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seisai_no_resonance:sce05_04_14_0
「…………」
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止まっていた足先が目的地を見つける。
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やっぱり奈岐に会わないと。
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理事長と同じだとしても、今は奈岐と話をしないといけない。
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こんな気持ちの自分が嫌だ……。
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奈岐の部屋の前に辿り着き、ノックしようとした手が止まる。
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心の準備、どうしたらいいんだろう?
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何も考えずに話せたら一番いいんだろうけど……
そんな器用なこと出来ないし。
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だったら、私はいつも通り――いつものようにするだけ。
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つま先に落ちかけていた視線をあげて、前を向く。
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そして、静かにドアをノックした。
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「奈岐?(BROKEN:8_20)
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小声で周囲を気にしつつ呼びかける。
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カチャカチャ――と複雑な鍵が外される音が聞こえた。
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きっと、これは入ってもいいの合図。
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「入るね?」
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一度深呼吸してから、ドアノブに手をかける。
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照明の落ちた暗い部屋は、月明かりだけが光源だった。
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例の奇妙な姿ではなく、まだ制服姿の奈岐が私を迎え入れる。
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奈岐は笑顔だった。
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「奇遇だな、そろそろ様子を見に行こうと思っていたところだ」
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「遠山と話したなら、もう知っているかもしれないが、
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得意げに奈岐は語りながら、ベッド脇の椅子に座った。
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「簡単な取引をしたんだ」
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「遠山が抱いている風間由布への偏愛について、私は口を閉ざす。
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「そんなこと、したんだ……」
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「被害は少ないとはいえ、森に火を放ち、岩山を崩した。
(BROKEN:8_20)
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「それに謹慎処分なら、学園に顔を出す必要がないという口実を
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「謹慎が何日になるか分からないけど、昼間から調査に出ることが
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微笑む奈岐に対して、私はとても笑顔を返せなかった。
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「鼎……?」
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「そういうやり方って……感心出来ないかも」
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「……非難されることかもしれないが、退学処分をくらえば、
(BROKEN:8_20)
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「…………」
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私は息を吐き出すと、ゆっくり目を閉じる。
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そして――<RB='・・・'>頭の中<RB>で言葉を紡ぐ。
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《ねえ、奈岐、それは遠山先輩の考えを読んだの?》
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「ッ――!?」
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部屋にガタンッと椅子が倒れる音が響いた。
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瞼を開くと、立ち上がった奈岐が目を見開いている。
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《やっぱり、奈岐も理事長と同じことが出来るんだね》
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「待って、鼎っ!(BROKEN:8_20)
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「理事長って!(BROKEN:8_20)
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動揺を顕わにした奈岐の小さな肩が震えている。
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「鼎っ、奈岐は鼎との時間を守りたくて……!(BROKEN:8_20)
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「そうじゃないよ……私が言いたいのは、そんなことじゃないよ」
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「…………っ」
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誰だって秘密にしておきたいことはある。
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だから、奈岐が私に見鬼のことを話さなくてもいい。
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私は心の中を覗かれることを怖がった自分が嫌で、
はっきりさせたいと思って、奈岐の部屋に来たんだ。
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実際に奈岐の顔を見たら、怖がった自分がバカみたいって、
そう思えるぐらい気持ちが楽になった。
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私は、嘘もはったりも苦手だし、今まで通り何も変わらない。
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でも――でも、遠山先輩のことは違うと思う。
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「私達が事故を起こしたのは事実だし……学園の人からしたら、
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「学生達に危険が及ぶかもしれない。その犯人が御花会に所属して
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「私は……謝らないといけないことだと思うよ」
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「…………」
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「遠山先輩の気持ちを利用して、取引なんて……
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「誰だって、人に言えない弱い部分を持ってるんだから……
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奈岐は黙ったまま床を見つめていた。
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微かにまだ肩を震わせ、目尻に涙を浮かばせる。
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「でも……でも、もし退学になったら、穢れを調べたり、
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「ちゃんと事情を説明しないまま、遠山先輩を脅したの?」
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「……っ!?」
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奈岐が再び驚いて顔を上げた。
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やっぱり……取引なんて生やさしいことじゃなかったんだ。
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遠山先輩の心を読んだ上での脅迫――。
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「……穢れが出てきた時、奈岐の言う通りに動かなかったら、
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「だから、火を放って岩を落とした理由も説明した?」
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「そんなこと話しても……信じてくれないっ」
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目を見開いたまま、奈岐がゆっくりと後退っていく。
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そして背中が窓ガラスに当たったところで、奈岐の動きが止まる。
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震えているのか、カタカタと風が吹き付けてきたかのように、
窓枠が音を鳴らしていた。
