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seisai_no_resonance:sce06_03_08_1
食堂を出て、学園の中庭を通りながら寮へ向かう。
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校舎の方からは学生達の声が聞こえ、
もう登校が始まっていることを知らせてくれた。
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「早く帰って課題やらないとね」
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胸元で抱きかかえたガジに話しかける。
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しかし、ガジの返事は無く、
もぞもぞと寝返りを打とうとしていた。
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いつの間にか、すっかり夢の中である。
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「……私も一眠りしたいけど、寝たら起きないだろうし」
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そんなことになれば、明日までの課題が間に合わない。
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部屋に帰ったら、シャワーでも浴びて目を覚まそうかな。
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それがいいと思い、あくびをかみ殺しながら、寮への道を急いだ。
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そして、校門の前に差し掛かった時――。
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見覚えのある人影が私に向かって歩み寄ってくる。
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正直なところ、嫌な予感しかしないので、
回れ右といきたいところだけど……。
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「おはよー、今から登校?」
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一応、無難な話題を振ってみた。
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「お前に話がある。ついてこい」
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「わ、待ってっ……それ、物騒な予感しかしないんだけどっ」
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踵を返そうとした中村さんを慌てて呼び止める。
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松籟会の人間かつ私を狙った前科一犯な人についていけるほど、
お人好しには出来ていない。
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「……高遠未来がこの島でやったことを一つ教えてやる」
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中村さんが振り返り、鋭く私を睨み付けてくる。
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どうしてそこまで恨まれるのか……そう思っていたけど、
次の言葉を聞いた瞬間、胸に突き刺さるものがあった。
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「高遠未来は私の母を死人同然にした」
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「えっ……?」
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「高遠未来が巫女の掟を破り、島に災いをもたらそうとした。
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「私が嘘を言っているように見えるなら、
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「ただ自分の母がしたことに、少しでも責任を感じたなら、
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中村さんがそう言い残すと校門の外へ向かって歩き出す。
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「お母さんが……災いを、って……」
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理事長の話の後だからか、
否が応でも勾玉のことを意識してしまう。
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お母さんがこの島で何かした……?
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型破りな人だと思うけど、
誰かを傷つけることを望む人じゃない。
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本当に災いをもたらそうとしたら、
その過程で何かがあったはず。
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でも、たとえ何かがあったとしても、
中村さんのお母さんをそんな状態にしたとしたら……。
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「ガジ、寮に戻ってて。私、行かないと」
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「ニャン……?」
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ガジを地面に下ろし、中村さんの背中を目で追いかける。
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私を連れ出すための嘘かもしれない。
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だけど、嘘ならもっと上手な嘘があるはず。
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それにたぶん……中村さんは嘘をつけない人間だと思う。
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「うーん……ガジ、私って甘いかな?」
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「でも、お母さんが何かしたって言われるとひけないよね」
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中村さんの背中が見えなくなってしまう前に、
私は早足で校門を抜け出していく。
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そして、そこから向かった先は学園の南にある森だった。
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学園を離れ、人気とは無縁になった森の中――。
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中村さんがようやく私に振り返った。
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「殊勝な心がけだな、高遠鼎。私を信じたか」
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「中村さん、あんまり嘘は得意じゃないみたいだし」
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「否定はしないな。それで話がある」
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早速と――もう嫌な予感しかしない。
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勾玉の力に頼る事態だけは避けて欲しいところだけど……。
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「その勾玉、こちらへ渡してもらおうか」
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やっぱり、と内心で頭を抱える。
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「それ、断ったら実力行使だよね……?」
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「話が通じるようになったな」
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中村さんの行動は松籟会からの指示だけでなく、私怨もあった。
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しかも、それは私のお母さんがしでかした結果のこと。
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「ねえ、災いって何?」
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「私が聞いたのは島が穢れで溢れかえることだ。
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「島を取り仕切る松籟会としては避けなければならない」
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だから、中村さんのお母さんに何かがあった?
