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seisai_no_resonance:sce04_04_03_1
さてさて……どれだけ歩いただろうか?
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木漏れ日と呼べる明かりは既に赤く、夕陽の色を示している。
>

昼間に感じた爽やかさは何処へか。
>

日が陰り始めると、織戸伏島の森は途端に静まりかえり、
得体の知れない何かを――正確には穢れという化け物を
孕んでいるという事実を肌で感じさせてくれる。
>

獣か何かが駆けたのだろうか、ガサッという木々のさざめく音が
聞こえる度に、情けなくも両肩がびくりと反応してしまう。
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若干、気が引けている理由はそれだけじゃないんだけど……。
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「ねえ、ガジ……ここってどの辺りだと思う?」
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森の奥へ進めば進むほど方向感覚が狂っていき、
引き返そうにも同じ道に戻れない始末。
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この数時間そんなことを延々と繰り返している。
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要約すると、迷った。
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「猫のひげはセンサーだって聞いたよ?(BROKEN:8_20)
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腕の中にいる子猫は私の不安なんてどうでもいいのか、
小さな口を目一杯に広げてあくびをしている。
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「くうぅ、八弥子さんに甘やかされすぎて、
(BROKEN:8_20)
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と、子にゃんこ相手に何か言っても仕方ないか。
昼食を抜いた分、腹の音が虚しく響くだけだろう。
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「むぅ、向山先輩ー、どこかにいませんかー?(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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返事を求めながら、とぼとぼと森の中を歩んでいく。
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しかし、どれだけ呼びかけても向山先輩の声が返ってくることは
無かった。
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いよいよもって日が沈んでしまった。
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薄暗い森は不気味に静まりかえり、穢れやら化け物たぐいが
いつ飛び出して来てもおかしくない雰囲気だ。
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夏が近い夜だというのに、いささか肌寒く感じるのは、
生い茂る緑が熱を退けてくれて……というわけではなさそう。
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片手でお母さんがくれた勾玉を握りしめ、
空いた手で今のところまったく役に立っていないガジを抱く。
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「…………」
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向山先輩の名前を呼ぼうとした言葉を呑み込む。
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下手に声を上げれば、穢れに気付かれるんじゃないだろうか?
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勾玉――星霊石の力で退ければいいんだろうけど、
相手は正体不明、底が知れない。
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一匹や二匹ならまだしも、それ以上の数に囲まれれば、
その対応は格段に難しくなる。
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まして今の私は言ってしまえば迷子の身――
必要以上の体力は使いたくない。
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お昼ご飯も食べてないし。
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「うぅ、お腹……空いたな……」
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「ニャー……」
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昼間、魚の切り身を頂戴していたガジが同意するように鳴く。
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「この食いしん坊め……」
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「ニャー?」
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「何のことやら?」と言いたげな鳴き声。
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ガジを突いても仕方が無いことは重々承知済み……
でも、お昼を食べてないし、一言ぐらい言いたくなるよ。
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あーあ、と意気消沈しつつ、木々の隙間に覗く夜空を見上げた。
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人工的な明かりが無いお陰で、
数え切れないほどの星々が瞬いている。
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もっとマシな環境で夜空を眺めることが出来たら、
どれだけ幸せだったことだろうか。
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「ニャン?」
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そんなことを思っていると、ガジが小刻みに耳を動かし、
私の腕からすり抜けていく。
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「わっ!?(BROKEN:8_20)
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八弥子さんからの預かりもの……預かり猫なんだから、
もし怪我でもさせたら一大事だよ。
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着地したガジは迷うことなく、森の暗がりを真っ直ぐ駆けていく。
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「ちょっと待ってってば!(BROKEN:8_20)
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私の注意なんて聞こえないとばかりに、小柄な身体をいかし、
茂みの隙間を走り抜ける。
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「こらっ、ストップストップ!(BROKEN:8_20)
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急いで私も茂みを駆け抜け、木々の間を縫うようにして、
先行する子猫の後を追いかけた。
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そして――――。
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鬱蒼とした森をようやく抜け出したかのように視界が広がる。
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そこに佇む人影。
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月明かりの下で得体の知れない外套を靡かせ、
物憂げな双眸で中空を見つめる。
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淡い光源に照らし出される色素の薄い髪や肌は、
どこか幻想的で思わず息を呑んでしまう。
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向山先輩――確か名前は奈岐。
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半日かけて探した向山先輩がそこに佇んでいた。
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何故、こんな森の中で?
などなど……色々と聞きたいことはあるが、それはさておき。
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「コンバンハ……」
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得体の知れない緊張感が私の声をカタコトに仕上げてくれる。
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「高遠鼎――か」
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外見相応と言えば語弊があるかもしれないけど、
それは不思議な声色、小声でもしっかりと耳に届く音だった。
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振り向いた彼女の足下へガジが駆けていき、
額を擦りつけてながら目を細めている。
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「何に導かれ、私のもとに辿り着いたのだ――
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「奇縁ゆえ感傷的にさせてくれる、と言いたかったのに」
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それっぽい台詞を考えていてくれたらしいが、
そこまで運命じみたものではないと思う。
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もしかして向山先輩ってキャラ作ってるのかな?
初めて会った時から台詞みたいなこと言ってたけど……。
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そう考えると学芸会に来た子と向山先輩を間違えたのは、
それほど外れてはいなかったのかもしれない。
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「向山先輩、私、今日一日ずっと探してたんですよ。
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「そういえば、そんな話もあったな。半分聞き流していた」
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「聞き流すって……私にとっては結構重要なことなんですけど」
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「お前にとっては、か。どういった事情かは知らないが、
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「高遠鼎、巫女は諦めた方がいい。今年の選抜を思い返せ。
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余所者、それは間違いなく私のこと。
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厄介者……御花会に参加せず、素行に問題有りの巫女候補、
きっと向山先輩自身のこと。
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「以前、お前に御花会は椅子取りゲームだと教えたな。
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「模擬戦の話は聞いたか?」
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「模擬戦……?(BROKEN:8_20)
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その言葉で満足したのか、はたまた私が舌っ足らずだったのか、
向山先輩は目を伏せてしまう。
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「詳しく話してやろう。模擬戦とは発表されたペア同士で、
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>

