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seisai_no_resonance:sce04_04_18_0
足下に注意を払いながら、森の暗がりを歩いていく。
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夜目が利くのか、小さな先輩は進路に迷うこともなく、
すたすたと闇の中を進んでいた。
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息を潜めて、気配を殺せ――言われた通りにしているつもりだけど本当に気配まで殺せているのかは分からない。
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先輩に何も言われないということは、それなりに出来ていると
考えてもいいんだろうか?
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「…………」
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それにしても、夜の森は一段と暗い。
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先輩とペアだと知らされた後、ガジと一緒に来たけれど……
その時よりも暗く感じる。
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樹木や茂みが邪魔をしてるせいもあってか、
視界の半分以上が暗闇に閉ざされていた。
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もしかして穢れから姿を隠すため、
月の光が届いていない道を進んでいるのだろうか?
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そうだとしても……さすがに視界のほとんどを遮られている状況は不安を掻き立ててくれる。
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注意して僅かに息を吐く――情けないことに唇が震えていた。
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恐怖から目を逸らそうとすればするほど、
穢れの存在が頭の中で鮮明に描かれていく。
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長い爪、木の幹ほどあるような太い腕――
得体の知れない仮面に隠れた鋭い牙。
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もし引っ掻かれれば、もし噛み付かれたら、
腕や足なら確実に持って行かれるだろう。
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まだ手足が繋がっているものだと信じてやまい間に、
奴らは食いちぎり、引き裂き、絶望を与えてくる。
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そうなった時、私はまだ戦えるだろうか?
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勾玉を握りしめた手先が震え始める。
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死に直面するのは怖いし、恐怖して当然。
でも、怪我を負うことも恐怖してしまう。
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痛い思いなんてしたくない。誰だってそうだ。
特にあんな化け物に一撃でももらったら――。
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「…………」
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落ち着け、と頭の中で繰り返す。
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思考が悪い方向に傾いているようだと、怖くないものでも、
怖いと感じてしまう。
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そして恐怖は絶対的な隙を生む――だから、落ち着こう。
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二度目、深く吸った空気をゆっくりと吐き出していく。
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「――高遠、安心しろ。付近に穢れはいない」
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「……分かるんですか?」
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先を歩いていた先輩が振り返り、私に声をかける。
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「慣れれば感覚で分かる。空気が変わるんだ」
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「…………」
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「ざらつくような、肌を突き刺すような……冷たい空気。
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今までに二度、穢れと遭っているけれど、
まだそこまで把握することは出来ない。
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でも、穢れが出てくれば、たぶん分かる……と思う。
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空気が変わる――先輩の言葉通り、この世のものと思えないほど、感じる気配が冷たく一転するから。
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「恐怖するということは、普段何でもないような相手ですら、
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「……それは何となく分かってます。さっきから落ち着こうって、
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空笑いを浮かべながら先輩に答える。
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「高遠、その石を握るのは癖か?」
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「あ、はい、癖……かもしれないですね」
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今も手で勾玉を握りしめたままだ。
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こうしているだけでも、お母さんの勇気を少し分けてもらえるような気がしてくる。
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「私が今まで調べてきた結果からだが、穢れは石の力に引き寄せら
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「えっ……!?」
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慌てて勾玉から手を離してしまう。
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「星霊石だったか……松籟会のネーミングセンスは今一つだな。
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「そんな問題なんですか……」
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「そうだな――高遠、特別に私が考案した名称を見せてやろう」
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先輩が立ち止まると、コートのポケットに詰め込まれたノートを
あさり始める。
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どれもマル秘と書かれており、やっぱり区別の出来ないノートから先輩は難なく一冊を取り出してきた。
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「名称、由来、性質、全てまとめてある」
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「えーと……」
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差し出されたということは……読めということだろうか?