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「ここで勾玉をあなたに渡したとして……
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「フッ、素直な奴だ。しかし、その通りだな」
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「命までは取らない。だが、母さんと同じ目には遭ってもらう」
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本気でそんなことを言われ、顔が引きつるのが分かる。
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今から殺さない程度に痛めつけるなんて宣告されて、
平然としていられるのは……それこそお母さんぐらいだろう。
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「どちらにしても、だったら……勾玉は渡せないよ」
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「お母さんは島にいる。見つけ出して、何をしようとしたのか、
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「どうして災いを引き起こすようなことをしたのか……
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「理由があったとしても、母さんは殺されたも同然だ。
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「勾玉を渡さないと言うなら、奪えという指示が出ている。
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こうなってくると荒事は避けられない。
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使いたくはないけれど、勾玉に頼るしかないだろう。
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指先でお母さんの勾玉に触れる。
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そして、いつでも力を使えるように意識を集中させた。
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「巫女の力は強大だ。ほんの僅かな力でも、生身の人間には
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「…………?」
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「高遠鼎、お前も自分の母親と同じになりたいか?」
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中村さんが懐から星霊石を取り出す。
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炎の力を使う――そう思った時、何故か彼女は星霊石を草むらに
放り捨てた。
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「えっ?」
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「力を使いたければ使え。ただし、私の命を奪うことになる」
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「ちょっと……それって……!」
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私が声を上げた瞬間、中村さんが足下の土を蹴り上げる。
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私に向かって土が飛び散り、一瞬だけ視界が閉ざされた。
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まずい、勾玉の力を――。
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そう思った時、中村さんが星霊石を捨てたことを思い出し、
ギリギリのところで思いとどまる。
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だけど、それが良くなかった。
それこそが彼女の狙いだった。
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鋭く空を薙ぐ音が響き、殺気が膨れあがる。
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「――ッ!?」
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反射的に身をそらすと、真横を銀色の光が走り抜けていく。
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鋭い切っ先、波打つ刃紋――中村さんの刀。
かすっただけで私の髪の数本切り落としていった。
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「くっ……」
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巫女の力が無くとも、彼女には刀を扱う技術がある。
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それも、かなり腕が立つ方で……かわせたのは奇跡に近い。
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「まさか、避けられるとはな」
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鞘を腰に差し、中村さんが刀をゆっくりと構え直す。
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おそらく事前に刀を茂みへ隠しておいたのだろう。
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もし私が勾玉を渡さない選択をした場合、
最初の一突きで終わらせるために――。
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「……刀まで左利きなんだね、珍しい」
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「不作(BROKEN:8_20)
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「違和感って嫌な仕事する」
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左からの攻撃を警戒しつつも、どうしても右に意識が行く。
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そして、結局どちらから攻撃が来るか分からなくなる。
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「巫女の力を出し切るため、刀の使い方も左手に合わせている」
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「そもそも――人を相手にする剣術では無いからな」
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中村さんから感じる殺気が膨れあがっていく。
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「一刀が必殺となるべくした剣、二度は避けられない」
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一太刀が必殺となる――そんな剣術を聞いたことがある。
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守りを度外視した恐ろしいまでの攻めの一手。
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私に対抗手段が無い以上、守ることを考えなくていい。
この条件は最高に思えてしまう。
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「はぁっ――!!」
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中村さんが刀を下段に構えたまま、大きく踏み込んでくる。
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そして、地を這った刃が逆袈裟懸けに私へ迫った。
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「えっ――!?」
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後ろにかわそうとしたところ、刀が私を追いかけるようにして、
足下から伸びてくる。
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充分な距離を取ったはず。刀身が伸びたりしない限りは、
当たらないと確信していたのに……。
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「右手っ!?」
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左の構えだから左手を意識しすぎていた。
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柄にそえていた右手だけで刀を持ち、
腕を伸ばせば、その分だけ射程も伸びる。
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僅か数センチ足らずでも範囲が変われば、
回避距離も大きく変化せざるを得ない。
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左手だから、と裏をかいた剣術――
素人なら人間相手にも充分通じている。
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「取ったっ!!」
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勝利を確信した中村さんが右手に力を籠め、
一刀で斬り捨てるため、刀を振り上げた。
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その刹那――。
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seisai_no_resonance/sce06_03_08_1.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)