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seisai_no_resonance:sce06_04_12_0
地面の草花には霜が降り、夏場だというのに、
凍えるような冷気が漂っていた。
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「再生能力の高さを考慮すると、こうするより他に無いだろう」
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奈岐を中心とした氷塊が枝のように伸び、穢れの身体を拘束する。
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四肢を氷漬けにされた穢れは身動きが取れず、
幾度も耳障りな咆吼を繰り返していた。
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穢れの捕縛――氷を操る奈岐だからこそ出来る方(BROKEN:8_20)
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「鼎、平気か?」
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奈岐は自身の力を維持しつつ、私へ振り返る。
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「さすがに冷えるけど、まだまだ大丈夫」
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「予定通り、見鬼の業でコイツを視る。今は鼎と繋がっている状態
(BROKEN:8_20)
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「それって、私にも穢れの声が聞こえるかもしれないの?」
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私の問いかけに奈岐は困ったような息を吐く。
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「……《声》ならいいんだが、頭がおかしくなるような絶叫を
(BROKEN:8_20)
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「その時はすぐに目を背けないと、精神をやられるかもしれない」
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「……分かった、注意する」
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私が頷いたのを確認した奈岐が再び穢れに向かう。
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氷像と化し、頭部だけが剥き出しになった化け物の姿が目に映る。
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「さて――答えろ。何故、お前達は巫女を狙う?
(BROKEN:8_20)
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「穢れた存在よ、私の姿を見て何も分からないのか?」
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「私は鬼子だ。伝えたいことがあるならば、頭の中で言葉にしろ。
(BROKEN:8_20)
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意外なことに奈岐の言葉を聞き分けたのか、
穢れの叫び声が静まっていく。
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そして……。
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「えっ……?」
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まるで幻覚を見ているかのように、目の前がぐにゃりと歪んだ。
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視覚に引きずられて、足下が不安定になる。
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これは……何?
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「複数の思念だと……?(BROKEN:8_20)
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同じものを見ているのか、それとも全く別のものを見ているのか、奈岐が険しい顔をしたまま、穢れを睨み付けている。
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その穢れは氷漬けにされたまま、身動き一つ取っていない。
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ドクンッ――。
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耳元で一際大きな心音が聞こえた気がした。
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同時に視界が闇に閉ざされていく。
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穢れから目を逸らさないと――そう思った時には、もう私の身体は霜の降りた草木に投げ出されていた。
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闇の中、これは自分の意識でないことが分かる。
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感覚的に違う。
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誰かの意識を覗いているような感覚だ。
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それに気付いた私は……一歩後ろから、<RB='・・・'>彼女達<RB>を見ていた。
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「今の状況、把握出来ますか……?」
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「この空洞に風の流れは無い。退路は断たれている」
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「それに加え、四方を穢れ達に取り囲まれている。
(BROKEN:8_20)
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「これを祓うため……私達は巫女に?」
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「お嬢、そんなことも気付いていなかったのか」
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「私達は<RB='にえ'>贄<RB>だ。織戸伏が次の一年を無事に迎えられるための
(BROKEN:8_20)
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「で、では……松籟会は私達を殺そうとして……?」
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「さてな――鬼子といえど、自分の命は惜しい。死にたくはない」
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「生き延びる方(BROKEN:8_20)
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「一つだけ。御魂の力を私に――穢れの一角を突破。
(BROKEN:8_20)
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「っ……分かりました」
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「くっ!?(BROKEN:8_20)
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「ひ、開かないんですか?(BROKEN:8_20)
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「くっ、今やっている!(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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「外道共めっ!(BROKEN:8_20)
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「鬼が贄となる――それは構わないっ!(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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「……っ」
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「穢れが……き、来ました……でも……こ、この数は……」
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「くそっ……どうりで誰も戻って来られないわけだ」
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「奴らは私がやる。お嬢は扉を開くんだ。御魂を分かつぞ」
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「そんな無茶です……!」
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「問答する暇は無い」
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「待って下さい!(BROKEN:8_20)
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「…………」
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「お嬢!(BROKEN:8_20)
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「くっ……出血が酷い……お嬢っ、返事をしろ!」
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「私はもう……どうか、最期は人としての死を……」
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「穢れに……呑まれるのだけは……」
