User Tools

Site Tools


seisai_no_resonance:sce05_04_11_0
夜の森も少し慣れたもので足取りは軽い。
>

正確には、穢れの気配をよく分かるようになったから、
常に注意を払う必要が無くなっただけかもしれない。
>

「鼎、そろそろ話を。場合によっては鼎を寮へ戻す」
>

「そこまで深刻じゃないよ。ただちょっと疲れが抜けないだけで」
>

「疲れが抜けない?」
>

少し驚いたように奈岐が眉を跳ね上げていた。
>

「力を使うのに慣れてなくて、ずっと全力だったし……」
>

「それが原因ってちゃんと気付いたからもう平気だよ」
>

決して無理しているわけでなく、今は早く力をコントロール出来るようにならないといけないという気持ちが強い。
>

もしそうすることが出来れば、次の模擬戦だって……
一人でも負けない可能性はある。
>

「鼎、今日はもう休め。巫女の力は肉体的な疲労だけでなく、
(BROKEN:8_20)
>

「力を使えば、感情が昂ぶるだろう――それも力の作用が原因だ。
(BROKEN:8_20)
>

立ち止まった奈岐が私の腕を引いていた。
>

眼差しは鋭く、どこか私を咎めているようにも見える。
>

「でも……穢れのことを調べていれば、巫女だったお母さんに
(BROKEN:8_20)
>

「穢れは巫女の命を奪いに来ている。そんな奴らを相手に
(BROKEN:8_20)
>

「鼎、怪我では済まないぞ」
>

「…………」
>

奈岐の言っていることは最もだと思う。
>

だから、落ち着けと心の中で何度も繰り返す。
>

でも、それ以上に……いてもたってもいられない感情が暴れ出しそうで、嫌な葛藤を起こしてくれる。
>

「鼎、今日は私が調べた過去のデータを報告する。部屋に戻ろう」
>

奈岐が私の腕をもう一度引いた。今度は少し強く。
>

「…………」
>

心の声が『落ち着け』から『この頑固者』に変わっていた。
>

疲れもあるのか、葛藤に歯止めがきかなくなっていく。
どうしても感情が荒ぶってしまう。
>

まだ立ち止まりたくない――。
>

「立ち止まるわけじゃない。過去のデータを再確認することは、
(BROKEN:8_20)
>

「えっ?」
>

「…………」
>

息を呑んだ奈岐が私から目を逸らす。
>

私、立ち止まりたくないって口にしたっけ……?
>

そんな覚えはないのに……でも、奈岐は私の声を聞いたように言葉を返してきて……あ、あれ?
>

考えれば考えるほど、頭の中が混乱を始める。
>

「鼎……とにかく、今日はもう部屋に……」
>

「…………」
>

私を見上げる奈岐、そして私の腕を引く奈岐の手――。
>

どうするべきなのか、また迷い始めた時、奈岐の肩が少し震えた。
>

「奈岐?」
>

「――誰だ、立ち聞きは感心出来ないな」
>

視界を閉ざそうとする闇の中で人影が動く。
>

踏み出す足先は穢れではなく、人の物で……
月明かりの下に現れた顔も知ったものだった。
>

「あなた達でしたのね――夜、寮から抜け出していたのは」
>

「遠山先輩……」
>

「何の用事があって外出されているのかしら?」
>

遠山先輩はいつもと変わらない口調で訊ねてくる。
>

だけど、その視線はいつもよりも険しい。
>

「……鼎は何も喋るな。私が話す」
>

奈岐が私を庇うようにして遠山先輩に向かう。
>

「別々に話をお伺いしますので、その必要はありませんわ」
>

「夜遅く、巫女候補たる者が無断で外出――そして、先日の火災や
(BROKEN:8_20)
>

「遠山、言いがかりはよせ」
>

「私は御花会をまとめる者として、規律に反した行為を見逃すわけ
(BROKEN:8_20)
>

遠山先輩がゆっくりとした動作で踵を返す。
>

余裕のある仕草は、まるで奈岐を挑発しているようにも思える。
>

「食堂での一件、根に持っていたか。しつこい女は嫌われるぞ」
>

奈岐が遠山先輩の背中に言葉を浴びせかけるが、
その歩みは止まらない。
>

食堂で奈岐が遠山先輩を怒らせたこと――規律を下らないと言い、みんなの前で先輩の怒りを指摘し、恥をかかせたこと。
>

本当にあの事を根に持って……?
>

「チッ……鼎、遠山とは私が先に話す。いいな?」
>

「もしかして、また先輩の揚げ足を取ったりするの?」
>

「徹底的にやり込めれば、鼎まで面倒に巻き込まれないはずだ」
>

冗談ではなく、奈岐の目は本気だった。
>

「奈岐、それはダメ。先輩達と関係が悪くなるだけだから」
>

「綺麗事で私に説教か?」
>

「違うよ。今は上手くやり過ごしておかないと……
(BROKEN:8_20)
>

「ここで目を付けられたら、もう活動出来ないかもしれない」
>

奈岐の両手を取り、睨み付ける瞳を見つめながら伝える。
>

「…………」
>

「……鼎は母に会いたいから、そう思うのか?」
>

奈岐の瞳が微かに揺れた。
>

威圧感の代わりに、何かに怯えるような恐怖心が見え隠れする。
>

「それは……お母さんを見つけるための手がかりが欲しいって
(BROKEN:8_20)
>

「でも、友達と一緒にいる時間をなくされるのも嫌だよ」
>

どれだけ疲れていても、私は奈岐との時間を楽しみにしていたのは事実だし……行きたくないって思ったこともない。
>

きっと八弥子さんも知らない奈岐の一面を、毎日見せてくれているような気もするから……だから、とても大事な時間に思える。
>

目の前にいる奈岐を独り占めしているような、そんな気持ち。
>

「…………」
>

黙り込んだ奈岐の顔が何故か赤くなっていく。
>

「奈岐……?」
>

「と、とにかく!(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
>

さっきまでと様子が一転した奈岐が私に詰め寄ってくる。
>

「う、うん……」
>

勢いに押されるがまま、返事をしたけど……良かったのかな?
>

でも、奈岐なら大丈夫……そう思える気持ちも強い。
>

私が思っている以上に奈岐は頭が切れるから、
きっと上手くやれるはず。
>

「鼎、戻ろう。遠山に考える時間を与えたくない」
>

「あはは……」
>

本当に大丈夫……かなぁ?
>

私の手を握りかえした奈岐が道を早足で引き返していく。
>

引きずられるマントの裾を踏まないようにしつつ、
私は奈岐に手を引かれて寮へ戻る。
>

そんな私達の背中を見送る影があることも知らずに――。
>

「頼継様、これでよろしいのですか?」
>

「遠山神住はね、もう少し彼女達に関心を持った方がいいんだよ」
>

「あと――余計なお節介って、僕は大好きなんだよね。
(BROKEN:8_20)
>

「どうなさるおつもりで……?」
>

「ちょっと高遠鼎とお話をするだけさ。ほんの少し、ね」
>

「さあ、行くよ、昌次郎。向山奈岐が気付く前に、
(BROKEN:8_20)
>

「はっ……」
>
seisai_no_resonance/sce05_04_11_0.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)