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seisai_no_resonance:sce01_00_11_1
しばらく歩いたところに例の二人組みがいた。
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かがみ込んで地面を確かめる由布さんと、その様子を心配げに、
そして時折周囲を警戒するように視線を彷徨わせる恵さん。
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「ゆ、由布ちゃん……」
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「……穢れの目撃があった場所って、この辺りのはずだけど」
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「そうだけど……あたし達だけで先に行ったら、
(BROKEN:8_20)
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「恵は私を止めに来たの?(BROKEN:8_20)
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由布さんは立ち上がると、同じく周囲を警戒する様子を見せつつ、恵さんに詰め寄った。
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「それは……どっちもだよ。由布ちゃんのことが心配で……」
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「…………」
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息をついた後、由布さんが恵さんに真剣な眼差しを向ける。
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「恵には分からないかもしれないけど、これはチャンスなの」
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「チャンス……?」
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「私は神住姉様に認められたい。ちゃんと実戦もこなせるだけの
(BROKEN:8_20)
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「恵だってそうよ。家柄だけで端に追いやられてばっかりで、
(BROKEN:8_20)
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「で、でもね、先輩達を待たずに動くなんて……」
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木の陰に身を隠して、聞こえてくる話を耳に入れる。
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二人の声は聞こえてくるものの、その意味はよく分からない。
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ただ二人が褒められた行動を取っているわけではなさそう。
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先輩達を待たずに何かをしようとしている。
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それに実戦って……?
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その時だった。
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ガサッと前方の茂みが大きく揺れる。
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「っ……!?」
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急に周囲の空気の温度が下がったような気がした。
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「ゆ、由布ちゃん……!」
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「この感じ……動物とかじゃなさそうね」
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「じゃ、じゃあっ、いまのって、まさか……!?」
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「ど、どこからでもかかってくればいいじゃないっ……!」
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自然と二人が背中合わせになり、周囲を警戒する。
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その足が震えている様子はここからでも分かるぐらい、
何かに怯えていた。
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獣でもなく……いったい何に?
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そう思った時、また一段と温度が下がった。
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背中合わせの二人が自然と手を握り合い――。
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木々の間から現れたモノに驚愕の表情を浮かべる。
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「ひっ……!」
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「な……何なの……何なのよ、コレ……」
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現れたのは禍々しい瘴気を放つ――化け物だった。
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「グウウゥッ……!」
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低い唸り声が森に響き渡る。
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身の丈は二メートルあるかと思えるほど巨大で、四肢に見える爪は鋭く、本能的に危険なものだと知らせてくれた。
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熊?(BROKEN:8_20)
違う、こんな生物は見たことが無いし、聞いたこともない。
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夢でも見てなければ、あそこにいるのは、
まるで小説に出てくるようなおぞましい化け物だ。
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「だ、ダメ!(BROKEN:8_20)
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「な、何言ってるのよっ……今から逃げたって……!」
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化け物の高い位置にある眼球が、動けずにいる二人を
しっかりと見据えている。
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そして、長く伸びた爪の切っ先がゆっくりと弧を描く。
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「っ……!?(BROKEN:8_20)
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化け物に対して、二人は回避行動を取るわけでも無く、
怯えるままに目を閉じてしまう。
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このままじゃ……いけない!
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飛び出そうとした矢先、足下にあるこぶしサイズの石に気が付く。
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「そこの二人っ!(BROKEN:8_20)
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太い腕を振り上げる化け物に向かって全力で石を投げる。
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「ガ(BROKEN:8_20)
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頭部に石を受けた化け物が仰け反ってくれた。
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「あ、あんた、今朝の……こんなとこで何やってるのよ!」
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「説明は後――っていうか、二人とも逃げてって!」
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弱点らしき頭部に一撃を受けても、化け物は体勢を立て直す。
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唸り声をあげながら、私の存在も狩るべき対象として認識する。
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赤く光る目が不気味に輝くのが見え、額に嫌な汗が滲む。
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「由布ちゃん……あ、あたしっ……足が竦んで……!」
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「っ……そ、それは私だって……!」
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つまり、二人とも動けない?
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お母さん譲りの気の強さがいきてくれたのか、私はまだ動けそう。
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それなら、出来ることは限られてくる。
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「あんたの相手はこっち!」
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声をあげながら化け物の背を取るように駆けていく。
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手に届く範囲にある物、枝なり石なり砂なり投げて――
とにかく、化け物の気をこちらへ引き付けようとする。
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運がいいのか、怒りを買ったのか、化け物の足先が私へ向かう。
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「よしっ……!」
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相手がどれぐらいの速度で迫ってくるか、予想は出来ないけど、
少なくとも鈍そうには見えない。
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全力で駆け出そうとした時、化け物のつま先が地を蹴る。
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小さく跳躍、同時に振り上げた爪が私を狙う。
>

