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seisai_no_resonance:sce05_03_01_0
奈岐の部屋の前で、ノックしようとした手が止まる。
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八弥子さんに連れられたままで、心の準備が全然出来ていない。
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何も考えずに話せたらいいんだろうけど……
そんなに器用なこと出来ないし。
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とりあえず深呼吸だけでも、と思っていた時、
八弥子さんがドアをノックしていた。
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「わっ、八弥子さんっ」
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「思い切りって大事だよー」
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そして、ニコリと悪気の無い笑顔を見せてくれる。
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「はぁ……せめて一言ぐらい言って下さい」
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改まったところで、もう一度ドアをノックして呼びかける。
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「奈岐?(BROKEN:8_20)
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すると、すぐにカチャカチャ――と鍵が外される音が聞こえた。
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これは入ってもいいの合図のはず。
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「奈岐、入るね?」
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今度はちゃんと深呼吸してから、ドアノブに手をかける。
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照明の落ちた暗い部屋は、月明かりだけが光源だった。
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制服姿の奈岐が私を迎え入れ、僅かに顔をしかめる。
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「そろそろ様子を見に行こうと思っていたが……
(BROKEN:8_20)
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「やっほー、ナギっち」
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手を振る八弥子さんから奈岐は視線を私へ向けた。
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説明しろ、と顔に書いてあるようだ。
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「ここに来る途中で……ちょっと色々あって」
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「……まあいい。どうせ、すぐに知れることだ」
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奈岐は呆れたように言ってから、ベッド脇の椅子に腰をかけた。
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「鼎、遠山と話したなら、もう知っているだろうが、
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事情を知らない八弥子さんはまばたきを繰り返しながら、
奈岐と向かいのベッドに座る。
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「何かあったの?」
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「そんなところだ。それで、私は遠山と簡単な取引をした」
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「遠山が抱いている風間由布への偏愛について、私は口を閉ざす。
(BROKEN:8_20)
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「ナギっち……?」
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「……そんなこと、したんだ」
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顔見れば落ち着くどころか、最悪の方向に話が流れていて、
唖然としてしまう。
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しかし、奈岐はそんな私を見ていないのか、
どこか得意げな調子で言葉を続けていく。
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「火事に落石騒動だ。普通なら停学もしくは退学処分が下る。
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「…………」
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微笑む奈岐に対して、私は笑顔を返せなかった。
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「鼎……どうした?」
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「ねえ、奈岐、そういうやり方って……感心出来ないよ」
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「だが……退学処分をくらえば、学園付近に近づけなくなる。
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「…………」
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私は息を吐き出すと、ゆっくり目を閉じる。
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そして――<RB='・・・・'>頭の中で<RB>言葉を紡ぐ。
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《ねえ、奈岐、それは遠山先輩の考えを読んだの?》
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「ッ――!?」
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部屋にガタンッと椅子が倒れる音が響いた。
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瞼を開くと、立ち上がった奈岐が目を見開いている。
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《やっぱり、奈岐も理事長と同じことが出来るんだね》
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「な、なんで……そのことを……」
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「あの男……理事長が教えたのかっ!?」
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動揺を顕わにした奈岐の肩が震えている。
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「えっ、な、何?(BROKEN:8_20)
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「くっ、禰津は少し黙っていろっ!
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「聞いて、奈岐。私達が事故を起こしたのは事実だし……
(BROKEN:8_20)
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声を荒げた奈岐をなだめるようにして、私は言葉を選んでいく。
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「学生達に危険が及ぶかもしれない。その犯人が御花会に所属して
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「…………」
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「ねえ……奈岐、一つ答えて。ちゃんと事情を説明しないまま、
(BROKEN:8_20)
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「……っ!?」
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奈岐が再び驚いて顔を上げた。
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やっぱり、取引なんて生やさしいことをしていない。
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奈岐がやったのは、遠山先輩の心を読んだ上での脅迫行為だ。
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「……穢れが出てきた時、奈岐の言う通りに動かなかったら、
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「だから、火を放って岩を落とした理由も説明した?」
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「そんなことを遠山に話しても……信じてくれないっ」
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目を見開いたまま、奈岐がゆっくりと後退っていく。
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そして背中が窓ガラスに当たったところで、奈岐の動きが止まる。
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震えているのか、カタカタと風が吹き付けてきたかのように、
窓枠が音を鳴らしていた。
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「鼎、奈岐は……鼎との時間を守りたくてっ……!」
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「奈岐の気持ちは嬉しい。でも、そのやり方は間違ってるよ」
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「……でも、奈岐にはそうすることしかっ!」
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「奈岐に出来ないことでも、私なら出来たかもしれない。
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そんなことしたら、お母さんに会わせる顔が無くなる。
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どんな状況でも、その選択肢は選んじゃいけない。
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「二人ともストップ!(BROKEN:8_20)
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そう言われて、自分が熱くなっていることに気付いた。
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奈岐は窓を背にしたまま震えている。
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恐怖と悲しみが入り混じったような瞳が揺れていた。
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「奈岐……ごめん、言い過ぎた」
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「…………」
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奈岐が息を呑んだ後、ギッと奥歯を鳴らした。
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揺れる瞳はそのままに、どこか怒りの火が宿る。
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そして、それが向けられたのは私ではなく、
仲裁に入った八弥子さんだった。
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「禰津、お前からも鼎に何か言ったのか?」
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「何かって……ナギっち?」
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「私について知っていること、知らないこと、鼎に話したのか?」
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「えっ……何の話?(BROKEN:8_20)
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「私は落ち着いている。この目でお前を視ているぞ」
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奈岐が大股で歩み、八弥子さんに詰め寄る。
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「卑怯なやり方をした私に鼎が怒っている、そう考えたな」
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「えっ……?」
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奈岐が理事長と同じことを八弥子さんにしていた。
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その考えを覗き見て、言葉にして――晒す。
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「禰津、鼎にいったい何を言った?(BROKEN:8_20)
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「ここに来る前って……」
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八弥子さんを捉える奈岐の両目が細くなった。
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「……私と鼎の間に何かがあったから、間を取り持つ?
