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seisai_no_resonance:sce02_00_07_0
寮をぐるりと一周して戻ってきた時、
思わず目を疑うものが視界の端を過ぎる。
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フードのついたマントを引きずるようにして、
森の中へ女の子が歩いて行く。
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「あの子って……!」
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学芸会で学園に来てた子じゃ……?
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でも、頭の中で何かが引っかかる。
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色素の薄い肌、髪の色……。
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「って考えてる場合じゃない」
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学園に来ている子だとしたら、こんな時間まで出歩いているのは
問題だし、親御さんも心配するに違いない。
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私はそのマントを見失わないように慌てて駆け出す。
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薄暗い夜の森――。
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確か、あの子はこっちに来たような気がするんだけど……。
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視界が悪くてあの低い身長を見つけることが出来ない。
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「困ったな……」
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そうぼやいていた時、ふと澄んだ声が風に乗って聞こえて来る。
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「……手負いと確信したが、その痕跡があるかどうか」
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この声は――間違い無いと確信して、私は歩き出す。
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「いずれにしても、昼間の彼女がやったとすれば……
(BROKEN:8_20)
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「ねえ、ちょっと――」
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声をかけると共に、パキッと私が小枝を踏む音を響かせてしまう。
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「ッ――!?(BROKEN:8_20)
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「こ、こんばんは……昼間に会った……覚えてるかな?」
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思った以上に鋭い声に怯みつつ、無害ですよ、と両手をあげる。
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「……お前、何故ここにいる?」
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「あはは……それはお姉ちゃんの台詞かな?(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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「人には言えないことだ――そちらは?」
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「人には言えないことって……私はキミが森に入っていくところ(BROKEN:8_20)
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「このような身なりをしているのに危険と警告をするか、
(BROKEN:8_20)
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「案ずるな、私は神狼の眷属にして、その力を授かった者だ。
(BROKEN:8_20)
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「あー……」
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その言葉を聞いて、とても不安を掻き立てられる。
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きっと、まだ学芸会の役柄が抜けていないのかもしれない。
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「あのね……お父さんとお母さん、心配してると思うよ?」
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「何故、お前は父と母の名前を出すのだ……」
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「はぁ……やむなしか」
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女の子がマントを引きずりながら、ゆっくりと私に近づく。
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淡く青い瞳で私を見上げ、その目がぴたりと合う。
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綺麗で吸い込まれそうな瞳が少しだけ揺れた。
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「……一つ言っておくが、私はこの学園の人間だ」
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「えっ?」
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何とも素っ頓狂な声が自分から出てしまう。
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「何と勘違いされたのかは分からないが……実に心外だな」
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まるで私の考えを見透かしたようにその少女が語った。
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学園の人間ってことは……学生?
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「……あっ」
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よく見るとマントの下に制服姿が見える。
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うっ……私、外見だけで凄い勘違いをしてたかもしれない。
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「さて、今度はこちらの質問に答えてもらう番だが……
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「わ、私のこと……よく知ってるね?」
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「神狼の眷属たるもの、造作も無い。調べれば済むことだ」
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神狼というのがよく分からないけれど、
私のことをあの後調べたのかもしれない。
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でも、一般の学生が私のことを今日知ることが出来るのかな?
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「……<RB='よそもの'>余所者<RB>って感じで空気を悪くさせちゃってね。
(BROKEN:8_20)
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「やはり、そうか。椅子取りゲームの椅子を取り合う中で、
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「椅子取りゲーム……?」
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「ここは閉鎖空間だ。余所者を受け入れる例も少なければ、
(BROKEN:8_20)
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「しかも、遠山・三輪・風間は代々、巫女を排出している(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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「つまり、巫女の座争いは<RB='しれつ'>熾烈<RB>になるも必定。
(BROKEN:8_20)
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「……それが気に入らなくて当然ではないか。
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再び静かな視線が見上げてきた。
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外見に反して、ひどく静かな、老成した視線に違和感を覚える。
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「どうして私の名前まで……あと巫女候補のことも……」
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言葉に対し、少女がまた小さく笑った。
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「高遠鼎……これは何の慰めにもならないことかもしれんが、
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「だから私は、家柄を重んじる連中からは煙たがられている。
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えっ……御花会って?
