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seisai_no_resonance:sce06_04_04_0
奈岐が部屋に戻ってくると、両手で抱えていた段ボールを
床に下ろした。
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箱の側面が膨らんでおり、結構な量の荷物に見える。
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「奈岐、これは?」
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気になった私はベッドから抜けだし、ゆっくり立ち上がった。
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若干の立ちくらみこそしたが、思ったよりも身体にダメージは
残っていないらしい。
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「鼎の荷物だ。部屋から必要な物だけを運んできた」
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「えっ……?」
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素っ頓狂な声をあげた私は目が点になっていることだろう。
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私の荷物って……段ボールの蓋を開き、中身を漁ろうとする。
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「く、暗くて見えない……」
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私の声を聞いた奈岐がカーテンを開けてくれたけど……
どうして照明をつけないんだろう?
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疑問に思いつつも、月明かりを頼りにして、段ボールを漁る。
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制服に私服、着替えその他諸々……確かに必要なものは全部入っているみたいだ。
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「これ、どうしたの……?」
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「あの後、末来の奴に話をつけ、風間に用意させた」
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「用意させたって……えーと、私、もしかして引っ越し?」
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奈岐は肯定や否定する様子を見せずに窓辺へ歩み寄る。
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「風間も信用出来たものではない。遠山と一対に選ばれ、
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「遠山神住の祖父は松籟会に属している。中村家とは違い、保守的
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それは……遠山先輩に何か言われれば、由布が動く……?
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少なくとも、この一ヶ月近く仲良くやってきたルームメイトが、
そんなことをするだろうか?
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「奈岐、過敏になりすぎだと思う。由布はそんな子じゃないよ」
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「…………」
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振り返った奈岐は無表情だった。でも、その瞳は微かに揺れて、
悲しみの色が見て取れる。
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「自分でも疑心暗鬼にかられているのは分かる。だけど、可能性が
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「そんなことを言い出すと、切りが無いよ?
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「分かっている。でも、頼む……鼎」
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どこか悲痛にも聞こえた奈岐の声を耳にして、
思わず反論の言葉を無くしてしまう。
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「…………」
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そして、運ばれてきた荷物に再び視線を落とした。
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中村さんとの一件があったのは今日のこと。
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日曜日を挟んで、週が明ければ、
奈岐の気持ちも落ち着くかも知れない。
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それに末来さんが言った言葉。
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奈岐を助けられるのは私だけ――その言葉も気にかかる。
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「前向きに考える。うん、分かった」
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「しばらく奈岐とルームメイトだね!」
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「……鼎」
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「ふつつか者ですが、今日からよろしくお願いします」
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少し戯けてみせるが、奈岐の表情は晴れないままだった。
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何か話題はないものかと考えながら、段ボールの中から、
着替えを取り出していく。
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しかし、月明かりだけでは暗くてよく見えない。
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「ねえ、奈岐。いつも照明つけてないけど、何か理由あるの?」
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「それは……蛍光灯が切れている。一年近くこのままだ」
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「交換しないの?」
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「申請したら、替えの蛍光灯だけ渡された」
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何となく話が見えてきた気がする。
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「んー、もしかして届かない?」
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天井を見上げてから、再び奈岐の背丈を確認した。
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「…………」
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「ベッドに椅子を置けば届く。でも、足場が不安定で失敗した」
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ベッドの上で転ぶ奈岐の姿が容易に想像出来てしまう。
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それに、床からだと届かないらしい。
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「うぅ……」
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「ずっと暗いのも困るし、私が替えておくね」
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脚立を借りるか、八弥子さんに頼めばいいのに……
変なところで意識が高いんだから、と内心で苦笑しておく。
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もちろん、そんな内心を覗かれることは前提として。
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「だって、禰津の奴に貸しは作りたくないし……
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「でも、これでもう平気だね」
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ぶつくさと口を動かしていた奈岐に微笑みかける。
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すると、ようやく奈岐が安堵したように頬を緩めてくれた。
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「……そう、だな」
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「替えの蛍光灯はどこ?(BROKEN:8_20)
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奈岐に声をかけながら、椅子を足下まで運んでくる。
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色々と気がかりなことはあるけれど、今は目を閉じて、
生活環境の改善に取り組むことにした。
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seisai_no_resonance/sce06_04_04_0.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)