「巫女達は霊魂を体現する為、荒魂と幸魂に分かれ、
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「荒魂……?(BROKEN:8_20)
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確か葉子先生から巫女の基礎知識として聞いた覚えがあるけど、
どうして模擬戦のところで……?
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「神道における一つの概念だ。本来は<RB='あらみたま'>荒魂<RB>と<RB='にぎみたま'>和魂<RB>の二面性を
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>

「<RB='いちれいしこん'>一霊四魂<RB>の考えに従い、荒魂の巫女は『<RB='ゆう'>勇<RB>』を示し、
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>

「そして幸魂の巫女は『愛』を示し、
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一霊四魂という言葉を再び聞く……一対の魂が揃ってこその巫女という考えが、やはりこの織戸伏に根付いているらしい。
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「深く考える必要は無い。魂の位置付けに関しても、
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>

「ただ巫女の力を存分に発揮するには、
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「人、一人の魂では使いこなせない力――それが巫女の力。
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>

向山先輩は私から不意に視線を逸らすと、
苦笑するように口元を歪ませた。
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「……少し話が脱線してしまったな。主に攻撃を担当するのが、
(BROKEN:8_20)
>

「一対の巫女候補は模擬戦を通して、巫女としての適正を
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>

しゃ、杓子定規って……
何を考えているのか分からない人達ではあるみたいだけど……。
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「模擬戦の勝敗だけでなく、奴らの判断がそこに入るわけだ。
(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
>

「先輩、それって椅子取りでもなんでもないような……」
>

「(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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そっか……由布は遠山先輩とペアになったんだった。
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歴史ある家同士が一対の巫女になれば、その分だけ島の人達の注目――先輩の言った信頼を松籟会に集めることが出来ると思う。
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でも……。
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「向山先輩、私はお母さんのことが知りたくて、
(BROKEN:8_20)
>

