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seisai_no_resonance:sce06_04_19_0
翌朝、体調不良で授業を休むことを伝えた。
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何も食べる気が起きず、ベッドに転がりながら、
怠惰な時間を過ごしていく。
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それは奈岐も同じだった。
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同じシーツにくるまりながら、私の手を握って離さない。
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時折、何かを求めるように私の顔を見つめることもあった。
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たぶんその行為が意味するところを私は気付いていた。
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でも、こんな気持ちで何かに応えることなんて出来ず、
奈岐の頭を抱くことが精一杯だった。
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何度か浅い眠りを繰り返している間に、
もう西日が差し込む時間になっていた。
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寝返りを打つと、隣で奈岐が微かな寝息を立てている。
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どこか安堵しながらも、あどけなさの残る顔立ちを見つめると、
視線が逸らせなくなっていく。
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逃げ場を求める感情か、それともずっと前からそうだったのかも
しれない気持ちか――彼女を求めたいと思った。
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抗えず、引き寄せられるように、奈岐の寝顔に顔を寄せる。
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「…………」
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そして、唇が触れ合いそうになった時に思いとどまった。
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何をしているんだろう――
と自問が胸を苛んできたのだ。
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「……どうして?」
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うっすらと瞼を開けた奈岐から声が聞こえる。
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「ダメじゃないよ……?」
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甘い囁きは胸を高鳴らせた。
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彼女にもっと触れたいという欲求をかき立てていく。
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「今の私じゃ、ダメだよ」
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「関係ない……奈岐は鼎が好き」
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きっと私も同じ気持ちだから、その言葉の意味は分かる。
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だからこそ、彼女に触れたい。彼女を求めたい。
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でも、最後のどこかで私を止める感情があった。
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奈岐が女の子だからとか、そんなのじゃなくて……。
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現実から逃げ出したい気持ちを抱えたまま、
彼女と触れ合うようなことはしたくなかった。
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「私も奈岐が好きだよ。でも……今はゴメン」
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「鼎……うん」
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そんな私を許してくれる声に誘われて、
奈岐の肩に頭を預ける。
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そして、私は声もあげずにまた涙を零していた。
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もう一日が終わろうとしていた。
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時間の流れとともに角度を変える月明かりを、
奈岐と一緒に眺める。
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ベッドに座り、壁にもたれ、寄り添い合ったまま、
ただ時が流れていく様を見ていた。
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こうしていると、どこか現実から切り離されているかのような感覚に陥っていく。
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この部屋だけが自分達の世界で、それ以外には何も無い――
そう思えてしまった。
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「……それはいいかもしれない」
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私を覗き込んでいた奈岐が少しだけ楽しそうに呟く。
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「ここ以外には何も無い……奈岐はそう思いたい」
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手を重ねてきた奈岐が柔らかく微笑む。
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「……そう、だね」
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目を閉じてしまえば、繋がる感覚は奈岐だけになる。
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目を閉じてしまえば――。
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時間の流れが曖昧になっていた。
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昼過ぎに目が覚めて……。
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違う……その昼過ぎに目を覚ますのは何回目だろう?
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曖昧な記憶を探りながら、身体を起こす。
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「鼎、起きた?」
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奈岐がミネラルウォーターのボトルを差し出してくれる。
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先に起きていたのか、それとも寝ていないのか、
奈岐は壁にもたれた姿勢のままだった。
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「今って……いつだっけ?」
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私はミネラルウォーターを受け取りながら奈岐に訊ねる。
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「こうするようになって、朝日を見たのは二回目」
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「そっか……」
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思ったよりも時間が進んでいない。
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今の今までが忙しなかっただけかもしれないけれど、
不思議な感覚だった。
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「お水、ありがと」
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私は奈岐にペットボトルを返すとベッドで横になる。
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今日、授業を欠席するって……連絡入れてないな。
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そんなことを思いながらも、私は再び目を閉じてしまう。
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また一日が終わろうとしていた。
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傾いていく月明かりを奈岐と一緒に眺める。
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ただそれだけの時間は、現実をかけ離れた自分達の世界。
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それ以外には何も無い――きっと何も無い。
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「……何も無くていい。鼎だけでいい」
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「…………」
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繋ぎ合った手に視線を落とす。
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目を閉じて、耳を塞ぎ、この感覚だけに浸ってしまえば……。
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「…………」
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ふとシーツの上を彷徨った手が勾玉に触れる。
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いつもは僅かな温もりを感じさせてくれた勾玉が、
今は何故か焼けるように熱く思えた。
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ドクンッ――と。
その熱が沈んでいた意識を僅かに揺さぶってくれる。
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「えっ……」
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生まれたのは疑問だった。
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本当にこのままでいいの?
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また明日も、それから明後日も繰り返すだけでいいの?
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この部屋は自分達だけの世界かもしれない。
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でも、実際は違う。
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現実で何が起こっているかを私は知っている。
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私はもう知っているんだ。
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そう……今晩もこの島では穢れが徘徊し、
呪われた自身の姿に悲鳴をあげているだろう。
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その事実を知っているのは限られた人のみで、
知らない者からすれば、穢れという怪物の叫びだ。
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穢れが何であるかを知るまで、私もそう思っていた。
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でも、私は知ってしまった。
なのに、目を閉ざそうとしている。
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どうして?
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そこまで来て、ようやく言葉らしい言葉が頭に浮かんだ。
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お母さんに会うという目的が霞んでしまったから?
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お母さんの身勝手に怒りを感じてしまったから?