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「…………」
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八弥子さんが何も話していないのに、
奈岐が考えを口にしていた。
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見鬼のことを知らない八弥子さんは驚きを隠せず、
まばたきを繰り返す。
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「待って、奈岐。どうして八弥子さんにそんなこと言うの」
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その光景が八つ当たりに思えて私は声をあげていた。
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「……鼎は奈岐のことが嫌いになった?」
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振り返らずに奈岐が私に問いかける。
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「奈岐……?」
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「奈岐は鬼だ。人の心を覗く鬼だから……」
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「……そんなことないよ」
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「でも、事実だ。鼎は奈岐に会うことを怖がった」
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奈岐が知っているはずのないことを言葉にしていた。
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まさか八弥子さんの考えを読んだ……?
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「……禰津、勘付いてはいたな?」
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奈岐は再び八弥子さんに向かっていた。
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「薄々……だけどね。でも、ナギっちはナギっちだし、
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「でも、奈岐は違う……」
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奈岐は一度まばたきをし、再び鋭い視線で八弥子さんを見る。
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「鬼子のことは知られたのに、お前は何も知られていないな。
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「ナギっち、綺麗事とか、そんなんじゃないよ」
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「じゃあ、聞いてやる」
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「禰津八弥子、今までに何人殺した?」
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「…………」
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耳を疑うような質問が奈岐から投げかけられていた。
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何人……殺した?
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八弥子さんが?
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「――二十人までは数えたな、そこで考えるのを止めた。
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「ナギっち……ホントに頭の中を覗けるんだね」
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苦笑混じりに八弥子さんが答えるけれど、その声色は震えていた。
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怒りでも恐怖でもなく……どこか悲しげに。
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「巫女の力に特化しすぎた血の定め、か……
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「禰津、教えてやる。お前が殺した奴らの顔を忘れても、
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「そうして呑気に過ごしている姿を見たら、
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「……それは……分かってる……」
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八弥子さんの視線がつま先に落ちたタイミングで、
奈岐の手が素早く動いた。
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八弥子さんの首を両手で掴み、締め付けるようにして――。
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「奈岐っ!?」
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「両腕をへし折られる覚悟だったが……獣としての牙が折れたか、
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「っ……」
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本気で首を絞められているのか、八弥子さんが苦しげに呻く。
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「――後者か」
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奈岐が手を離し、平静な様子で呟いた。
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静かな部屋に八弥子さんの咳き込む音が響く。
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そんな様子をただ見ていることが出来なくて、
私は気付くと奈岐に詰め寄っていた。
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「奈岐っ、どうして八弥子さんにそんなことするのっ!」
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「コイツは生き血をすするような獣だ。人の皮を被った獣だ。
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「これでも、今まで通りなんて綺麗事を言うつもりか?」
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喉元を押さえた八弥子さんが頭を小さく振る。
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「ナギっち、そんなこと言ったらダメだよ?(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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八弥子さんの家がどういうところか分からないけれど、
今は考えなくても答えが見えていた。
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「奈岐、歯を食いしばって。ちゃんと言ったからね」
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警告の後、私は平手で奈岐の頬を打っていた。
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パンッ――と乾いた音が鳴り、奈岐が目を瞬かせる。
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「…………」
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「遠山先輩のこともだけど、八弥子さんにだって……
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「奈岐、八弥子さんと遠山先輩に謝ろう?」
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私に(BROKEN:8_20)
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そして、僅かに首を振るう。
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「…………っ……」
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奈岐の大きく肩が震え、声を詰まらせる。
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それと同時に奈岐が床を蹴っていた。
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「奈岐っ!?」
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奈岐は長い髪を揺らし、振り返らずに部屋から飛び出していく。
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開け放たれたドアが半開きになり、微かに軋む音を立てる。
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「…………」
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「……ナギっち、泣いてた」
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飛び出した奈岐を心配して、八弥子さんが呟く。
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「八弥子さん、奈岐に言われたこと……平気なんですか?」
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「あはは……平気じゃないけど、いつか言われるって思ってたし、
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どこか弱々しくも苦笑混じりに八弥子さんが言う。
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全部、ホントのこと――。
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例えそうだとしても、奈岐があんな風に八弥子さんを
責めていい理由になんてならない。
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「私、奈岐を追いかけます」
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「えっ、カナカナ?(BROKEN:8_20)
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私が奈岐の友達なら、彼女を取っ捕まえてでも、
ちゃんと謝らせないといけない。
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そうでもしないと、
彼女の居場所がどこにも無くなってしまう気がした。
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seisai_no_resonance/sce05_03_01_0.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)