走って避けられるわけが無い――反射的に真横へ転がった時、
爪の一閃が近くの木を切り裂いた。
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幹をえぐられた木がめきめきと音を立ててへし折れていく。
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「じょ、冗談……」
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う、腕一本で木を折った……?
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なんて腕力……直撃なんてしたら怪我じゃ済まない。
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それに加えて、一気に間合いを詰めてきた脚力も看過出来ない。
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見た目通り、相手はバケモノで間違い無さそう。
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でも、その化け物を間近で見て気付くことがいくつかあった。
>

怪物にしか見えないと思っていた相手だけれど、
仮面のようなものを付け、下半身を隠す布を下げていた。
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それが妙に印象に残り、人為的な何かを感じさせてくれる。
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この化け物はいったい……なに?
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「グウウゥ……」
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小さく唸っては再び狙いを私へ定める。
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再び地を蹴るため、その姿勢が低くなっていく。
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何度も回避出来る自信はないけど……今は逃げるしか手は無い。
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私は木々を盾にするようにして茂みを駆けていく。
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「くっ……!」
>

体格差を利用して狭い木々の間をくぐり、木の葉や芝を蹴り上げながら、全力で森の中を走り抜ける。
>

だけど、どれほど私が狭い道を進もうとも、
相手は駆ける勢いのまま、木々をなぎ倒しながら進んできた。
>

太い枝をへし折る体当たりを続けながら、
ひたすらに私を猛追してくる。
>

しかも全力で駆けているにも関わらず、距離は縮まる一方。
>

あの図体でこの速度は色々とおかしい……!
>

「またっ!?」
>

一際大きな唸り声が聞こえ、再び反射的にその場から転がる。
>

木々を大きく揺らし、爪による斬撃が茂みを切り裂く。
>

地面に滑り込むようにして回避したのはいいけど、
立ち上がるまでの動作が致命的なまでの隙を生じさせる。
>

相手はそれを知ってか、私に体勢を立て直させまいと、
次の一撃を振りかぶる。
>

「くっ……!」
>

ドッ――と私の数センチ横に化け物の爪が突き刺さった。
>

再び地面を転がって何とか避けられる。
>

だけど……顔の真横で、化け物の黒い肌をした太い腕が、
次は無いと警告するように持ち上がっていく。
>

「グウウゥ……」
>

ほぼ馬乗りに似たような姿勢で私の退路を塞ぐ。
>

ようやく私を捕らえたことを歓喜するような唸り声が鼓膜に響く。
>

相手は容赦なく次の一撃で仕留めにかかるだろう。
>

心臓がうるさいぐらいに早鐘を打ち鳴らし、
背中にはべったりと嫌な汗がシャツに貼り付いていた。
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逃げている最中は必死だったからか、さほど感じなかった恐怖が
今になって沸き起こる。
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指先から震え出せば、反響するように全身が怖気立つ。
>

諦観こそ無いものの、真っ白になる頭がまともな対抗手段を
考え出そうとしてくれない。
>

「お母さん……!」
>

逃げるように彷徨った私の手が腰にあるお守り、
お母さんの勾玉を握りしめた。
>

お母さんの勇気を少しでも授けてくれるように強く祈る。
>

お母さんと会えないまま、死ぬなんて嫌だ――!
>

どうか、この状況を覆せるだけの勇気を……!
>

でも、現実は残酷で風を切る音が聞こえ、
目前に化け物の爪が迫り――――。
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「ええぃっ、禰津!(BROKEN:8_20)
>

「ふふんっ、もう逃がさないよー……って?(BROKEN:8_20)
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「な、なに、この感じ?(BROKEN:8_20)
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「分かっている!(BROKEN:8_20)
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「ッ――!?」
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「なん、だと……奴はこの手で仕留めたはず!?」
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「神住先輩、あの光は……?」
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「由布……?(BROKEN:8_20)
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「縁子、急ぎますわよ!」
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「な、何……あの光……」
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「ゆ、由布ちゃんっ!(BROKEN:8_20)
>

「そんなことって……!?(BROKEN:8_20)
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「ゆ、由布ちゃんは?」
>

「私は――!」
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「やはり――始まってしまったね、未来」
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「鼎、その力の使い道を決めるのはキミ自身だよ」
>

「…………?」
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すぐに訪れるはずの痛み、それに伴う感覚が無かった。
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疑問に思いながらもすぐに目を開く。
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「グアアア(BROKEN:8_20)
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驚くような声を上げ、何故か化け物が私から飛び退く。
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「えっ……?」
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何が起きたのか分からず、その場から起き上がろうと、
地面に手をついた時――視界に有り得ないものが映る。
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「っ!?(BROKEN:8_20)
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それは火だった。
>