「巫女になって、お母さんが島で何をしているのか、
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「家柄とか、松籟会の利権とか、そんなことで諦めたくないです」
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私の話を黙ったまま聞いていた先輩がフッと笑みを漏らした。
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「そんなこと……そんなこと、か」
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「なら、どうするつもりだ?(BROKEN:8_20)
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「そ、それは……」
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「高遠鼎、これは諦観ではない。事実を述べているだけだ」
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「付け加えるならば、私はお前と組むように言われたが、
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「えっ?(BROKEN:8_20)
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「ままごと遊びで消耗する体力は持ち合わせていない」
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「そうじゃなくて、先輩は巫女になるつもりはないんですか?」
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興味が無いとか、巫女になるつもりが無いとか……
色々言われてはいたけれど、本人の口からは何も聞いていない。
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「――松籟会の望む巫女には興味が無い、とだけ言っておこう」
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「…………」
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ぽかんと開いてしまった口を慌てて閉じる。
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「母親のことを知りたくば、他の方(BROKEN:8_20)
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「で、でも、お母さんは巫女になって……!」
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「自分の家柄とかそういうのは分からないですけど、
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「つまり、高遠の家は巫女になれる素質があると?」
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私が言いたいことを汲み取ってくれた向山先輩は、
どうしてか失笑しているように見えた。
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「島に来てからのことを思い出してみればいい。
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「うっ……」
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それだけではなくて、島に入る前……海に突き落とされたなんて
とてもじゃないけど言えない。
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「話は終わりだな。私は私で為すべき事がある」
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「月が……呼んでいる。急ぐ必要がありそうだ」
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「はい……?」
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月が呼ぶ?(BROKEN:8_20)
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「フッ、同胞ならば、お前もいずれ分かる――さらばだ」
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向山先輩がフードを被ったところで、私は慌てて声をあげる。
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「先輩っ、待って下さい!」
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「止めても無駄だ。私の進む道は――私に与えられた使命。
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「あ、そういうややこしい話ではなく、ですね」
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向山先輩がキャラ作りに入る前にストップをかけておいて、
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「先輩に会えたのはいいんですけど、実は道に迷ってまして」
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「……夜を生きるモノとして、道に迷うこともあるだろうが」
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「いえ、そういうのではなく。普通に森で迷子です。
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「…………」
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「このままだと行き倒れます。助けて下さい」
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もの凄く半眼で睨まれてしまうが、こっちは死活問題。
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「そうか……これ以上、森に漂う瘴気に耐えられんというわけか」
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「空腹でお腹と背中がくっつきそうなぐらいです」
>

「…………」
>

またもの凄い半眼で睨まれてしまう。
>

えーと、これって――先輩に合わせないと話が進まない?
>

「あー……瘴気とか結構きついです」
>

「そうか、そうだろうな……お前は島に来てまだ日も浅い。
(BROKEN:8_20)
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「まず歩幅が違うと思うんで平気です」
>

「…………」
>

泣き出しそうな顔で睨まれてしまう。
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何だか思っていた以上に表情が多彩な先輩だなぁ……。
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「そ、そこにいる猫に言っただけだ……さっさと行くぞ」
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今度こそマントを翻し、向山先輩が森の中を歩き始める。
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「だってさ、ガジ?(BROKEN:8_20)
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「ニャン?」
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私はガジを抱きかかると、向山先輩の背中を追いかけていった。
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その後、無事に寮近くまで先輩に送ってもらえたが……。
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結局、先輩が森で何をしていたのか、聞く(BROKEN:8_20)
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「気付いたら、またいなくなってるし……」
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寮が見えるや否や、もう向山先輩の姿は無かったような気もする。
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しかし、向山先輩はあんなところで何してたんだろう……?
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うーん、前も森の中にいたし……。
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「ニャー」
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「あ、ガジもお腹空いてたんだったね。
(BROKEN:8_20)
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思考をひとまず中断。
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ガジの頭をぐしぐしと撫でると、
私は明かりが漏れる寮へと急ぎ足で向かった。
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seisai_no_resonance/sce04_04_03_1.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)