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「私……それでいいの……?」
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「……鼎?」
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隣にいる奈岐が私へ視線を向けた。
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私の異変に気付いた見鬼の視線だ。
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でも、そんな奈岐に気を留めず、私は自問自答を繰り返す。
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私は事実を知ってしまった――
それなのに、目を閉じようとしている。
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私はこんな人間だった?(BROKEN:8_20)
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違う。すぐに否定出来る。
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怒りに我を忘れて、奈岐と一緒に失意のどん底にいるかのような
時間を過ごす――それが私?
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「違う……違う。知っているなら、動かないと」
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「お母さんに会うって目的が分からなくなっても……
(BROKEN:8_20)
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「だから……立ち止まっちゃいけないのに」
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そう、立ち止まっちゃいけない。
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私は知っているんだ。
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この織戸伏の島で何が起こっているかを、
私はもう知っているんだ。
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指先で触れていた勾玉を握り締める。
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穢れを生む連鎖、それを断ち切る方(BROKEN:8_20)
実行しないといけない。
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でないと、今年もまた誰かが犠牲になる。
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私の知っている巫女候補の誰か二人が穢れになってしまう。
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知っているなら。
知ってしまったなら。
行動しないといけない。
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これは正義感?(BROKEN:8_20)
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似ているけれど、少し違うかな。
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たぶん……お母さん譲りの性格なんだと思う。
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負けず嫌いで頑固で融通なんて利かなくて――
でも、どこまでも真っ直ぐだった。
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だから、私も真っ直ぐに、立ち止まらずに進むんだ。
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「ねえ、奈岐……私、決めたよ」
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「この織戸伏島が望んでいる巫女じゃなくて、
(BROKEN:8_20)
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「私は自分の意志を貫くための巫女になるよ」
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私も私の気持ちに従って、真っ直ぐに進むんだ。
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真実を知ってしまったから、進まずにはいられないんだ。
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「……鼎」
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「お母さんも同じことを誰かに言ったかもしれない。
(BROKEN:8_20)
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「私は――この島の因習を断ち切る巫女になるよ」
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穢れの記憶で見た絶望を繰り返さないためにも、
事実を知った私が立ち止まっちゃいけない。
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変えたいと思ったからには行動するんだ。
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でも――。
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「鼎……それは唐突すぎる。感情だけで行動しようとしてる」
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「そうかもしれない。でも、今こうして塞ぎ込んでいるのも、
(BROKEN:8_20)
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「なら、このまま突き進みたい」
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奈岐は否定するかのように首を横へ振る
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「鼎……巫女は一対の存在だ」
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「たった一人だけで体現出来る力は限られている。
(BROKEN:8_20)
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繋ぎ合っていた奈岐の手がいつの間にか離れていた。
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「因習を断ち切る?(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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「奈岐、私は少なくとも穢れのことを知った。
(BROKEN:8_20)
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奈岐がベッドを離れ、私と向かい合う。
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その鋭い視線はきっと心の底まで見透かしている。
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「鼎は一人でもあの場所に行くつもり?」
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「……そうだね、他に方(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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「奈岐は賛成出来ない。鼎を失うことになる……
(BROKEN:8_20)
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「でも、誰かが止めない限り、毎年犠牲が生まれる」
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「そんなこと、奈岐達には関係ない」
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「そうだったかもしれない。でも、私も奈岐も穢れの記憶を見た。
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「知るだけで命を賭けるような責務は発生しない」
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「でも、私には見捨てることなんて出来ない」
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「鼎の母や末来の方(BROKEN:8_20)
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「それでも、成功する可能性があるから、
(BROKEN:8_20)
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「私が思い通りに動くとは限らないけど、
(BROKEN:8_20)
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「…………」
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奈岐の言葉に対し、考えるよりも先に口から反論が出ていた。
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幸か不幸か、考えを読まれずに話は平行線のまま。
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「巫女は一対となってこそ、力を発揮することが出来る。
(BROKEN:8_20)
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「……こんなことを手伝って欲しいなんて言えないから、
(BROKEN:8_20)
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「鼎……」
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奈岐がベッドにいる私へ歩み寄る。
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その視線は今までにないほど険しく――
だけど、その目尻には微かに涙の粒が浮かび上がっていた。
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「奈岐は鼎を失いたくない。そのためだったら、何でもする」
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「他の巫女が穢れに堕ちても、奈岐はそれを見ないし、
(BROKEN:8_20)
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「鼎がいてくれるなら、それでいい……だからっ!」
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突然、奈岐が伸ばした手から冷気を感じた。
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「――ッ!?」
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冷たい風が衝撃となって駆け抜け、私は背中から壁にぶつかる。
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奈岐が星霊石の力を使った……?
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「鼎を巫女にはさせないっ!(BROKEN:8_20)
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壁に少し強く打ち付けた頭を振るい、壁から身を起こす。
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その時、腰に下げていた勾玉が無くなっていることに気付く。
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「……奈岐、私の勾玉を!?」
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奈岐の右手には自分の星霊石、
そして左手には私の勾玉が握られていた。
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「こんなものさえ無ければ……!」
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問いかけには答えず、奈岐が部屋の入口へ駆け出す。
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「奈岐、待って!(BROKEN:8_20)
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私の声に立ち止まらず、奈岐が部屋から飛び出していく。
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勾玉が無ければ、巫女の力は使えなくなる。
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私を巫女にはさせない――
そう言った奈岐の声が頭に反響した。
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言って聞かない私に対して、最も端的な実力行使かもしれない。
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でも、確実な方(BROKEN:8_20)
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「……奈岐っ!」
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声を上げながら、すぐに私は奈岐の後を全力で追いかけた。
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seisai_no_resonance/sce06_04_19_0.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)