赤く燃える炎が私を囲むようにして揺らめいている。
>

全ての熱を感じる部分――握りしめた勾玉が赤く輝き、
周囲を焼き払っていた。
>

「ど、どういうこと……?」
>

目の前で起きた現象が嘘ではないことを示すように、
手の中の勾玉は熱く肌を焼くように輝いている。
>

「この勾玉……」
>

「鼎……これはね、お守りだよ」
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「おまもり?」
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「困った時、どうしようも無いって時、
(BROKEN:8_20)
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「だから、どんな時も最後まで諦めちゃいけない。
(BROKEN:8_20)
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「じぶんに……いのる?」
>

「お守りが鼎の魂に応えてくれるまで祈るんだ――いいね?」
>

「たましいに……」
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「鼎、キミが持ってるお守り……
(BROKEN:8_20)
>

「鼎の魂に応えくれるように祈るんだ、いいね?」
>

「自分の魂に――祈る」
>

化け物が怯んでいる間に、私はその場から立ち上がる。
>

勾玉が私の魂に応えてくれるように祈ること――。
>

それが今の炎を発生させたとしたら?
>

にわかには信じがたいけれど、手の中にある勾玉は嘘では無いと
熱を放ち続けている。
>

それにお母さんと末来さんの言葉を信じるなら……。
>

「お願い――」
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握りしめていた手をゆっくりと開き、意識を集中させる。
>

周囲の炎がさらに勢いを増していく。
>

でもそれは私を焼くような熱ではなく、
包み込むような温かさを持つ。
>

熱の中心、お母さんの勾玉がゆっくりと中空へ浮かび上がる。
>

「お母さん……末来さん……」
>

確かな力の本流がそこにはあって、私の心まで熱くさせるような
炎がさらに立ち上っていく。
>

この炎は、私の炎だ。
>

感覚的にそれが自分のものだと把握していく。
>

そして自分のものだからこそ、その力の使い方が見え始める。
>

祈ること――自分の中にある魂を呼び起こすこと。
>

その先に何があるのか分からない。
>

でも、今は何よりもこの力を使うことが私に出来る唯一の手段だ。
>

だから――。
>

「燃えろッ――!!」
>

中空の勾玉を掴み、私は声を上げる。
>

その呼びかけに応えるように炎はさらに舞い上がり、
周囲の木々を焼き払っていく。
>

熱はさらに上昇し、視界を揺らがせては赤く染め上げる。
>

「これが私の魂なら、もっと……もっとだっ!!」
>

「もっと燃えろっ!!」
>

勾玉を握りしめた腕を掲げ、全ての炎を舞い上げる。
>

最大限にまで熱を溜め込んだ勾玉が眩い光を放つ。
>

それは周囲を取り巻く炎も、そして私をも取り込むほどの光に
目が眩む。
>

「ッ――!?」
>

熱が身体を包む感覚と共に、自分の中で何かが弾けた。
>

赤く燃える炎が新たな力を感じさせ、私へと集束する。
>

炎は形を変え、私の姿を変化させる力となり――
勾玉はその熱をはらんだまま、剣へと変貌する。
>

「勾玉の力……これが私の魂……」
>

熱を宿した剣を握りしめながら、変化した自身の姿に驚き、
私は息を漏らす。
>

ずしりとした重みを感じる両刃の剣――その鋭い刃先は肌や肉を
いとも簡単に切り裂いてしまうだろう。
>

今、誰かを傷つけ、<RB='あや'>殺<RB>めてしまえるだけの力が私の手にある。
>

だからこそ、この剣に重みを感じたのだろうか?
>

それだけの力はとても重い――でも、そう感じるからこそ、
出来ることもある。
>

そして――。
>

「この感覚……」
>

初めて感じるものなのに、私はコレを知っている。
>

魂の力――そう考えれば自然と納得が出来る気がした。
>

そして、熱く燃える炎まで全て私の魂であるなら、
目の前で怯む化け物を退ける力となるはず。
>

「――やれる」
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やってみせる。
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呼吸を整え、不思議と手に馴染む剣の切っ先を向ける。
>

剣の後を追うように揺らめく炎――
そして、その先にいる化け物の姿を捉えた。
>

お母さん、私はどこまでも諦めないよ。
>

だからお願い、この島のどこかにいるなら――私を見守ってて。
>

「行くよ……!」
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両手で剣の感触を確かめ、私は勢いよく地面を蹴る。
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seisai_no_resonance/sce01_00_11_1.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)