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「特別に、今回だけだ」
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念を押されてしまい、私は先輩が差し出すノートに手を伸ばした。
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恐る恐る一ページ目から開いていく。
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この暗がりの中、文字を読むのは……なかなか難しい。
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「えーと……警告……この書物に許可無き者が触れた場合、
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「先輩、字までちっさいですよ!」
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「字までとは何だ……」
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「はぁ……そんなことより、それはただの警告だ。
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言われるがまま、ページをめくっていく。
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「星霊石・改名案その一……えーと……うーん……?」
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「どうした?(BROKEN:8_20)
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「そうじゃなくてですね……漢字が読めないというか、
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先輩にノートに書かれてある石の名前を見せてみる。
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「<RB='ズィーベン・ヴォルフ'>零七式闇喰狼<RB>か、ふりがなが振ってあるだろう」
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読めるわけが無かった。
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「……何語ですか」
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「ドイツ語だ。響きがとても良い」
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こんな離島に来てドイツ語を聞くことになるなんて……。
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「えーと、先輩っ……とりあえず、今は先を急ぎましょう。
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「待て、ドイツ語以外にもあるぞ」
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「<RB='ダーインスレイヴ'>吸血暴君<RB>――生き血をすするという魔剣の名前を由来にして」
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「それでも何語か分からないですし……あと巫女というより、
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「高遠、その方がいいと言っただろう。石を禍々しいものだと
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それでも、その名前は無いと思う。
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もし……学園長辺りがダーインなんとかとか言い出したら、
それは酷い絵しか思い浮かばない。
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「あとは……そうだな、<RB='ましょくせき'>魔触石<RB>というのもあって……」
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「あの先輩っ、穢れが石の力に引き寄せられるって話、
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歯止めがきかなくなる前に全力でストップをかけておく。
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先輩はノートを片手に、とても不満そうな息を吐いたが、
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「高遠、せめて由来ぐらいは聞いておけ」
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ストップをかけたにも関わらず、まだ話を続ける気である。
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「先輩、三年生ですよね。年上ですよね」
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「…………」
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もう一押し、先輩が怯んでいる間に、もう一押し。
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「ぐっと我慢できる年上の人って素敵ですよね」
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「……んんっ、た、高遠、聞きたい話は石のことだったな?」
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咳払いをした先輩がノートをポケットに押し込めていく。
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良かった……どうやら脱線した話を戻してくれるらしい。
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「アレは血の匂いに寄りつく獣と同じだ。
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「もし私や高遠がここで石の力を使ったとしよう。
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「……石の力に……でも、もしそうだとしたら、
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「悪くない着眼点だ。しかし、模擬戦の時に奴らが現れることは
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話を続けながら先輩が再び夜の森を歩き出し、私もそれに続く。
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「奴らはそれなりの知性を持っている。候補とはいえ、複数の巫女
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「ならば、徒党を組んでみてはどうか?(BROKEN:8_20)
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あの穢れが群れで……想像するだけでも嫌な汗が出てきそう。
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「もし群れで現れるようなら……最初の最初で危なかったです」
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「群れを作らない理由として、まず考えたのがテリトリー意識だ。
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「テリトリー意識があれば、単独で狩りに出る理由も説明は付くが
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「マーキングもなければ、見回りもしていないだろう」
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先輩は次々と語りながら歩き続けていく。
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周囲に穢れがいないことを知ったからか、それとも何か刺激されるものがあったからか、普段よりも饒舌になっている。
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「次に考えたのが絶対数の少なさだ。数が少ないが故に徒党を組む
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「どれだけ狩ったとしても、奴らは姿を消さない。
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「でも……群れたりはしないんですよね?」
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私の不安そうな声を聞いて、先輩が顔だけ振り返ってみせる。
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「複数を相手取ったこともあるが、多くて三匹程度だ。
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三匹を相手に……先輩は簡単そうに言ったけれど、
それってすごいことなんじゃ?
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「穢れは一晩探しても見つからない時もあれば、
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「あの大柄な身体を得るにはそれなりの成長時間が必要となるはず
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「生物のカテゴリーからは既に外れていると考えた方がいい。
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(BROKEN:8_20)
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人工物にしか見えない面や腰の装飾……穢れと呼ばれる化け物は、みんな同じ姿をしているのだろうか?
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疑問に思い、先輩にそう尋ねようとした時、
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「よく見ているな。穢れはいつもあの姿で――」
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「えっ?」
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質問よりも先に答えが返ってきていた。
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これってどういう……?(BROKEN:8_20)
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「…………」
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戸惑う私を見て、先輩は少しだけ慌てたように再び歩き始めた。
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「高遠、先に結論から告げよう。私は穢れを捕獲したい。
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そして、何事も無かったかのように話が再開される。
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私、ホントに質問した覚えは無いのに……あ、あれ?
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「……聞いているのか?(BROKEN:8_20)
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「は、はい、そのつもりで来ていますから」
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「だが、今日はある意味で初戦だ。捕獲は視野に入れなくていい。
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「初戦って……先輩と私のペアで、ですか?」
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「……そ、そうだ」
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模擬戦ではさっぱりだけど……
こんな形でもペアを組めるのは嬉しいかも。
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ううん、とても嬉しい。ずっと一人だって思い込んでた分だけ、
すごく嬉しい気持ちになれる。
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「…………」
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「その……なんだ……高遠、私も誰かと組むのは初めてだ。
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「こちらこそ、ふつつか者ですがよろしくお願いしますっ」
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と、頭を下げるが、先輩は明後日の方向を見たまま帰ってこない。
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「それで……初歩的な質問かもしれないですけれど……
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「私も経験したことはないが知識としてはある。
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「……?」
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先輩の言った距離の意味がよく分からなかったけれど、
幸魂での支援についてそのまま説明を続けてくれた。
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支援の方(BROKEN:8_20)
かなり集中力を必要としそう。
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一対であることを体現するため、もう一人の巫女に力を預ける。
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具体的には、巫女が荒魂を発現させた後、もう一人の巫女が持つ
星霊石に触れ、力の交信を行う。
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そして、もう一人の巫女が幸魂を発現させる。
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そこから幸魂の巫女は力をコントロールし、
ペアの巫女に集中させるのが支援方(BROKEN:8_20)
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私の場合は……自身の炎の力を先輩に預けることになるんだけど、こればかりは実際にやってみなければ分からない。
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先輩も同意見で、やってみなければ分からないと繰り返していた。
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そういえば……先輩の力って私が初めて見ることになるのかな?
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八弥子さんとの賭けが頭の中を過ぎっていく。
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もし八弥子さんが的中させていたら、
ちゃんと約束を守らないといけないよね。
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「…………」
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変なところで緊張し始めている自分に気づき、
一度だけ深呼吸して落ち着けておく。
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seisai_no_resonance/sce04_04_18_0.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)