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seisai_no_resonance:sce04_04_21_1
穢れを切り裂いた確かな手応え――。
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でも、先輩が言った通り、奴らは痕跡を残さない。
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血であれ、肉であれ……斬った箇所は、夜の闇に溶けるようにして消えていく。
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まるで実体の無い何かと戦っている。
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そんな錯覚すら覚えるけれど、奴らは確かにそこにいて、
一度腕を振るえば、木々をなぎ倒すほど、凶悪な一撃を放つ。
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「とどめっ!」
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両手で握った剣を動きが鈍った穢れに突き立てる。
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重い衝撃と共に穢れの身体が揺らめき、
仄かな光となり消滅していく。
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これが巫女として祓うということ。
そして、穢れはそのまま消えゆくのみ。
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「ふぅ……なんとか、なった」
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剣を片手に持ち替え、自身の手を開いてみた。
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穢れが消え去った後も、手には肉を裂いた嫌な感触が残る。
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こういうのだけはしっかり残していくから……厄介。
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「それより……先輩は!?」
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目の前の穢れが消滅したのを確認してから、背後を振り返り、
先輩の姿を探した。
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暗い森、佇む無数の木々、吹き付ける風が木の葉を揺らす。
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先輩は近くにいない……?
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最悪な状況が頭を過ぎり、私はその場から駆け出す。
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「先輩っ!(BROKEN:8_20)
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僅かに感じる冷気を辿り、木々の隙間を抜けていく。
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茂みを掻き分けた先、一際冷気が強い場所へ踏み出す。
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「海……」
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波のさざめきを耳に響き、潮風が頬を撫でる。
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浜辺……似ているけれど、私が流れ着いた場所とは違う。
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剣を片手に握ったまま、確かに感じた冷気の行方を捜す。
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「先輩っ!(BROKEN:8_20)
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再び声を上げた時、私が纏う火の粉に何かが蒸発した。
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僅かな水蒸気を作った氷だ――その先に目を凝らす。
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「切り裂く!」
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氷の短刀を交差し、穢れの身体を切り払う。
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太い両腕が撥ね飛んだかと思えば、黒い霧に変わり四散していく。
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腕を無くして怯んだ穢れに、先輩は新しい短刀を作り出し、
容赦無く二本立て続けに投げ放つ。
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的確に急所を狙った短刀が穢れの頭部に突き刺さり、
その巨体がぐらりと揺らいだ。
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「終わりだ――祓ってやる」
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先輩が再び短刀を両手に呼び出し、地を蹴った。
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その勢いのまま、冷気の残像を残し、穢れの首に目掛けて、
短刀を交差させる。
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そして、左右の短刀が重なり、穢れの太い首を切り裂いた。
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首を<RB='は'>刎<RB>ねられた穢れの身体が光に溶け、遅れて宙を舞った頭部も
光に包まれ消えていく。
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「何とかなったか……」
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「しかし、油断した……もっと早く高遠を止めるべきだった」
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短刀を虚空に還すと、先輩は巫女の姿のまま息を吐いた。
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あの様子からして、もう二匹とも祓えたのだろう。
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「先輩、無事ですか?」
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「高遠、お前は無事のようだな。私もこの通りだ」
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「良かった……じゃあ、もう穢れは?」
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「嗅ぎつけた奴らは全て祓えたはずだ」
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そう言った先輩を冷気が包み、巫女装束から制服姿へ戻っていく。
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同じく先輩に続き、私も勾玉に力を戻す。
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「わぁ、マントの無い先輩ってなんだか新鮮ですね」
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「…………」
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素直な感想を告げたところ、
先輩はバツが悪そうに背中を向けてしまう。
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「高遠、あまりジロジロと見ないでくれ……」
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「えーと……ひょっとして恥ずかしいとか?」
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「……分かっているなら自重しろ」
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ほんのりと頬を赤くしつつも、先輩が振り返ってくれた。
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あの大きなマントが無くなるだけで印象が全く異なる。
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特有の白い肌と淡い色の髪の毛、それから華奢な身体。
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氷のイメージがあるからかもしれないけれど、
触れれば溶けてしまいそうなほど、儚げな雰囲気があった。
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「あの先輩……さっきの衝撃なんですけど、もしかして……」
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「ああ、氷と炎が正面からぶつかると、どうなるか――
(BROKEN:8_20)
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「やっぱり、そうですよね……あはは」
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どれぐらいの熱をはらんでいるのか分からない私の炎と、
先輩の氷が水になり、そのままぶつかってしまえば……。
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当然のように水蒸気が発生して、あのような霧を作り出した。
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衝撃はその時の産物と考えても良さそう。
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「……勢い任せで、すみませんでした」
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「いや、高遠が謝る必要は無い。私の力を見た結果、高遠が思って
(BROKEN:8_20)
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「私が思ったこと……?(BROKEN:8_20)
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いつも以上の力で炎を爆発させただけにしか、
見えないと思っていたんだけど……。
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下手すると、自爆したバカにしか見えない。
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「あ、いや……その……勢いを……感じたんだ」
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少し言葉を選ぶようにながら先輩が呟く。
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「け、決して悪い意味じゃない勢いでっ……その……なんだ……」
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ぼそぼそと呟いた先輩の言葉の続きを待ってみるが、
口籠もってしまったまま、何か言うことは無かった。
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「えーと……次は少し抑え気味でいきますね」
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きっとこれが最善の選択かな、と先輩に告げる。
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「ま、待って、高遠が抑える必要は無いっ……」
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「えっ、でも、そうしないとまた爆発しちゃうかもですよ?」
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「だから、奈岐に問題があっただけで……高遠は別に……」
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先輩の言葉を聞いて思わず首を傾げてしまう。
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何だか、いつもと調子が違うような?