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「奈岐は……奈岐は……ただ、鼎との時間を守りたくて……」
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「奈岐の気持ちは嬉しいよ。でも……そのやり方は間違ってる」
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「……でも、奈岐にはそうすることしかっ!」
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「奈岐に出来ないことでも、私なら出来たかもしれない。
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そんなことしたら、きっとお母さんに会わせる顔が無くなる。
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どんな状況でも……その選択肢は選んじゃいけない。
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「――奈岐」
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「っ……」
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身体を震わせる彼女の名前を静かに呼ぶ。
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静寂。
沈黙。
ただ無言の時間。
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それから、一度深呼吸して――両手をパンッと(BROKEN:8_20)
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「はいっ、反省会は終わり!」
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出来る限りの微笑みを奈岐に浮かべる。
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「えっ……?」
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「だから、反省会は終わりにしよう。やっちゃったことは仕方ない
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「問題はね、そこからどうすればいいかって話!」
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「そこで私の考え!(BROKEN:8_20)
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「…………」
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ぽかんと口を開いたまま、奈岐がずるずると崩れ落ちていく。
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「な、奈岐?(BROKEN:8_20)
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「…………ふぇっ」
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「ふぇ?」
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「ぐすっ……ううぅっ……鼎に……鼎に嫌われたと思ったぁ……」
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ぼろぼろと大粒の涙を零しながら奈岐は声を震わせる。
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「うっ、ぐすっ……鼎に……友達じゃないって……言われるかと
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「わわっ、そ、そんなこと言うわけないからっ……!」
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泣き出し始めた奈岐に駆け寄ると、私の服にしがみついてきた。
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「な、奈岐?」
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「奈岐が……鬼子だから……嫌われたかと思った……!」
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「鬼だからっ……人の心を覗く……鬼だからっ……!」
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見鬼――そんなことが出来るから、きっと嫌な思いもいっぱいしてきたんだろう。
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大丈夫、私は友達だから。何があっても奈岐の友達だから。
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と、ちょっと恥ずかしい言葉だから心の中で告げておく。
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「鼎……」
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「あはは、やっぱり……ちゃんと言葉にした方がいいかな?」
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「そ、それは……いい。ただ、鼎は……これからも奈岐と友達で
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「もちろん――えっと、夜の眷属だっけ?(BROKEN:8_20)
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「……鼎」
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「うん、鼎は……眷属でもなんでもなく、奈岐の友達」
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トンッと奈岐の頭が私に寄りかかり、背中に腕を回すと、
そのまま抱きついてくる。
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その細くて小さな身体を私も抱きしめる。
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月明かりを浴びて、銀色に輝く奈岐の髪を撫でながら、
私の気持ちを伝えていく。
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「考えを読まれるって……理事長に言われた時、最初はね、
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「自分の頭の中に急に入り込まれた気がして、どうしようもなく
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「でもね、考えてみたら、私って考えてることと言ってること、
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「鼎……」
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「ただ、これでも女の子だし、理事長みたいなよく分からない人に
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「奈岐も……鼎のことを……」
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「奈岐なら平気。怖いって気持ちは奈岐の顔を見たら、
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クスッと奈岐が笑い、私の身体から少し離れる。
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そして薄明かりの中で私を見上げて柔らかく微笑んだ。
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「ありがとう……鼎」
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「うん。だから、これからもよろしくね」
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「……うん」
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頷いた奈岐の頭を抱き寄せるようにして再び撫でる。
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「ね、いつもの口調より、今の奈岐らしい口調の方が可愛い」
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「な、何を急にっ……」
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「二人でいるときは奈岐らしい口調がいいな。ほら、私だけ特別」
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「…………」
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見る見る内に顔が赤くなった奈岐が逃げるように、
私の胸に飛び込む。
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「ほ、保留っ……で……!」
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「あはは、分かった、保留だね」
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奈岐のことを聞いた時、どうなるのか分からなくなったけど、
やっぱり話してみないと気付かないこともある。
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他の人にどんなことを言われても、奈岐は私が見てきた奈岐だし、それも変わらないから。
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そんな気持ちに落ち着いてくれた自分に安心しながら、
胸に抱いた奈岐の頭を再び撫でる。
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「明日、早起きして遠山先輩にちゃんと謝ろうね」
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「…………うん、分かった」
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小声だけど、奈岐はしっかりと私の言葉に答えてくれた。
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夜がさらに更けていく。
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月の明かりが角度を変えていっても、私と奈岐はしばらく離れることなく、距離を埋めるように身体を寄せ合っていた。
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その夜は奈岐の部屋の空いているベッドを借りて休むこととなる。
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巫女の力を使わなかった夜――
でも、ようやく奈岐に一歩近づけた気がした。
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seisai_no_resonance/sce05_04_14_0.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)