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seisai_no_resonance:sce04_04_10_0
闇雲に走って、
草木に足を取られそうになって、
それでも走り続けて――。
>

どこに向かっているのかさえも途中から分からなくなって、
不意に足を止めてしまった。
>

「はぁっ……はぁっ……」
>

「ホント……何やってるんだろ、私……しっかりしないと」
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お母さんの勾玉を握りしめて、深呼吸を繰り返す。
>

「しっかりしないと……」
>

落ち着け、と自分に何度も言い聞かせる。
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「落ち着いたか?」
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「うん、少し――って向山先輩っ!?」
>

犬か狼か、どちらとも取れない顔がついたフードを深々と被り、
向山先輩が木の陰から姿を現した。
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「ん、ああ、これか?(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
>

得意げに語ってくれたけど、私の驚きはそこじゃない。
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「ど、どうして、ここにいるんですか?」
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「この森は私にとって庭のようなものだ。高遠が泣きっ面で
(BROKEN:8_20)
>

「…………」
>

また得意げに語られてしまう。
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って、向山先輩がそのことを知っているってことは……!
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「あの、先輩……もしかして、模擬戦を見てました……?」
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「御花会の活動には興味など無いが、今年の巫女候補の実力には、(BROKEN:8_20)
>

「じゃあ、私が完敗するところも?」
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「両の目で<RB='しか'>確<RB>と」
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先輩の笑みを見て、ずんっとまた気持ちが落ち込んでいく。
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「高遠、何を項垂れている。力を使って二度目のお前が遠山に
(BROKEN:8_20)
>

「それでも負けは負けですよ」
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「意外に頑固な奴だな……なら、一つ良いことを教えてやる」
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先輩が私に歩み寄り、視線を左右させて気配を探る。
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「よし、誰もいないな……高遠、ちょっと屈め」
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「……どうしてです?」
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「お前の背が無駄に高いから耳打ち出来ない」
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「私、そこまで背が高い方じゃないですよ?」
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そこまで言った時、向山先輩が何とも言えない瞳で
私を睨んできているのに気付いた。
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「…………」
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すごく悪いことをしてる気になってきた……。
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私は少し膝を折る姿勢で先輩と向かい合う。
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「よし、耳を貸せ」
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(BROKEN:8_20)
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そして、私が屈んだ姿勢のまま、先輩に耳を貸すと、
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「ああ見えて……遠山の奴は一切手を抜いていなかった」
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「えっ?」
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思わず素っ頓狂な声が漏れてしまう。
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「余裕を振る舞ってはいるが、全力でお前の相手をしていた。
(BROKEN:8_20)
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「でも、私……軽くあしらわれたような」
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「そう見えるようにしただけだ。一人で挑んできたお前に、
(BROKEN:8_20)
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「面倒見のいいお姉さんとやらを気取っているが、
(BROKEN:8_20)
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あっけらかんとする私に向山先輩が続けていた。
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「何が言いたいかというと、遠山の奴に本気を出させるとは、
(BROKEN:8_20)
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「あ、ありがとうございます……」
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「高遠、もっと屈め」
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「……?」
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何か言うとまた泣きそうな顔をされる気がしたので、
大人しく地面に膝をついておく。
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「よしよし」
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と、何故か向山先輩にも頭を撫でられてしまう。
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「ええと……?」
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末来さんはお姉さんというか、お母さんみたいだから、
しっくり来るけど、コレは……何か違う。
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年甲斐も無く泣いたところ、近所の子に慰められているみたいで、すごく恥ずかしいというか、かっこ悪いというか。
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「むぅ、末来の奴の時と違って……不満そうだな」
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すぐに見抜かれ、拗ねたような口調で言われてしまった。
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「えっと、気持ちは嬉しいですっ」
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「……むぅ」
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唸った先輩が、私の髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜ始める。
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「わわっ、ちょっ……!」
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「このまま私のようなくせ毛にしてやるっ」
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「な、何でっ!?」
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すぐさま立ち上がり、先輩の魔の手から逃げ去った。
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「届かないっ!(BROKEN:8_20)
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私がいじめてるようなことを言われたけど、
また屈めば髪をぐしゃぐしゃにされる気がする。
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「とにかくっ、先輩は私を慰めてくれたんですね?」
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「……た、立ち位置こそ違えど、似た者同士だからな」
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それは肯定と捉えてもいいのだろうか?
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「えーと、夜の眷属でしたっけ?」
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「そうだな、幸か不幸か――仲間でもある」
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先輩が喜びそうな言葉を出すと、再び(BROKEN:8_20)
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気むずかしそうに見えて……実は分かりやすい?
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「でも、一対として模擬戦に出てはくれないんですよね」
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「前に言った通りだ。巫女の力はかなりの体力を消耗する。
(BROKEN:8_20)
>