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歯切れが悪いというか、見た目相応になっているというか。
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「だから、高遠は悪くなくて……奈岐が良くなかっただけで……」
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あれ?(BROKEN:8_20)
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「奈岐?」
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「えっ?」
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僅かに潤んだ瞳が私を見上げていた。
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何がどうなっているのか分からないけれど……
私が名前を呟いたことに先輩が反応したの……かな?
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「あ……うっ……」
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自分でも気付いたのか、先輩の顔が見る見る内に上気していく。
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「と、とにかく、高遠はそのままでいい!(BROKEN:8_20)
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「は、はいっ」
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掴みかかるような勢いで言われて、思わず返事をしてしまう。
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でも、本当にあの調子でいいのかな?
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「高遠、炎と氷だ。相反するもの故、調整するところだ」
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「……そうですよね、今日が最初だったわけですし」
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「人と合わせようとしたのも、今日が初めてだ。
(BROKEN:8_20)
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責任は全部自分にあると先輩は繰り返す。
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でも、それは何だか違うように思えて……。
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「私も合わせようとしたのは初めてですよ。それに一対って
(BROKEN:8_20)
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「……で、でも、拒んだのは奈岐の方で……」
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「それを無理にこじ開けようとしたのは私です」
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と、微笑んでみるが、先輩の顔が晴れてくれないので、
間近にある頭に手を伸ばす。
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「んっ……」
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先輩の頭をなだめるように撫でると、どこか心地良さげに
目を細めていく。
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あれ……怒られない?
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じゃあ、今しかない――と思い、私は頭の端に留めていたことを
ゆっくりと口にする。
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「私、先輩と友達になれますか?(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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「えっ……?」
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「仲良くなるのもそこからスタートかな、と」
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友達になる――それは一つの約束だった。
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八弥子さんが先輩は氷を使うと言い当てたので、
あの時の約束を果たさないといけない。
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『もしヤヤが正解したらね――
(BROKEN:8_20)
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そんなことを言われちゃってたし。
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それに何よりも今はもっと先輩のことを知るべきだ。
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でないと、あの氷を溶かすことは出来ない。
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その先にいる先輩のところには辿り着けない気がするから。
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「と、友達になったら……どうなる?」
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おっかなびっくり、そんな様子で先輩が尋ねてきた。
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「名前で呼びます。敬語も止めます。一緒にご飯も食べます。
(BROKEN:8_20)
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「…………」
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「付け足しておくと――嫌って言わせる気はあまり無いです」
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気持ちを正直に告げると、先輩が思わず吹き出していた。
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「お前は……正直だ、本当に真っ直ぐすぎる」
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「あはは、嘘もはったりも得意じゃないんで」
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「それに……そんな風に言われると、断れないじゃないか」
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「じゃあ、返事は『はい』でいいですか?」
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「……それで……うん、それでいい」
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緊張からか、不思議に揺れる先輩の瞳を見つめつつ、私は微笑む。
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「それじゃ、失礼して――こほんっ、これから奈岐って呼ぶね」
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「うっ……な、なんだか、照れ臭い……それ……」
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「だから、奈岐も鼎って呼んで」
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「うっ……ぅ……」
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これ以上無いぐらい顔を赤くした先輩の視線が、
下を向いたまま帰ってこない。
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「照れ臭いのは私も同じだから、ほら」
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僅かに熱くなっている自分の頬を指さす。
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「……少し赤い、な」
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「あはは……すぐに切り替えるのは難しいしね。
(BROKEN:8_20)
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敬語もちゃんと無しにしないと、いつもの調子に戻りそう。
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意識、意識――意識しようと繰り返す。
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「…………」
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「そう……だな」
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微かに微笑んだ先輩が砂浜をゆっくりと歩き出した。
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「マントが森の中だ。回収に行く」
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「それから、今日はもう引き上げよう――か、鼎」
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背中を向けた先輩がすたすたと歩いて行く。
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「あはは、照れるね……でも、ちょっと嬉しい」
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距離が少しだけ縮まったような、そんな気がして、
おのずと口元が緩んでしまう。
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「奈岐、明日の夜はどうするの?」
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今は意識して名前を呼ぶようにしているけど、
それはすぐに自然と馴染んでいくだろう。
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「……鼎に問題がなければ、明日も試すつもりだ」
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「じゃあ、もし問題があっても、色々パスして来る」
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「やれやれ、鼎らしい回答だな」
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自然な関係になれた時、一対としてどこまで近づけているか、
それは始まったばかりだから、まだ想像も出来ない。
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でも、今よりももっと――
もっと仲良くなれているはず、そう思いたかった。
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seisai_no_resonance/sce04_04_21_1.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)