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seisai_no_resonance:sce05_04_20_1
すっかり慣れた夜の森を歩く。
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奈岐と手を繋いだまま、歩幅を合わせて一歩ずつ。
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「鼎……明日の模擬戦、出るつもり?」
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不意に奈岐がそんなことを私に訊ねてきた。
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「そのつもり。どこに手がかりがあるか分からないしね」
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「私、奈岐に心配かけてるかな?」
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奈岐の視線がつま先へ落ちていく。
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「明日の模擬戦は……中村真琴が相手になると思う」
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「アイツの家は松籟会に深く関わっている。模擬戦という場を利用
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「その時はすぐに降参するよ。他のみんなもいるし、無茶な真似は
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「…………」
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奈岐の足が止まり、自然と手が離れていく。
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振り返ると、奈岐は俯いたまま口を閉ざしていた。
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「奈岐?」
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名前を呼んでも視線はつま先に落ちたまま。
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気になって、一歩近づいた時、奈岐の声が聞こえた。
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「鼎……ここは閉鎖的な空間だ。松籟会という存在が動けば、
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「実際に、鼎の母、高遠未来という名前はどこにも残っていない。
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つまり、明日の模擬戦で中村さんが私を手にかけたとしても、
大きな問題にはならない可能性が高い。
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目撃者は巫女候補だけ――無かったことにするのは簡単だろう。
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「鼎、明日は行かないで欲しい」
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「…………」
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ようやく顔をあげた奈岐の瞳が微かに揺れていた。
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「もし奈岐が行ったとしても……鼎の力になれないし、
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「鼎、危険なんだ」
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奈岐の目尻に零れ出しそうなほど涙が溢れる。
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伝わるのは真摯な思い。
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私は島に来る船で、中村さんに命を狙われ、
殺意や殺気なんてものを初めて感じさせられた。
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自ら進んであんな思いはしたくない。
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それでも、お母さんに繋がる可能性があるなら……私は行く。
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「…………っ」
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私の気持ちを目で見て知った奈岐の表情が悲痛に歪む。
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そんな彼女に私は手を伸ばし、柔らかい髪の毛に触れる。
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「約束する。何があっても私は無事で帰ってくるよ」
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「……その約束、明日の模擬戦だけじゃないなら」
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「これからもっと危険なことになる。
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これから……か。
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御花会の行く末、巫女の決定、穢れを祓う儀式――。
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関われば関わるだけ命の問題になってくるだろう。
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でも、関わらないわけにはいかない。
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「うん、これからも含めた約束」
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奈岐に小指を差し出して、指切りの合図を出す。
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「絶対に……約束だから」
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「私が奈岐とって唯一なら、絶対にその約束を守らないとね」
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「……うん」
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私の小指に、奈岐の小指が絡まる。
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「約束、奈岐を独りにしない」
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「うん……約束」
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静止したような時間の中で、私達は約束を交わす。
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その言葉の重みが今はどれほどのものか分からない。
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でも、一つだけ確かに思えることはある。
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私にとって奈岐は特別で、奈岐にとっても私は特別な存在。
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だから、交わした言葉もきっと特別なものになる。
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私はそう思い、そう思っていた――。
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本当の約束の意味に気付かないまま、
ただそう思い込んでいた。
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seisai_no_resonance/sce05_04_20_1.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)