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seisai_no_resonance:sce05_04_19_0
翌日、昼は謹慎中なので大人しく過ごし――。
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夜になると、また昨晩と同じく海岸へ向かった。
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昨日、派手にやらかした御陰で私服は洗濯中――
だから、制服でここに来るのは初めてだ。
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吹き付ける潮風に目を細めながら、隣にいる奈岐を見る。
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「……六月八日、快晴。月は満月を過ぎて、四日後。時間は午後
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奈岐は記録を取った後、ノートをポケットに押し込んだ。
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「それで……今日は無策でないと?」
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「うん、ちょっと色々考えがあって」
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浜辺に腰を下ろし、隣に奈岐を誘う。
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「…………?」
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小首を傾げながらも奈岐は私の隣に座った。
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「今日は少し私の話を聞いてもらおうかなって」
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「鼎の……?」
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「うん、奈岐は色々見てくれていたかもしれないけど、
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「あらためて私の話をしたいなって思ったの」
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不思議そうにまばたきをする奈岐に微笑む。
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「もし変なこと考えたら恥ずかしいし、背中からでいい?」
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「何を話すつもりなんだ……?」
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「色々。とにかく色々」
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「……少しだけ、なら」
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視線をそらせた奈岐の後ろへ回り、背中をくっつける。
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「これで見えない?」
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「海と星空なら見える」
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「うん、それだけで充分」
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奈岐に伝えたいことを一日かけて考えてきた。
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自分を知ってもらうことで、奈岐の氷に私が入り込める余地が
出来るかもしれない。
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こういうやり方は押しつけかもしれないけど、
自分のことをちゃんと伝えておきたかった。
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奈岐の中に自分という存在を作る――そこからだと思うから。
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「私ね、小さい頃から引っ越しとか多くて、
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「……意外」
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「そうかな?」
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「禰津ほどではないけど、鼎は明るくて元気だ。
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「んー……今はね、ちょっと無理してる」
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ぴくっと奈岐の背中が驚くように反応する。
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「うつむかないように――って毎日が必死」
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「性格はお母さん譲りだから、きっと奈岐の言う通りだと思う。
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「引っ越しが決まった時とか、どうしても嫌でね、閉じこもって、
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「お母さんに不義理なことをするなって怒られたけど、
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「連絡手段は?」
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「引っ越し先の電話番号は教えてくれなかったし――
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そんなせっかくの携帯も、今頃は海の底だろうけど。
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「私はね、怖がりなんだよ。さよならを告げたら、友達になって
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「……鼎」
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「もし……鼎の母親が見つかったら……
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奈岐の背中が動き、長い髪が私の頬に触れる。
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「奈岐、振り向かない約束」
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「…………」
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無言のまま、背後の背中が少し丸くなった。
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「勝手にいなくなったら、奈岐はどう思う?」
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「……それは……嫌だ」
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「何も言わなかったことが?」
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「それは当然だけど……鼎がいなくなることが嫌だ」
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「鼎は……この閉鎖的な島で、ただ一人だけ奈岐のことを
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「鼎がいなくなれば……奈岐はまた一人になる」
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「八弥子さんは?(BROKEN:8_20)
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「禰津は……奈岐といればいるだけ不利になる。禰津がどう思おう
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「……奈岐と行動すれば、禰津の家が危なくなる」
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閉鎖的な島だからこそ、より異端は排他されやすい、か。
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島を仕切る松籟会の存在を否定する奈岐の動きは、
きっと危険視される。
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「それにアイツを見れば分かる。禰津は巫女の力を使うべき
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「……八弥子さんが?」
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「アイツは優しい。優しすぎるから禰津の血には相応しくない。
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禰津の血……巫女の力に長けているとは聞いたけれど……。
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「この島の慣習に縛られていない鼎は……奈岐にとって、
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島にいる人間という観点からすると、私はきっと特別だと思う。
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でも、その特別を無くしてしまえば、どうなる?
