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seisai_no_resonance:sce01_00_03_0
海辺近くの小高い岩場を末来さんに連れられて昇っていく。
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その間もずっと手を繋いだままで……小さい頃、お母さんがテーマパークに連れて行ってくれた時を思い出させる。
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あの時もずっと手を繋いだままだった。
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迷子にならないように?
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ううん、違う。はぐれないようにじゃなくて、
お母さんと一緒にいる時間が私は好きだった。
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でも、今はどうなんだろう?
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お母さんにそっくりな人と、お母さんが生まれ育った島で出会ってそれからこうして――手を繋ぎ合っている。
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そんなことを考えていた時、目の前がパッと開けていく。
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「あっ……すごい……」
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満天の星空だった。周囲に光がないから、普段は見えない星々まで輝いて見える。
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数え切れないぐらいの星が瞬いていて、
暗いはずの夜空をきらびやかに彩っていた。
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「鼎が知ってる夜空とは違う?」
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「はいっ……都会だと、こんなにいっぱい星は見れないです」
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興奮気味の私を見て満足したのか、末来さんは微笑を浮かべる。
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「鼎、少し待ってて」
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末来さんが私にそう告げると来た道を引き返していった。
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「…………?」
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待っててって……何かあるのかな?
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首を傾げつつ、私は近くの岩に腰をかける。
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それから末来さんが戻るまで、しばらくの間、都会では決して
見れない星空を眺めておくことにした。
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体感で数十分ぐらいした後、末来さんがようやく岩場まで戻って
きてくれる。
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綺麗な夜空があったとしても、初めての土地で独りぼっちは、
少しだけ心細かったところ。
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「末来さん、おかえりなさい」
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「鼎、お待たせ。あまり良い物が無かった」
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末来さんがバケツと担いでいたリュックをその場に置いて、
すぐに中身を取り出していく。
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水の入ったペットボトル、数枚のタオル、それから着替えと思しきシャツとその他色々……次から次へと出てくる。
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もしかして、これを取りに……?
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「今日はここから動かない方がいい。だから、鼎には悪いけど、
(BROKEN:8_20)
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「それは……例の松籟会が関係しているんですか?」
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「うん、島には辿り着けなかった……あの人達はそう思ってるけど(BROKEN:8_20)
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私を禍々しいものとして海に突き落とした少女の顔が頭を過ぎる。
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もし私が島にいると知ったら、今度こそあの日本刀で狙われるかもしれない。
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そう思うだけで軽く身震いしてしまう。
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本当に命を狙われていた――そんな実感すらまだ無いのに。
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「身体も(BROKEN:8_20)
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私が考え事をしている間に、末来さんがバケツの水に浸したタオルを絞ってくれていた。
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そういえば、服も身体も海水を浴びたままだったっけ……。
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「ありがとうございます」
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お礼を言いながらタオルを受け取って、自分の服に手をかけようとした時、ハッと気がつくことがあった。
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「あの、ちょっと恥ずかしいんで……」
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お母さんに似た人が相手とはいえ、今日会ったばかりの人に、
お風呂でもないところで肌を晒すのは……少し恥ずかしい。
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「そうだったね」
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少しだけ笑った末来さんが背中を向けてくれる。
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その姿を見てから、いそいそと服を脱いでいく。
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海水に浸ってくれたパーカーやらキャミやらを岩場に引っかける。
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末来さんの背中を横目にしつつ、ついでにブラも外しておく。
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何とも開放的な姿になったところで身体を(BROKEN:8_20)
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海水でべたべたしていたから冷たい水が心地いい。
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「ふぅ……今日はここで休むって聞きましたけど、
(BROKEN:8_20)
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お母さんと約束した――とは言っていたけど、
ずっと私に付きっきりというわけにはいかないだろう。
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「うん、鼎を見てる」
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末来さんへ振り返ると視線がぴたりと合った。
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ぴたりと?
