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seisai_no_resonance:sce04_04_15_0
向山先輩の後に続いて、模擬戦が行われている場所から
さらに森の奥へ入っていった。
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しばらく歩いた先で、ようやく先輩が足を止めてくれる。
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模擬戦の喧噪は遥か遠く、もう聞こえて来ないぐらいだ。
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「…………」
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振り返った先輩はフードの位置を気にするように整え直す。
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「向山先輩、今日も見に来てたんですね」
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出来る限り、無難な話題を振ってみせるが、先輩の表情は硬い。
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「高遠――先ほどのことだが、余計なことをしたか?」
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「そんなことは無いです……と言いたいところですけど、
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「お前は正直者だな……」
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苦笑した向山先輩が私へ向かい直る。
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「あの男は……理事長はお前が思っている以上に危険な人物だ」
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「あの若さで理事長という地位だけでなく、松籟会にまで
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「それだけ切れ者ということですか?」
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「そう思うだろうが、それ以上だ。自身を<RB='いや'>卑<RB>しむわけではないが、
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「…………」
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先輩と理事長の共通点――鬼子という言葉が頭を過ぎる。
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類い稀なる才能を持っていることは知っているけれど、
具体的なことは何も聞いていない。
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「高遠、悪いことは言わない。出来るだけ、あの男に近づくな。
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「それは……どうしてですか?」
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「…………」
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先輩は迷うように嘆息しつつ目を伏せる。
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「鬼子を相手にするというのは……そういうことなのだ」
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そして、返ってきた答えは歯切れの悪いものだった。
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「それよりも、高遠には話がある。お前が母親を探す件で、
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「その上でお前が納得出来るようならば、
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「それって……この前、話してくれたことですよね?」
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その通りだと先輩が頷く。
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「手伝ってもらえるのは嬉しいです。でも、手の内って……?」
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「実際、目にしてもらう方が早い」
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「こっちだ」
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先輩がマントを翻し、さらに森の奥へ歩んでいった。
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私は遅れないように早足で後に続く。
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森のさらに奥深く。そこのあったものは――
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「これって……!」
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木々がなぎ倒され、所々に爪で引っ掻いたような痕が残る。
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獣などの仕業じゃないことはすぐに分かった。
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地面に散在する大きな足跡には見覚えがある。
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「穢れ……」
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巫女によって祓われる得体の知れない化け物達。
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既に二度も穢れとの戦いを経験しているからこそ分かる。
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ここで誰かと穢れが戦った――これはその痕跡だ。
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「そう、これは穢れが残したものだ」
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先輩はフードを下ろすと、その場にかがみ込む。
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そして、色素の薄い髪を掻き上げながら、穢れの足跡に凝視する。
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「穢れは一度祓ってしまえば、その形を残さない。
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「ここで穢れを誰かが祓ったんですか?」
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「そういうことだ」
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先輩が立ち上がると、私へ振り返った。
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「高遠、巫女の力は松籟会の人間が仕組んだ茶番の為にあるもの
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「それは……そうかもしれないですけど、その穢れを祓う為、
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「百歩譲って模擬戦を価値のあるものだとしても、今の御花会や
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「今の模擬戦は穢れを祓う為の訓練では無く、それぞれの力を誇示
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「巫女候補は選ばれる為に模擬戦を重ねる――選ばれる為だ。
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「彼女達にとって、巫女に選抜されることが最重要視されている」
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巫女になることは、織戸伏の子にとって一番の憧れ。
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巫女に選ばれれば、危険を冒す代価として、
その家は松籟会の庇護の下、不自由なく生活することが出来――。
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そして、一度でも巫女を輩出した家は名家として優遇される。
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「先輩は……どうしてそんなことを私に教えるんですか?」
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「高遠、私は巫女の力をもっと有効に使うべきではないかと
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「有効に……?」
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「先に、私の手の内を明かすと言ったな。
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先輩がなぎ倒された木々や穢れの足跡へ視線を移す。
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「――私は穢れを祓うことで根本的な解決策を探している」
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「えっ……?」
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穢れを祓う……?(BROKEN:8_20)
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そんな疑問を思い浮かべている間にも言葉が続けられる。
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「毎年、巫女が選ばれ、儀式が行われているにも関わらず、
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「(BROKEN:8_20)
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「だからこそ、私は根本的な解決策を望む」
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「…………」
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いつもの妄想染みた言葉や台詞ではなく、
大真面目に先輩はそう言っていた。
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おそらく唖然としてしまっている私に先輩の視線が戻って来る。
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「私は穢れを祓い、穢れの存在を調べることで、その発生を止める
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「だが、見ての通り、穢れを祓っても……その痕跡は、足跡や
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「正直なところ、行き詰まっていたわけだ」
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やれやれといった様子で先輩が肩をすくめてみせる。
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真面目な話をしている時に見ても、やっぱりその様子は、
少し不釣り合いに思えてしまう。
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「そこでお前の母親の話を聞いた。今までの記録に名前を残して
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「…………」
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「奴らが、わざわざ隠すようなことだ。何かあるに違いない」
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「高遠未来は巫女だった――そこから儀式や穢れに関して分かる
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「だから、高遠、お前に協力したいと私は申し出た」
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そう言った先輩の表情は真剣だった。
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それどころか得体の知れない威圧感すら感じさせるほど、
先輩は真っ直ぐに私を見つめ続ける。
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何だろう、この感覚……?