「模擬戦などって……他にどこで使うんですか?」
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向山先輩は目を伏せて、フッと笑った。
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「高遠、今日の模擬戦を見て気付いたか?(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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「遠山と風間を組ませている以上、禰津と中村は良くて練習相手、(BROKEN:8_20)
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「参加する限り、お前もだ――高遠」
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「……向山先輩、質問の答えになってないです」
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「奴らの練習相手、もしくはそれ以下を務める体力など
(BROKEN:8_20)
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「…………」
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無駄か無駄じゃないか、どっちかなんてまだ言い切れない。
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巫女になり、お母さんに会う……その目的を違えないなら、
何を言われても、模擬戦に参加しないといけないのは確か。
>

「……高遠、そんなに巫女に選ばれたいか」
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私の心を見透かしたようなことをまた向山先輩が言う。
>

「私は……お母さんに会いたいんです」
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「……巫女になれば会えるということか?(BROKEN:8_20)
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「それは……」
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「言いにくいことならば、他言しないと誓おう」
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私が口籠もることを分かっていたように言葉が続いた。
>

向山先輩を見れば、フードの中から真っ直ぐな瞳で私を見ている。
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嘘は無い――そう語りかけているようだった。
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「私がこの島に着いた時……正確には、溺れた後なんですけど」
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ぽつりぽつりと島へ着く前のことから話し始める。
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中村さんに船から突き落とされたこと。
その後、末来さんに助けられたこと。
それから……。
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	「……鼎、キミのお母さんはこの島にいる」
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	「えっ……」
>

	「もし本当に会いたいと思うなら、崎(BROKEN:8_20)
	(BROKEN:8_20)
>

	「私が、巫女……に……?」
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	「鼎にはその力もあるし、資質もある。あとは真実を見極めるだけ(BROKEN:8_20)
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末来さんに告げられた言葉を向山先輩に伝える。
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すると、先輩どこか難しい顔をしながら、細い顎に手を当てた。
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「末来の奴がそんなことを言うとはな……焚き付けるにしては、
(BROKEN:8_20)
>

「あの……向山先輩?」
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「しかし……何故、高遠鼎である必要が?(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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ぶつぶつと早口で向山先輩は思考をまとめていく。
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何となく口を出せない雰囲気なので……先輩を見守ることにする。
>

「高遠と巫女の関連性を探るか?(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
>

向山先輩が少し慌てた様子でコートのポケットに手を伸ばす。
>

ポケットにはマル秘と書かれたノートが大量に詰め込まれており、そのどれもが似たようなノートで、全く見分けが付かない。
>

だけど、先輩には判別出来るのか、素早く一冊のノートを取り、
慣れた手つきでページをめくっていく。
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「教えてくれ、<RB='グリモワール'>魔導書<RB>――片倉末来は何を知っている?」
>

ぐりもわーる?(BROKEN:8_20)
>

「やはり高遠という文字は無い。記録に無い。何故だ」
>

ちょっと背伸びをして、向山先輩が持つノートを覗き込んでみる。
>

そのグリモワールとやらに書かれているのは、歴代の巫女の名前
らしく、年と名前が二つ並べて記されていた。
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記録にある限りの一対の巫女達なんだろうか……?
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「高遠、母親の名前を言え。高遠何という?」
>

