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seisai_no_resonance:sce04_04_19_1
森の奥深くに辿り着く――寮を出てから、もう既に一時間以上は
歩いた気がした。
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海が近いのか、磯の香りが風に乗って漂ってきた頃、
先を進んでいた先輩が足を止める。
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「ここまで来れば充分だろう」
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「充分……?(BROKEN:8_20)
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「いいや、他の巫女候補達に気付かれないぐらいに
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「勘のいい末来の奴や禰津も気付かないだろう」
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振り返った先輩は不敵に笑い、ポケットからノートを取り出す。
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そしてノートに何かを手早く書き込み始めた。
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「えっと、何を……?」
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「ああ、これは戦闘記録だ。穢れが現れる現れないにせよ、
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「その日、穢れが現れたか否か――記録を残すことで、
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なるほど……と納得して手を打った。
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「記録を取るのは、いつもこの付近だ。問題は観測者が私一人
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先輩の視線が私へやってきたので笑顔で頷いておく。
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すると、少し困ったように先輩の視線が左右した後、
再びノートへ戻っていってしまう。
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「……六月三日、快晴。月は満月に近い、一日前か。時間は午後
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すらすらと書き込んでいくが、先輩は観測用の器(BROKEN:8_20)
持っていないし、時計さえ見ていない。
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どうして分かるんですか、と訊ねようとした矢先、
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「――高遠、時にお前は信心深い方か?」
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「えっ?(BROKEN:8_20)
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「神仏を否定するか否か程度の質問だ」
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どこからそんな話が出てきたのだろうと思いつつも、
神仏という言葉を頭の中で巡らせていく。
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「うーん……毎日祈ったりとかはしないですけど、
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「それで充分だ」
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記録を取り終えたのか、先輩はノートを手に持ったまま、
細い顎を上に、夜空を見上げた。
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「<RB='さるかみ'>猿神<RB>伝説というものがある――地方により伝わる物は様々だが、
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猿……?(BROKEN:8_20)
先輩は話を続けていく。
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「昔、山に住む猿神が毎年、若い娘を贄として麓の村に要求をして
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「そこで……ある時、白羽の矢が立った家の父親は、娘を差し出
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「父親は猿神の寝床にて、奴が漏らした独り言を聞く」
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「奴はある神狼から逃れ、この地に辿り着いたこと。その神狼は
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「父親は猿神の弱点は、その神狼にあると知り、八方を尋ね、
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「神狼はその願いを聞き届け、贄を要求された夜に、
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「そして翌朝、村人達は打ち倒された猿神と、
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「村人達は神狼に感謝を示し、手厚く葬り、新たな社を建てること
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語り終えた先輩の視線が私へ戻って来る。
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「その神狼はな、真っ白な狼だったと伝わっている」
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「<RB='くし'>奇<RB>しくも、織戸伏で生まれる子は、稀に色素の薄い……
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それは鬼子と呼ばれる存在、目の前にいる先輩のこと。
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「鬼と呼ばれるのが癪でな、私は自身を伝承にある神狼、
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「そして、この島に現れる穢れは、猿神が残した呪いではないか、
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「いずれにしても悪しき者、この世の者ではないだろう」
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「――長くなったが、ここで神仏とやらの話に戻そう」
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「もし私が神狼の眷属であるならば、穢れを打ち倒すことに、
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加護……その狼の神様が守ってくれるのだろうか?
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そう思っていると、先輩が小さく頷いたように見えた。
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「眷属たる者が穢れを祓う――加護を得られるだけの行為だ」
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「だから、高遠――私と共に戦う限り、穢れに屈することは無い。
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まばたきを繰り返す私に対して、先輩は真面目な眼差しのまま。
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もしかして……私が穢れを怖がったことを、気にしてくれているのだろうか?
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そうだとしても、ちょっと話が壮大すぎる――先輩らしいけど。
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「だから、先輩は狼のマントを付けているんですか?」
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「そうすることにより加護を得ている」
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お母さんの勾玉が私のお守りであるように、
先輩にとってお守りみたいなものなのかな?
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ちょっと可愛らしいお守りだけど……鬼とか付けられた言葉で
呼ばれるより、ずっといいかもしれない。
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「…………」
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ノートをポケットに仕舞い、先輩が私に歩み寄ってくる。
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そして身長差のある私を見上げ、眉を少しだけ顰めた。
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「むぅ、高いぞ……高遠、少しかがめ」
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「頭撫でてくれるんですか?」
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「そうだ。末来の奴がそうしていた時、お前はとても落ち着いてい
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んー、年上なりの気遣い……?
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無下には出来ないかなと思いつつ、少し膝を折った。
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「よし……私がついている心配するな、高遠」
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そう言われながら先輩に頭を撫でられる。
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うーん……でも、やっぱり何か違う。
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手の感触とかそういうのじゃなくて、もっと違う意味で……。
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「――――」
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何となく先輩の頭に手を伸ばす。
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そして、そのまま同じように頭を撫でてみる。
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「えっ?(BROKEN:8_20)
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「もふもふだっ!!」
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「た、高遠……?(BROKEN:8_20)
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柔らかい猫毛に癖毛、そしてボリュームのある髪――!
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その全てが合わさり、絶妙なもふもふ加減を生み出していて、
先輩の頭を撫でる手が離れようにも離れない。
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このままずっと撫でていたいような感触……こ、これは……!
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「気付きましたよ!(BROKEN:8_20)
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「…………」
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「もふもふですっ!(BROKEN:8_20)
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「ぐっ……ね、禰津と同じことを言う奴が増えた……」
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これはいけない……穢れと戦う前なのに和んでいる。
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でも、分かっていても、手が離れないほどの中毒性……!
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このままじゃ、私っ……!
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「うううぅっ、はーなーせー!(BROKEN:8_20)
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先輩がじたばたしつつ私から距離を取っていく。
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「はっ……!?」
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先輩の頭から手が離れたことにより、ようやく正気が戻ってくる。
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「何なのだ……禰津といい、お前といい……」
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「す、すみませんっ……つい……」
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悪いことをしたとは思いつつも、先輩の髪に目がいってしまう。
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とても長くて独特な猫毛。一度でも触れれば、
そのまま撫で続けてしまう魔性の力を持つ。
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「ごくりっ……」
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「高遠、落ち着け。せめて今日すべきことをしてからにしろ」
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呆れ返ったような半眼で睨まれて、再び正気が戻ってきてくれる。
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「うっ……そ、そうでした……」
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「まったく……心配してやったと思えば、この様だ……」
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視線を逸らした先輩が拗ねたような調子で呟く。
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その様子が妙に可愛らしく思えて、思わず吹き出してしまう。
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「はぁ……何を笑っているんだか」
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「時間が惜しい、そろそろ始めるぞ」
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先輩はマントを止める石に手をかけた。
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「あ、はい、分かりましたっ」
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私も遅れまいと勾玉を手に取ったところで先輩を見やる。
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「あの、先輩」
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「……何だ」
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「もし上手く戦えたら……頭、また撫でてもいいですか?」
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「…………」
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「はぁ……特別だ、考慮してやる」
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苦笑した後、先輩が触れた星霊石が輝き始める。
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「力を使い、穢れをおびき寄せる――やるぞ、高遠」
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一転して真剣な表情で言い、先輩が目を閉じた。
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seisai_no_resonance/sce04_04_19_1.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)