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seisai_no_resonance:sce06_04_18_0
半ば逃げ込むようにして、私は部屋に戻ってくる。
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息を乱したまま、ドアに鍵をかけた後、
手の甲で涙の跡を(BROKEN:8_20)
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「奈岐、起きてる?(BROKEN:8_20)
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出来るだけ気丈に振る舞おうと笑ってみせる。
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だけど、ベッドで丸まっていた姿は無く……
代わりに机の前で奈岐が俯いていた。
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「奈岐?」
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「……もう嫌だ」
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ぼそりと言葉を漏らし、奈岐が机に片手を伸ばす。
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「もう嫌だっ!」
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奈岐が手を払い、机の上に積まれた書籍を崩していく。
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「こんなものもっ……もう必要ないっ!」
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放り投げ、床に(BROKEN:8_20)
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「な、奈岐?」
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怒りの火が灯った瞳で、ノートを握り潰し声を荒げた。
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「あの男の言った通りだっ!(BROKEN:8_20)
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「惨めだっ……穢れを知ることも、島の秘密を探ることも、
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「鬼と忌み嫌われ、独りだった自分を誰かに見て欲しかった……」
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今まで記録をつけていたノートを奈岐が引き裂く。
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「でも、真実に辿り着いてしまったら……もう何も出来ないっ」
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「穢れのことも、巫女のことも……儀式も、生贄もっ!
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「奈岐は……また、独りになるっ……」
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散らばった紙の上に、奈岐が膝から崩れ落ちる。
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そして、嗚咽が漏れ、静かな部屋に響き始めた。
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「……奈岐」
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返事は無くても、言葉を続けていく。
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「下の階で末来さんと話して……私も色々知っちゃったよ」
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ベッドに座り、持っていたトレイを放り出す。
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「私ね、何だか分からなくなっちゃった」
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「お母さんに会いたいって気持ちで飛び出してきたのに……
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長い息を吐き出し、背中からベッドに倒れ込む。
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「感情的になってて……今の自分が分かんないよ」
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「それは奈岐も同じだよね、きっと」
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そう言葉にした時、身体に僅かな重みと温もりがのしかかる。
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目に映ったのは、仄かな月明かりに煌めく猫毛だ。
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奈岐が私に抱きついてきたんだと分かった。
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だから、その細くて軽い身体に手を回して抱きしめる。
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「奈岐に何か伝えないといけないって思うんだけど……
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「奈岐に……言葉なんていらない」
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「そっか。でも、しばらく……こうしてていい?」
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すぐに頷いてくれた奈岐の髪を撫でていく。
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柔らかい猫毛の感触が心地良い。
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「奈岐は……調べてたことが分かっちゃったから、
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「……鼎が奈岐といる理由も希薄になる」
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「調べていたことは……一段落ついたもんね」
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穢れのこと、巫女のこと――お母さんのこと、末来さんのこと。
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どれも直視したくないような答えばかりだった。
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私は決してお母さんや末来さんに裏切られたわけじゃない。
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ただ……私の気持ちなんて置き去りにされていたことが
何よりも辛かった。
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七年もずっと放り出した挙げ句、私の気持ちなんて見向きもせず、また置き去りにしていこうと思っている。
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だからだろうか、無意識に唇から弱音が溢れ出す。
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「でもね、今の私……奈岐がいないとダメになる」
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胸が痛くなって、涙が止まらないのに……
こんな自分が滑稽で笑えてくる。
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もうお母さんなんて知らない。そう考えることは出来るのに、
気持ちが否定してくるのだ。
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やっぱり会いたい、でももう知らない。
それでも、お母さんに会いたい。
だけど、もうお母さんになんて――。
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感情と思考が入り混じっていくのが可笑しくて、
また乾いた笑いが唇から漏れ出す。
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「あはは……私、ホントにもう……」
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「鼎……もう止めよう……」
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今にも消えてしまいそうな声で奈岐が呟く。
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「もう巫女に関わるのは止めよう……」
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「奈岐も……鼎がいないと……もうダメだよ……」
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奈岐が私の肩に顔を埋めてしゃくり上げる。
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「巫女に関わる……こと……」
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それは勝手にいなくなったお母さんが……
押しつけてきた現実を受け入れること。
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ずるいよ、そんなのずるすぎる。
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会いたかったら――もし会いたいと思うなら、
その選択肢が一つしか無いなんて卑怯だよ。
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「奈岐……」
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「私……私、分からないよ……」
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この島に来て、ううん……今の今まで生きてきて、
初めて自分がどうしたらいいのか、本当に分からなくなった。
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何も考えたくない気持ちだけが身体中に反響する。
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「鼎、分からないなら分からないでいい」
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「ただ……こうしていよう?」
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泣き腫らした顔をあげ、それでもまだ涙をたたえた瞳で、
奈岐が私を見上げた。
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「そうだね……うん、奈岐とこうしてると……落ち着く」
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互いの身体を抱きしめ合ったまま、
暗い部屋の中、ベッドを転がる。
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間近にある奈岐の頭を引き寄せ、頬を擦り合わせた。
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涙で湿った頬に感触が胸を少しだけ痛ませる。
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「鼎……奈岐は……」
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「……ん?」
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「ううん……なんでも、ない……」
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微かに頭を振るった後、今度は奈岐から頬を擦り合わせてきた。
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それが少しだけくすぐったくて、でも不思議と心地良くて、
触れ合っていたい気持ちが高まる。
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だから、私は奈岐を離さないようにと、
小さな背中に回した腕に少し力を籠めた。
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その晩――私達は一緒のベッドで手を繋ぎ合ったまま眠った。
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私も、奈岐も……独りが怖かったんだと思う。
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理事長が言った言葉――孤独が猜疑心を強める調味料なら、
その逆、猜疑心は孤独を誘発する罠だ。
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こんな気持ち……嫌だな。
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だから、私はきっと……うん、きっと……。
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seisai_no_resonance/sce06_04_18_0.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)