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seisai_no_resonance:sce05_04_18_0
「……六月七日、快晴。月は満月を過ぎて、三日後。時間は午後
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奈岐がいつものようにノートに記録を取っていく。
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でも、今日は穢れと戦うわけじゃない。
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翌日の夜が訪れると、私と奈岐は謹慎中にも関わらず、
寮を抜け出した。
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そして、辿り着いた先は北の外れにある海岸。
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寮や学園からは死角になる小さな浜辺だ。
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「鼎、疲れはもう取れているか?」
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「うん、一日ずっと休めたしね。すっかり元気だよ」
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「そうか。あとは自分達の問題だな」
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奈岐がマントの中心にある星霊石に触れた。
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正反対の力を合わせることが出来るかどうか――。
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「穢れに気付かれたらどうする?」
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「御魂を体現するのは止めておこう。個々で対応した方がいい」
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上手くいけば、そんな必要もないんだろうけど……
まずはやってみないと分からない。
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私は腰の下げていた勾玉を握り締め、奈岐の顔を見つめた。
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「じゃあ……私から」
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「ああ、頼む」
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深呼吸――そして勾玉を中心に燃えさかる炎をイメージしていく。
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今日こそ、一対で作り上げる御魂を体現してみせる。
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「――お願い」
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空気が振動し、熱が膨れあがっていく。
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力を抑えながら、丁寧に炎を描いて構築する。
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必要以上の力を使わずに、最小限かつ効率的に、炎を操る。
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「――ッ!」
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勾玉を握り、巫女の力を解放するための力を集束させていく。
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暴れる炎を抑え込みながら、力を一点に集中させる。
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これだけの力があれば、もう充分――!
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「――来いッ!」
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充分な力を溜め込んだ勾玉を強く輝かせる。
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熱気が身体中を包み、巫女の装束を私に宿し、
一振りの剣を授けてくれた。
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次は――奈岐が力を発現させる番だ。
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「……鼎の力を感じるんだ」
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言葉と共に奈岐を冷気が囲み始める。
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奈岐もまた冷気を抑え込むことに意識を集中させていた。
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私の肌に張り付いた氷塵が溶け、水蒸気が上がっていく。
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このまま奈岐が力を解放したら、また……!
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吹き荒れる氷の粒が次第に大きくなり、
炎とぶつかっては弾けていく。
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奈岐……!
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心の中で彼女の名前を呼びながら、今は祈ることしか出来ない。
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下手に声をかければ、集中を乱すだけ――。
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そして、氷の塊が衝撃を伴って森を駆け抜けていく。
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そうか、私が先に炎の力を使っている分だけ……
奈岐はさらに氷の力を展開させないといけない。
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炎とぶつからない限界の範囲で、
冷気を最大限まで溜め込む必要がある。
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「…………っ」
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集中を続ける奈岐の表情が険しくなっていく。
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限界のラインがどこにあるのか、見極めるのは難しいはず。
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私は一度この姿になった以上……力を戻さない限り、
炎を再びコントロールすることは出来ない。
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だから、奈岐が上手くやってくれることを――。
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突然、身体を衝撃が襲った。
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「っ!?」
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衝撃で浜辺の砂を散らしながら、蒸気となった氷が霧に変わる。
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これは……失敗した?
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「はぁっ、はぁっ……」
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奈岐が肩を大きく揺らして顔をしかめている。
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「奈岐、大丈夫だった?」
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「くっ、制御したつもりだったけど……解放の時の衝撃で、
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力の解放に伴い、冷気が強まった時、私の炎と衝突した。
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奈岐は細心の注意を払っていた……でも、結果は失敗。
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これは相当手強い。
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「…………」
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私は炎の力を集束させていく。
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剣や装束が勾玉に変化し、私の手の中に収まる。
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「うーん……だからといって、同時に解放させるのは、
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「正面からぶつかり合うようなものだな」
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「そうだよね……じゃ、次は私が後から試してみる」
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「分かった。先に解放させる」
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奈岐は握り締めていた星霊石を中空に浮かべた。
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そして、二度目の冷気が吹き荒れ始める。
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それから何度……私と奈岐は力を解放しただろうか?