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そんな考えが頭を過ぎってしまう。
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「ね、奈岐、意地悪を言ってもいい?」
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「……意地悪?」
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小さく息を吸って、気持ちを落ち着けながら言葉を紡ぐ。
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「それって、私じゃなくても平気だよね。島の外から来て、
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「それが高遠鼎って人じゃなくても、条件を満たせる人なら、
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「…………」
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奈岐の背中が震えた。
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怒っているかもしれないし、悲しんでいるかもしれない。
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背中合わせで顔も見れない今、正解は分からない。
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でも、そんな状態だからこそ話せることだってある。
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「奈岐、私じゃないとダメな理由が欲しい」
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「それって難しいことだし、押しつけがましいことだし、
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「でも、その理由があれば……私は自分が奈岐にとっての
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「…………」
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砂場にあった奈岐の手が私の手を探すように動く。
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私がその手を取ると、奈岐は握りかえしてくる。
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「……鼎は意地悪だ。本当に意地悪だ」
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二回も言われて、僅かに苦笑してしまう。
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「約束……鼎の母親が見つかっても勝手にいなくならないこと」
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「……うん、約束する。お母さんが見つかっても、
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繋いだ奈岐の手が強く握り締めてきて、少しだけ震えた。
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「人に感情を伝えるのが苦手だから……上手く言えないけど、
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「織戸伏の見鬼は魂を視る。奈岐に視える鼎の魂じゃないと、
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「それが鼎じゃないとダメって理由にならない……?」
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奈岐の手は震えたまま。
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感情を吐露することに怯えながらも、言葉を口にしてくれた。
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奈岐の問いかけに対する答えはイエスだろう。
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でも、私はそれ以上を求めたい。
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「それは好きって言葉で表現出来ること?」
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「…………」
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恥ずかしさからか、奈岐の手から感じる体温があがった。
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「私には奈岐の魂を見ることは出来ないけど、今の奈岐が好きで、
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「私は奈岐が好き」
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くっつけていた背中を離して、私は立ち上がる。
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「鼎……?」
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「奈岐、もうこっち見てもいいよ」
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きっと、これは奈岐にだからこそ伝えられる方(BROKEN:8_20)
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立ち上がった奈岐の双眸がゆっくりと私を映し出していく。
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私の魂を、私の感情を、全てを見通す瞳が私を映す。
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「…………」
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そして、今までに知った奈岐を思い浮かべていく。
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そのどれもが自分にとって特別で、好きという感情を向けられる
ことを意識する。
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頭の中がごちゃごちゃで、それを見る奈岐も大変だろうと思う。
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でも、これが私に出来る最大限の方(BROKEN:8_20)
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「……み、見てる方が……照れる……」
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「あはは、伝わったようで何より」
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目を背けた奈岐に微笑んでから、言葉の続きを促す。
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「それで……私は目で見ても分からないし、
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「……どうしても?」
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小声と共に奈岐の視線が私に戻ってくる。
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「今だから、どうしても聞いておきたい」
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きっとこんな話は何度も出来ないから、奈岐の言葉が聞きたい。
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まるで告白を強要しているみたいだけど――。
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「…………」
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こ、告白……告白って……。
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自分で考えたことにも関わらず、状況と照らし合わせると、
頬が熱くなっていく。
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この状況、本当にそんな場面に思えてくる。
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「…………」
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私を見ていた奈岐もそれに気付いたのか、ぴくっと肩を震わせた。
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それでも……奈岐は何も言わず、私と向かい合う。
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顔を上気させて、視線を再び彷徨わせ、唇を開いては閉じ、
何度も言葉に迷いつつも、奈岐は逃げようとはしない。
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私に対して、必死に言葉を紡ごうとしていた。
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とても長く感じられた数秒の後――
か細い声が奈岐から発せられる。
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「奈岐も……鼎のことが好き」
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確かに聞き取れたその言葉は、不思議と胸を高鳴らせた。
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こんな状況にしたのは自分ではあるけれど、
心臓がうるさいほど早鐘を打っている。
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「……うん、ありがとう。すごく嬉しいよ」
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「鼎……」
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奈岐とは一緒にいたい。
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大きな目的こそ違っても、一対の巫女として一緒になりたい。
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だからこそ、奈岐の気持ちを聞けたのは嬉しかった。
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小さく息を吐いた後、一度頷く。
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今日は身の上話だけするつもりだったけれど、
本音まで話せて良かったかもしれない。
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「よし、奈岐!(BROKEN:8_20)
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「……か、鼎?(BROKEN:8_20)
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「せっかく本音を伝え合えたのに、ここで失敗とかしたら、
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思い出が台無し、とも言うかな?
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「それも……そうだな」
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苦笑した奈岐に手を差し出すと、すぐに握り返してくれた。
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重なりあう手――感じる温もりに安らぎを感じる。
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今日も寮まで手を繋いで帰ろう。
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でも、今日はいつもよりゆっくり歩きながら――
私達だけのペースで歩いて行こうと思った。
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seisai_no_resonance/sce05_04_19_0.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)