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seisai_no_resonance:sce05_03_13_1
忍び足で八弥子さんの部屋までやってくると、
静かにノックを繰り返す。
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ドアの隙間から微かに明かりが漏れており、
どうやら八弥子さんはまだ寝ていないらしい。
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「はいはーいって、カナカナと――」
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ドアを開けた八弥子さんが奈岐の姿を見て固まる。
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「ナギっち……?(BROKEN:8_20)
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「偽物とかあるんですか……とりあえず詳しくは中で」
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「そうだね、二人とも入っちゃってー」
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八弥子さんに招かれ、私と奈岐はそそくさと部屋に入っていく。
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部屋に入ると、奈岐の足下にガジが駆け寄ってくる。
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「ガジもナギっちのこと心配してたってさ」
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「…………」
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いつも通りの八弥子さんに、奈岐は何かを言いかけては口を閉じ、
どうにも落ち着かない様子だった。
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「奈岐、八弥子さんと話に来たんだよ」
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軽く背中を(BROKEN:8_20)
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「っ……!?」
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「そ、そんなに驚いた……?」
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「いや……へ、平気だ」
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奈岐はマントの裾を掴んだまま、八弥子さんへ向かった。
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「ナギっち?(BROKEN:8_20)
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八弥子さんはガジを抱き上げて、
いつもの位置にセットし終えたところ。
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奈岐は咳払いをした後、緊張気味に話を切り出した。
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「禰津……この前のことだが、気にしているか?」
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「この前?(BROKEN:8_20)
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「そうだ、お前が知られたくないことを私が話した」
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うーん、と八弥子さんが目を伏せて考え込む。
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「ねえ、ナギっち。アレってさ、よく考えたんだけど……
(BROKEN:8_20)
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八弥子さんの問いに私は首を傾げる。
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でも、奈岐は図星でも指されたかのように、
まばたきを繰り返していた。
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「鬼子のことは知られたのに、ヤヤのことは何も知られていない。
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「っ……分かった、禰津。分かったから、それ以上言うな」
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八弥子さんの考えに気付いたのか、奈岐が慌てて止めに入る。
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「すまなかった。悪かった。だから、それ以上は……」
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「いやいや、カナカナも気付いてないみたいだし、言っておこ」
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「禰津っ……」
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八弥子さんが楽しげな表情を浮かべたまま、私へ振り返った。
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「カナカナ、アレってヤキモチなんだよ?(BROKEN:8_20)
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「えっ……?」
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「…………」
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頬を上気させた奈岐が明後日の方向を向いてしまう。
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背中を向けられてしまっては、その表情が読み取れない。
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「カナカナがヤヤを頼ったことに妬いたんだよねー?」
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だから、八弥子さんに必要以上に突っ掛かった……?
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特に知られたくないような――嫌われるかもしれないようなことをわざわざ口にしてみせた?