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み、見ているって……そういう……。
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「わっ、わわわわっ!?」
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思わず転けそうになりながらタオルで身体を隠す。
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「大丈夫、見てるだけ」
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「は、は、恥ずかしいってさっき言ったじゃないですかっ」
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「脱ぐところを見られるのが恥ずかしい?」
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「…………」
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とても都合の良い解釈を聞いた気がする。
あと聞かれても困ります。
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「鼎が背中を向けて。(BROKEN:8_20)
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「う……うぅ……ど、どうも……ありがとうございます」
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お母さんとそっくりな顔でそんなこと言われると、
断るに断れない……。
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末来さんに背中を向けて、手近な岩に腰をかける。
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若干、天然なところがあるんだろうなあ……
と前向きに考えておくことにした時――。
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「ぴと」
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「ひゃあぁっ!?」
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背中を冷たいタオルで、ツーッとなぞられる。
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「初めは優しく」
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「何のことか分からないですし、変な声出たじゃないですかっ!」
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「ふふっ」
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何とも楽しげな笑い声を背中越しに聞く。
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その後はちゃんと(BROKEN:8_20)
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「ショーツは脱がない?」
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「初めは優しくされると困るので遠慮しておきますっ」
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やっぱり末来さんは……ちょっとズレしている気がした。
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「残念……」
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本当に残念そうな声が聞こえてきて苦笑してしまう。
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身体を(BROKEN:8_20)
着替えると、かなりすっきりとした気持ちになれる。
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おそらく地元のTシャツなんだろうけど……。
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どすこい?(BROKEN:8_20)
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「タオルケットならあるけど……ここで寝れる?」
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シャツの文字に首を傾げていると、末来さんが折りたたまれているタオルケットを広げてくれた。
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「あはは……サバイバル生活みたいな感じですね……」
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ゴツゴツとした岩場で寝るのは、なかなか難しそうだ。
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ただ岩場の近くに草が生えているようだし、
そこなら寝られるかもしれないけど……。
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「島に着いた初日からこんなことになるって……
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「添い寝が必要?」
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誰もそんなこと言ってないです。
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「添い寝は……さすがに迷惑かけてしまうと思いますので」
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「鼎、ボクは大歓迎」
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おいで、と手を広げられるが……逆に一歩後ろへ下がっておく。
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「えーと、それより……もう少し色んな話を聞かせてもらえると
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「お母さんのこととか、この島のこととか、学園のこととか……
(BROKEN:8_20)
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「そうだね、鼎はこれからが大変かもしれない」
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末来さんが草むらに腰をかけ、岩をもたれかかる。
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それから、視線で私においでと二度目の合図を送ってくれた。
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今度のおいでは無害そうなので、末来さんの隣に腰をかける。
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「潮風が強いから冷えないように」
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と、タオルケットを私の肩にかけてくれた。
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「あ、ありがとうございます……」
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こうして距離が近ければ近いほど、お母さんに錯覚してしまって、どういう風に接したらいいのか戸惑ってしまう。
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お母さん相手に敬語というのもちょっと変な感じだし……。
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「鼎?」
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「あ、そのっ、何から聞いたらいいかなって考えててっ」
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顔を覗き込まれて、さらに戸惑ってしまった……
ちょっと落ち着こう。
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一度だけ深呼吸した後、隣にいる末来さんを見た。
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「末来さん、お母さんと約束したって聞きましたけど……
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「突き落とされた私を助けてくれただけじゃなくて、
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「それが約束だから。鼎が島に来た時、きっとこうなる。
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淡々とした口調で語られるけれど、その答えは的を射ていない。
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だから、私はもう一度だけ末来さんに問いかける。
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「私のお母さんとの約束って……松籟会の人達を敵にしても、
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「――うん、それが今のボクにとって一番大事な約束だから」
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「もし鼎が本当に真実を望むなら、その道標となること……
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「鼎の手を引いていくことは出来ない。でも、その道を教えること(BROKEN:8_20)
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真面目な口調で淡々と、でもどこか寂しげな横顔を見せる。
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「それがどれだけ困難な道でも鼎が進むというなら、
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「末来さん……」
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真実に辿り着くには、とても困難な道……か。
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織戸伏島でお母さんを捜すため、崎(BROKEN:8_20)
実家を出たのはいいけれど――。
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島に辿り着く前に命を落としかけて、学園寮のベッドじゃなくて、岩場で隠れたまま一晩を過ごすことになった。
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困難な道っていうなら、もう充分にその道を歩んでいる気がする。
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それにお母さんに会うっていう目的は揺るがないから。
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「私はお母さんに会うために、この島に来たんです」
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「七年前にいなくなってから……ずっと会いたかったお母さんが、(BROKEN:8_20)
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我ながら舌っ足らずだとは思うけど、
今の気持ちの全てを末来さんに伝える。
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すると、末来さんはやっぱりどこか寂しげに微笑んだ後、
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「――うん、鼎がそう望んだなら、ボクは約束を果たすよ」
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私にはっきりとそう答えてくれていた。
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末来さんは静かな瞳を少しだけ揺らして私を見つめる。
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確かな決意と、どこか悲しむような……迷い?
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色んな感情が入り交じったような瞳で、自分の気持ちまで
呑み込まれてしまいそうだった。
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そんな瞳だからこそ、絶対に聞いておきたいことがある。
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私は末来さんを真っ直ぐに見つめたまま言葉を紡ぐ。
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「末来さん、私のお母さんとはどんな関係だったんですか?」
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「…………」
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「――とても大切な人だよ」
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過去を懐かしむような、そんな優しい声色。
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その声を聞いただけで、二人の間に交わされた約束――
誓いの重みが伝わってくるようだった。
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星々がまたたき、月明かりとともに私達を照らし出す。
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その後、私は末来さんといくつか言葉を交わしている間に、
疲労からか意識がゆっくりと闇に落ちていくのが分かる。
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「鼎、キミが持ってるお守り……
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薄れる意識の中、末来さんがお母さんと同じ事を私に囁く。
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「鼎の魂に応えてくれるように祈るんだ、いいね?」
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「ボクに出来るのは……ここまでだから」
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末来さんの優しい声を聞きながら、私の意識はそこで途切れた。
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seisai_no_resonance/sce01_00_03_0.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)