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怖気立つとはまた違う奇妙な圧迫感――。
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「…………」
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気持ちを落ち着けようと、微かに震える唇から息を吐き出す。
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それだけでも思考が少しまとまってくれる。
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「――向山先輩、私も協力していいですか?」
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「…………」
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眉をしかめた後、先輩が驚いたように声をあげた。
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「協力……高遠、穢れの存在を調べるつもりか?」
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「ほら、私だけ手伝ってもらうのもフェアじゃないですし、
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「……本気のようだな」
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「もちろんです」
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穢れの存在、巫女の力、お母さんの行方――勘でしかないけれど、全部が全部繋がっているような気がした。
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だから、私にとっても先輩が探っている情報は知ってみたい。
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「でも、一つだけ先輩に言っておくことがあります」
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「…………」
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「私、巫女になることを諦めるわけじゃないですから。
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私がそう告げることを知っていたかのように、
先輩は吹き出すようにフッと笑う。
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「――分かった」
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その後、先輩は再びフードを深々と被る。
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「高遠、協力すると言ったな?(BROKEN:8_20)
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「夜に……ですか?」
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「人目に付かないからな。都合がいい」
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先輩が夜な夜な出歩き、寮に戻らない訳が薄々分かった気がした。
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「……分かりました。先輩を手伝うつもりですし、行きますよ」
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「フッ、真っ直ぐな奴だ」
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そんな先輩の笑顔を見て、ふと思い当たることが一つあった。
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「先輩、今まで穢れを一人で祓っていたんですか?」
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「そうだ。そもそも話が通じないだろう。皆が皆、巫女の座を
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「うーん……でも、八弥子さんなら手伝ってくれそうですよ?」
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頭に思い浮かんだあの人はどちらかといえば、
巫女に拘らない向山先輩に近い気がする。
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「むぅ……禰津の奴は、私を猫扱いするから苦手なのだ……」
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頬を少し膨らませた先輩がぼそりと呟く。
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そういえば、八弥子さんが先輩の髪をもふもふしたいとか言ってたような気もする。
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「それに……禰津は穢れを祓うためとはいえ、戦うべきではない。
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「…………?」
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続けた言葉の意味が分からず、首を傾げてしまう。
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「高遠、お前は一度寮へ戻れ。そろそろ陽も傾く」
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「先輩はどうするんですか?」
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「――夜が来るのを待つ。それだけだ」
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思わせぶりなことを言ってキャラを作っているみたいだけど……。
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先輩は……ただ単に寮へ戻りたくないだけな気がする。
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なので――。
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「先輩、ちゃんとご飯を一緒に食べてから外出しましょう」
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そう言ってから、マントの中にあった先輩の手を取った。
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思っていた以上に……細く小さな手を握りしめる。
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「なっ……何をするっ……!」
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「ご飯を食べないと大きくなれないですよ?」
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「べ、別に、それはっ……!」
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「それは?」
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「うぐっ……た、高遠……お前、意地が悪いなっ」
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「ふふんっ、そうでもないですよ」
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何となく優位に立てたことと、顔を赤らめた先輩が可愛くて、
ついつい笑みを浮かべてしまう。
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そして、そのまま先輩の小さな手を引きながら、
寮へ戻ることにした。
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口先こそ尖らせて拗ねた様子の先輩だったけれど、
抵抗することもなく、素直に帰路を歩んでくれる。
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seisai_no_resonance/sce04_04_15_0.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)