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「えーと、それを知ってたから、
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「んー?(BROKEN:8_20)
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心が広いというか、何というか……。
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「それに、あの事に関してはヤヤが怒られる側にいると思うし。
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「ナギっちにも言われちゃったけど、
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「禰津、アレはお前を動揺させようとして言っただけで……」
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「でも、ざっくり来た。だから、事実なんだよねー」
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八弥子さんがあっさりと言ってのける。
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それから、奈岐のもとへ歩み寄ると、髪の毛に手を伸ばす。
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「ナギっちはね、間違ったこと言ってないから、
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八弥子さんが奈岐の髪をもふもふと遊び始める。
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どうにも抵抗出来ないのか、
されるがままの奈岐は眉間に皺を寄せていた。
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その様子を見ていると、一つアイディアが思い浮かぶ。
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「うーん、八弥子さんが全面的に許したとしても、
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「お?(BROKEN:8_20)
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「……それについては反省している」
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もふもふされながらも、奈岐が八弥子さんに謝るが……。
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「なので、ここは八弥子さんと……ついでに私にもちょっとお得な
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「罰ゲーム……?」
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ふふんっと笑みを浮かべながら、私は奈岐に歩み寄った。
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「題して――奈岐をもふもふし放題ですっ」
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「…………」
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内容を悟ったのか、奈岐が露骨に顔をしかめてくれる。
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「カナカナ、それ、グッジョブ!」
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「待て、鼎。し放題って何だ?(BROKEN:8_20)
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「……んー?」
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バレた、と内心で舌打ちすると、奈岐がため息をついてくれた。
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「やるにしても、五分だけだからな。ただし、今回は私に非が
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「はい、奈岐。面倒なことはそれ以上言わないの。
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「…………はぁ」
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諦めた奈岐が肩をすくめながら息を漏らす。
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「一つお前達に聞いておく……楽しいか?」
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「猫毛に癖毛、そしてボリュームのある髪――
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「うんうん、もふもふだよね。ガジよりもふもふしてる」
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その絶妙な混ざり具合は一度触れると、
ずっと撫でていくなる魔性の髪だ。
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触れれば離れられなくなる危険性を伴うけれど、
こんなチャンスはそうそう訪れない。
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「では、八弥子さん……私からお先にっ」
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奈岐の髪に触れると、恐ろしいまでのもふもふが
私の手を呑み込んでいく。
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「も、もふもふっ……!」
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「何なのだ……」
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何をどうしたら、この柔らかさを作り出すことが
出来るのだろうか?
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高級な低反発素材をしのぐ、この吸い込まれる感触……。
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「ナギっち!(BROKEN:8_20)
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腕まくりまでした八弥子さんが奈岐の髪に触れ、
ここぞとばかりに掻き混ぜ始めた。
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「この、お前達は……」
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「奈岐、狼もこんな風にもふもふなのかなー?」
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「私は、ただのくせ毛だ……」
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「でも、猫毛なんだよねー。あとすっごくふわふわ!」
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「ひょっとして、このもふもふが神狼なんでしょうか……?」
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「そうかもしれない。このもふもふ……神様っぽいもんねー」
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「神様っぽいもふもふとは何なのだ……はぁ」
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奈岐の盛大なため息を無視しつつ、私と八弥子さんは時間の許す
限り――正確には五分間だけど、もふもふと髪を堪能していく。
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ただ、もし制限時間を設けていなかったら……
そう思うと、背筋が寒くなってしまう。
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それほどまでに、もふもふがもふもふで――もふもふだった。
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手が離れようにも離れない。
それこそがきっと神狼の業の一つで――。
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「そんなわけがあるかっ!(BROKEN:8_20)
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「延長で!」
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「ヤヤも!」
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「却下だっ!(BROKEN:8_20)
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奈岐がジタバタと暴れ、私と八弥子さんの手から逃れていく。
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そして、手が離れた途端にハッと意識が戻ってくる。
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「また意識が飛ぶぐらいにもふもふしてたっ……」
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「……ヤヤも危なかったよ。あのまま、もふもふし続けていたら、
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八弥子さんの恐ろしい言葉にうんうんと同意しておく。
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「はぁ……まったく、髪がぐしゃぐしゃだ……」
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「ん?(BROKEN:8_20)
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「も、もうしばらく誰にも触らせないっ!」
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全力で頭を振った奈岐がさらに後退していく。
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そんな姿を見ては、私と八弥子さんは顔を見合わせ、
声を上げて笑ってしまう。
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ようやくの仲直りが終わり、明日からはきっと日常が――。
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「あ、課題……」
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その日常の前には、まだ大きな壁があることを最後に思い出す。
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翌朝、奈岐が一人で遠山先輩に謝りに行ったことを聞き、
また一つ胸を撫で下ろす。
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二人とも謹慎処分は変わらないけれど、
これでようやく騒動の幕引きとなってくれた。
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ただし、代わりとばかりに発生した問題は、
底が知れないほど厄介な気がする。
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勾玉のこと――
どうにも嫌な予感が(BROKEN:8_20)
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seisai_no_resonance/sce05_03_13_1.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)