗転した。
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衝撃を和らげたとはいえ、海面に(BROKEN:8_20)
やってきて、集中力が途絶えそうになる。
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だけど、身体を包む力の本流は、まだ私の感覚の中にあった。
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力が発現しているなら――今度は私が奈岐の腕を取り、
海底へ引き寄せる波の揺らめきに抗う。
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力に力をぶつけ、海面へ――!
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seisai_no_resonance/sce06_04_20_0.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)