「えっ、えっと、未来です、ミライって書いてミクって読みます」
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突然、話しかけられて思わずどもってしまう。
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「ミライ……?(BROKEN:8_20)
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ミライ――末来さん。
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確かに末来さんとお母さんはそっくりな上、名前まで似ている。
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偶然の一致だとしたら、凄い確率だし面白いとは思う。
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「未来……未来……無いな、やはり無い。何故だ……?
(BROKEN:8_20)
>

向山先輩がグリモワールとやらをポケットに押し込めると、
再び私と向かい合った。
>

「高遠未来を知っている人間がいるとすれば、それは誰だ?
(BROKEN:8_20)
>

「えっと……それは……」
>

島に来てから出会った様々な人達を思い描いていく。
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その中で一人だけ、お母さんのことで反応を示した人がいた。
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「学園長です。初めて話した時、お母さんもこの学園に
(BROKEN:8_20)
>

「学園長か……片倉末来、櫻井学園長……どちらもくせ者か。
(BROKEN:8_20)
>

「それに、これは根幹へ繋がる情報だと私の勘が告げている。
(BROKEN:8_20)
>

先輩の唇が笑みを作り、どこか輝いた瞳で私を見上げる。
>

「高遠、母を探し真実を見極めるという一件――
(BROKEN:8_20)
>

「それって……どういうことです?」
>

「お前の母親探しを手伝いたいということだ。無論、こちらは
(BROKEN:8_20)
>

「手の内は早めに見せておきたいところだが、今日は日が悪い」
>

「高遠、返答は後日でいい。私からそのような提案があった。
(BROKEN:8_20)
>

「…………」
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生き生きとしている先輩を見つめながら、唖然としてしまう。
>

何がそんなに先輩の心に火をつけたのだろうか?
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それは何だかよく分からないけれど……。
>

「もし向山先輩が手伝ってくれることになったら……
(BROKEN:8_20)
>

「それとこれとは別だ」
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「うっ……でも、巫女になることはお母さんに繋がることで……」
>

「確証が得られればと言いたいところだが……
(BROKEN:8_20)
>

「それに……手の内を奴らに晒すのも<RB='しゃく'>癪<RB>だ」
>

皮肉屋めいた笑みを浮かべ、先輩が肩をすくめていた。
>

「――さて、そろそろ陽が沈む。高遠は門限だろう。寮へ戻れ」
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「でも、門限は先輩も同じじゃないんですか?」
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「私には果たすべき使命がある――それもいずれ話そう」
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そして、向山先輩がようやく謎めいたフードを取り払う。
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色素の薄い髪を振るい、私に微笑みかける。
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「さあ、夜が来るぞ――」
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それっぽい台詞と共に、マントをバサッと払いあげた。
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その意味はよく分からないけれど、門限を破って、
どやされるのは嫌だし……大人しく帰ろう。
>

「フッ、すぐに分かる。お前も夜に生きる者だ」
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また見透かしたようなことを言われたけど、
夜に生きる者の部分がよく分からない。
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「えーと、じゃあ……今日は帰りますね」
>

「ああ、森は早めに抜けろ。その後、迂回して寮へ戻れ」
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穢れが潜んでいることを心配してくれているのだろうか?
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どちらにしても先輩に告げておかないといけないことがある。
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「向山先輩、今日はありがとうございます。元気付けられました」
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「色々あって、気持ちが後ろ向きになってたんですけど、
(BROKEN:8_20)
>

「…………」
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驚いたような表情の後、先輩の顔が見る見る内に上気していく。
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「な、何と言うことはない……と、年上として当然のことだっ」
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若干上擦った声が可愛らしく思えて、思わず吹き出しそうになる。
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ちょっと不思議な……うーん、訂正。
かなり不思議な先輩だけど、今日も会えて良かったと思えた。
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本音を言うと、一対として一緒に活動して欲しいんだけど、
やっぱり、それは高望みなのかな……?
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ほんのりとまだ顔が赤い向山先輩を横目に、
私はそんなことを思っていた。
>
seisai_no_resonance/sce04_04_10_0.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)