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「もしかして……あなたも……巫女候補……?」
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「名は<RB='こうやまなぎ'>向山奈岐<RB>という」
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「あ……」
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向山奈岐……名前を聞いて思い出した。
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御花会に参加しない子、鬼子と呼ばれている子だ。
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「……御花会に参加しない、他の巫女候補とも一緒に行動しない。(BROKEN:8_20)
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「御花会など、巫女候補同士の足の引っ張り合いに過ぎない。
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「言っただろう、椅子取りゲームだと。足を引っ張り合う相手と
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巫女は巫女候補の中から選ばれる。
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奈岐さんが椅子取りゲームと評するのは、
間違ってはいないかもしれない。
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でも、御花会そのものに参加しなければ、
巫女候補の資格を剥奪されてしまうのでは……?
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「高遠鼎、嫌だと感じたら、逃げてしまえばいい。
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「…………」
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お母さんに会うために御花会の必要性……。
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ううん、零じゃない。
だったら、私の答えは決まっている。
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「私はそんな風にまだ開き直れないよ。やっと学園に入れたんだし(BROKEN:8_20)
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「それに……逃げるっていうのは嫌だな」
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「…………」
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奈岐さんは、ぽかんと口を開けて、
それから、困ったような微笑みを浮かべた。
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「そうか、お前がそう思うなら、今はそれでいい。
(BROKEN:8_20)
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不意に手を差し伸べられた。
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「夜の眷属は同胞を拒絶しない。決して、だ」
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心配してくれたのか、それとも波長が合うと思ってくれたのか、
どちらにしても向けられているのは好意に違いない。
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私は微笑み、奈岐さんの手を取る。
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「そういえば自己紹介がまだだったよね?
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「崎(BROKEN:8_20)
(BROKEN:8_20)
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えっ……?
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「ん、どうした……私は何かおかしなことを言ったか?」
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「さん……ねん……?」
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「……三年だが」
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マントをずるずると引きずった学芸会の子にしか見えなかった人が三年生……二つも上の先輩?
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…………。
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す、すごく……。
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すごく!(BROKEN:8_20)
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「ちっさい!!」
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思わず本音を口にしてしまう。
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「高遠鼎、お前という奴は……」
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「否定こそしないが……言ってはならぬこともあるっ……!」
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「わっ……わわっ、お、落ち着いて、くださいっ!」
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詰め寄ってくる奈岐さん……向山先輩から後退りした時だった。
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「――――!」
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向山先輩が何かに気付いたのか、不意に眉を顰める。
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「高遠、お前は今すぐ寮に戻れ」
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「えっ、えっと……どうしたんですか?」
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「フッ、これからは大人の時間だ」
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フードを被った先輩が地を蹴って、森の中を駆け出す。
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「あっ、ちょっと待って……」
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私の声が届く前に、もう先輩の姿は見えなくなっていた。
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急にどうしたんだろう……?
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あと、大人の時間って台詞がすごく不釣り合い思えて、
苦笑しそうになってしまう。
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「……由布と恵に心配かけてるかもだし、戻るかな」
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向山先輩が心配な気持ちもあったけれど、この暗がりの中、
あの小さい人を見つけるのは難しいだろう。
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そう諦めておいて、私は踵を返す。
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「…………?」
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今、何か聞こえたような……?
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耳を澄ませてみるが、夜の静寂と虫の鳴く声ぐらい。
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気のせい、か……。
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そうして、私は再び寮へ向かって歩き始めた。
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seisai_no_resonance/sce02_00_07_0.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)