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その結果は散々なもので――。
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荒れ放題の砂浜にドサッと尻餅をつく。
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まるで浜辺は嵐でも通り過ぎたかのような有様だった。
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炎と氷、衝突の繰り返し――何度、吹き飛ぶ砂を見たことか。
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「げ、限界……」
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息をつきながら夜空を見上げると、
朝が近いのか、僅かに白みがかっていた。
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「……接触することに大きな問題がある」
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「でも、接触しなければ一対となることは出来ない」
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肩をすくめた奈岐も私と同じく砂浜に座り込んだ。
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「はぁ、行動自体が矛盾している……」
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「魂の力って変化したりしないのかな?」
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「人は簡単に変われない。子供ならともかく……
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見た目はちっさいのに……。
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「……うるさい」
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「口にはしてないよー?」
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「でも、見えたんだ」
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頬を少し膨らませた奈岐が詰め寄ってくる。
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「わっ……と、とにかく、解決策を考えないとっ」
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「ほら、穢れが何を考えているか分かるかもしれないんだよね?」
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昨日読んだノートのことを思い出しつつ、
目の前にまで迫った奈岐に問いかける。
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「……ちゃんと記録を読んでいたみたいだな」
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はぁ、とため息をついた奈岐が再び砂浜に腰を下ろす
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「一対の力は未知数だけど、二人で一つの魂となるなら、
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「一対となる相手にノイズを――奴らの悲鳴を押しつけてしまう
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どこか不安げに奈岐が私を見つめる。
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「それも未知数だから分からないよ。やってみないとね」
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「……まずは一対となれるかどうか、か」
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「きっとなれると思うよ」
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砂浜に置かれた奈岐の手に触れ、ゆっくりと重ねる。
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「少しずつだけど、奈岐のことが分かってきた気がするし。
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「でも、今日は散々失敗した……」
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「その失敗から分かったことは?」
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「……接触に問題がある」
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「じゃあ、その解決策は?」
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「鼎……何が言いたいんだ?」
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不満そうな双眸が私を覗き込んできた。
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「こうして手を握ることが出来て、話をすることも出来る。
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「どういう意味……?」
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「それは秘密。私の課題だよ」
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不思議そうにまばたきをした奈岐の後ろに回り込み、
その瞳を――両手で塞ぐ。
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「な、何!?」
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「ふふんっ、秘密だから覗かれないように」
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「ううぅ……」
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そう言いながら、奈岐の力のことを思い返す。
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流れる水は何にでもなれるけど……冷たく人を拒めば、
水は氷になってしまう。
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八弥子さんは奈岐の力をそう言い当てていた。
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奈岐はどこかで私を拒んでいるのかな……?
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そう思うと寂しい気もする。
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でも、人はすぐに変われないって言葉は確かなこと。
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今は少しずつでも歩み寄っていくしかない、か。
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こじ開けてでも……なんて思ってたけど、私だけの思いじゃ、
一対になることは出来ないよね。
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「よし、そろそろ帰ろっか」
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色々と考えがまとまってから、私が手を離すと、
ふて腐れた様子で奈岐が睨んでくる。
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「むぅ、目をふさぐのはずるい……」
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「ふふんっ、こう見えても、私は意地悪なんだよ?」
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「意地悪なのは知ってる」
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奈岐は立ち上がると、砂浜に落ちていたマントを拾った。
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「拗ねちゃった?」
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奈岐の後を追いかけるようにして、顔を覗き込む。
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「…………」
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「……ちょっとだけ」
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「じゃあ、その分だけ奈岐との時間を大切にする」
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「大切に……?」
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不思議そうに顔を傾けた奈岐の片手を握りしめる。
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「寮まで手を繋いで帰る!」
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「か、鼎っ……それは……」
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「恥ずかしい?」
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「…………」
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無言で奈岐の手が私の手を握り返した。
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これは肯定かな?
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「か、帰るなら……早くしないと朝になる!」
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「うん、帰ろう」
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そのまま手を繋いで歩き出す。
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寮に着く頃には、もう陽が昇っているだろうか?
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これで少なくとも数十分――奈岐との距離がまた縮まる。
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seisai_no_resonance/sce05_04_18_0.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)