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seisai_no_resonance:sce06_04_16_0
洞窟から少し離れたところで理事長が立ち止まる。
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すぐ側に秘書が控え、彼と共にいたスーツ姿の人達は、
周囲を警戒するように散っていった。
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「こうしてキミと向かい合うのは久しぶりだねえ」
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「鬼が二匹揃って話しているところを、
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「最低限の気配りだよ。松籟会は年寄りが多いからね。
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どうやら周囲を警戒している理由はそういうことらしい。
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松籟会の人達がこの付近……洞窟にいるのだろうか?
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「それはどうだろうね?(BROKEN:8_20)
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しまった、頭の中を覗かれた……!
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「そうだ。だから本題に移る」
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「まったく忙しないなぁ……じゃ、今から三分だ」
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私は奥歯を噛み締め、奈岐の言葉に意識を集中させる。
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次は読まれないようにしないと――。
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「単刀直入に聞く。諏訪頼継、穢れを見鬼の<RB='すべ'>術<RB>で視たことは?」
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諏訪頼継――理事長の名前。奈岐の言葉を<RB='はんすう'>反芻<RB>しておく。
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「巫女の力を持つ者以外が穢れに遭うことの方が珍しい」
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「質問に答えていない」
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「じゃあ、こうしよう。言葉を使うより早いし――キミのためだ」
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理事長が一歩前に踏み出し、奈岐と視線を交わす。
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「意識下でやりとりを?(BROKEN:8_20)
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「僕達にとって、言葉にする時間は無駄なんじゃないかなあ」
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「……鼎、後で詳しく話す」
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奈岐は理事長を鋭い視線で見上げる。
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そして、訪れたのは無言の時間だった。
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意識や考えだけで意思疎通を行う――
それがどんなものなのか、全く想像出来ない。
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余裕めいた笑みを浮かべた理事長に対し、奈岐は睨みつけたまま。
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長い沈黙、他に聞こえる音は何も無い。
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私に出来ることは、口を閉ざし時間が過ぎるのを待つだけだった。
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そして、本当に三分近くの時間が流れた後、理事長が声を上げる。
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「あっははっ、楽しいねえ!(BROKEN:8_20)
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手を(BROKEN:8_20)
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そんな彼とは対照的に、奈岐は険しい表情を浮かべたままだった。
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「だけど、キミは鬼じゃない――そう、確か神狼だったかな?
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「くっ、黙れ……黙れ黙れっ!!」
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突然、激昂した奈岐が胸の星霊石に手をかける。
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「な、奈岐っ!?」
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大気に氷の粒が漂い始める――奈岐は本気だ。
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「頼継様、お下がりください!」
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「だーいじょうぶ、向山奈岐は僕に手を出せない」
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薄ら笑いを浮かべながら理事長が奈岐へ歩み寄る。
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「キミにとっても、僕にとっても……きっと何もかも茶番なのさ」
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「でもさ――意識下で分かっていても、言葉にしなきゃ、
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「……やめろ」
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「高遠鼎も知りたいんじゃないかな?(BROKEN:8_20)
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「やめろ……やめろっ!」
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さらに冷気が強まり、奈岐を中心に草木が凍てつき始める。
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「……孤独はね、<RB='さいぎしん'>猜疑心<RB>を強める格別のスパイスだ。
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「そして、選択の場に立たされた神狼は……利己に走る」
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「それ以上喋るなっ!!」
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怒声と同時に氷の塊が弾け飛び、突風のように冷気が駆け抜けた。
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「一応、巫女選定の席は空けておくよ」
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奈岐の怒りに動じることなく、<RB='ひょうひょう'>飄々<RB>とした調子で理事長が言う。
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「向山奈岐、これは同じ鬼としての情けだよ。
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「くっ……」
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理事長は奈岐に背を向け、戯けるようにして肩をすくめた。
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「昌次郎、時間だ。戻るよ」
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「はっ――散開した者共も定刻通り禁足地へ」
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「さーて、楽しくなってきたよ、あっははっ!」
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理事長が笑い声をあげながら、ゆっくりと奈岐を横切っていく。
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「ああ、そうそう、高遠鼎?(BROKEN:8_20)
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「えっ……?」
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理事長が私の隣で足を止め、小声で言葉を続ける。
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「狼ってね、牙より脚で獲物を狩る動物なんだよ。追いかけ、
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「…………」
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それだけ言い残した理事長は再び洞窟のある方へ向かっていく。
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その秘書は何も言わず、彼の後に続いていった。
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そして、周囲を警戒していた気配も消え――奈岐と私だけが残る。
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「奈岐……?(BROKEN:8_20)
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酷く怒った後、奈岐は黙り込んだまま、ずっと俯いていた。
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「…………」
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ゆっくりと近づき、奈岐の顔を覗くと、
その頬には大粒の涙が伝っていた。
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幾筋もの跡を残し、堰を切ったように涙が溢れ出している。
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「うっ……ぐすっ……か、鼎……鼎っ!」
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堪えきれなくなって、すがるように奈岐が私に抱きつく。
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痛いぐらいに腕を回して、がたがたと震えながら、
私に抱きつき、声も無く涙を流し続ける。
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「奈岐……どうしたの……?」
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「っ……」
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唇が震え、言葉にならなかった。
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奈岐に何が起きたのか、理事長と何を話したのか、
それは分からないけれど……。
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私は奈岐の背中と頭に手を回し、そっと抱きしめる。
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もし出来ることがあるとしたら、こうすることぐらいだろう。
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「……っ……ぅ……くっ……」
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奈岐は私の腕の中で嗚咽を繰り返す。
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怯えるような震えもおさまらず、ただ私に強くしがみついていた。
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「奈岐……」
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呼びかけても、しゃくり上げて喉を詰まらせたような声が
聞こえるだけで、落ち着く様子は無い。
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理由なんて後で聞けばいい。
だから今は少しでも奈岐の支えになろう。
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私は奈岐の頭を撫で、見た目よりもずっと細くて頼りない身体を
抱き続けた。
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それから――奈岐が落ち着いたのは数十分も後のことになる。
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泣き腫らした瞼を擦りながら、
奈岐は部屋に帰りたいと繰り返した。
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その理由は教えてくれず、ただ帰りたいと子供のように繰り返す。
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私はそんな奈岐に追及することなんて出来ずに、
彼女の手を引いて、寮へ戻ることとなった。
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seisai_no_resonance/sce06_04_16_0.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)