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「っ……」
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「分かった……それが望みであるならば」
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「すみません……ずっとあなたには迷惑ばかり……」
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「そんなことはない。お嬢は鬼子に対し、人として接してくれた。
(BROKEN:8_20)
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「ありがとう……ございます……」
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「礼を言うべきは……私の方だ」
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「はぁっ、はぁっ……<RB='にぎみたま'>和魂<RB>を欠いた時点で勝(BROKEN:8_20)
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「私の魂が穢れに呑まれ、消えるというのならば……
(BROKEN:8_20)
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「<RB='れんめん'>連綿<RB>たる因習の事実を……後世に……」
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「せめて、私達が生きた証を……誰かに……!」
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「ッ……!?」
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意識が戻り、私は慌てて身体を起こした。
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夜の森、霜の降りた草――あの薄暗い場所じゃない。
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「今のって……穢れの記憶……?」
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でも、私が見たのは巫女が穢れに喰われて……。
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あまりにもリアルな記憶だったので、吐き気すらこみ上げてくる。
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「この穢れは……もしかして、さっきの巫女……?」
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軽く眩暈を覚えながらも私はゆっくりと立ち上がった。
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「――――」
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奈岐は無言で佇み、目を閉じている。
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意識があるのか疑問に思えるぐらい微動だにしていない。
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ただ穢れは氷に閉じ込められたまま……
奈岐が力を使っている証拠だ。
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「奈岐……?」
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「――鼎も同じものを見てしまったようだな」
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奈岐は目を開き、僅かに私を見た後、穢れへ視線を戻す。
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「ようやく、穢れが霊的な存在である理由に<RB='がてん'>合点<RB>が行った……」
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「穢れは……命を落とした巫女の魂、その成れの果てか」
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薄々と分かっていたけれど、はっきり言葉で聞くと
怖気立つものがあった。
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忌むべき穢れが……皆が望んだ巫女、その成れの果て。
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「歴史の中、穢れとの戦いで命を落とした巫女もいたと聞いたが、
(BROKEN:8_20)
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奈岐は片手を穢れに向けると、冷気を集束させていく。
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「贄として、巫女を穢れに喰わせる……それが儀式の正体か」
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「ただし贄の効果は一年しか持たず、
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突き出した奈岐の手に氷が形を成し、一振りの短刀と化す。
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「一年の周期か……何のための贄だ……?」
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奈岐は考えを振り払うかのように短刀を構え直した。
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「いずれにしても……もうそのおぞましい姿でいる必要は無い」
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「せめて安らかに眠れ」
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奈岐は地を蹴り、氷漬けにされたままの穢れへ飛びかかる。
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穢れは抵抗することもなく、役目を終えたように動きを止め、
そして……そのまま奈岐に首を<RB='は'>刎<RB>ねられた。
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ほどなくして穢れはうっすらと発光する無数の球体となり、
虚空に消え去っていく。
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私はただ唖然として、その光景を見送っていた。
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「鼎、この事は誰にも話すな」
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星霊石に冷気を集束させ、奈岐は元の制服姿に戻る。
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「でも……巫女が故意に生贄にされているって……」
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「下手に混乱を招く。それに誰もこんなことを信じない」
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「まだ幻覚を見たと言う方が通じるぐらいだ」
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「…………」
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学園に通う者の誰しもが、巫女に対して、強い憧れを抱いている。
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そして、巫女候補となった者はその事を誇りに――
また選ばれなかった学生達は羨望のまなざしを向ける。
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私は……因習としてそれが成り立っていることに恐怖すら覚えた。
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何らかの生贄となり、死を強要させることを
皆が皆、望み、その座を競い合っているのだ。
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「鼎、この真偽を確かめる必要がある」
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「真偽って……でも、誰に?」
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「こうなることを予想していた人物だ」
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奈岐は茂みの向こうを――違う、もっと遠いところを睨み付ける。
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「……そろそろ禰津が戻る。何を聞かれても、穢れのことは
(BROKEN:8_20)
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「奈岐……分かった。でも、あとでちゃんと教えて。
(BROKEN:8_20)
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「…………」
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奈岐は遠くを見つめたまま、分かったと私に頷いてくれた。
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その後、すぐに私達の名前を呼ぶ八弥子さんの声が聞こえてくる。
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八弥子さんの無事に安堵するとともに、巫女という存在に対して、
私は……えも言われぬ恐怖を感じてしまった。
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seisai_no_resonance/sce06_04_12_0.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)