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sapphism_no_gensou:8190

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[Narration] そこは、大講堂の二階と一階をつなぐ、いくつもある階段の中で、メインスロープの役割を果たしていた。

[Narration] そこを、ゆっくりと降りてくる少女がいる。

[Narration] ゆるやかにひるがえるドレス。漆黒の長い髪が、一段一段おりるのにあわせて揺れる。

[Narration] ドレスは照明を照り返して純白に輝く。向けられたまぶしげな視線は、褐色の肌に吸い込まれる。鮮やかすぎるコントラストを一人で作り出していた。

[Narration] まっすぐに背を伸ばして、階段をおりてくる。誇らしささえある顔で、まっすぐに杏里を見つめる。

[Aisha] 杏里……。

[Narration] 淡く色づけられた唇が、杏里の名を呼ぶ。しかし、杏里には返事ができなかった。その姿に魅入られて、ただ、呆然と見つめるだけだった。

[Aisha] 杏里……?

[Anri] あ、ああ。アイーシャ……。

[Narration] 再び名を呼ばれて、やっと声が出る。杏里の答えに、アイーシャが微かに笑う。

[Aisha] そうよ。私よ、杏里……。

[Narration] 囁くほどの声が、杏里の耳に入ると頭の中でこだまする。アイーシャだけに結像された視界の中で、その手が杏里に向かって差し出される。

[Narration] 杏里の手は、それをとても自動的に受け止めた。

[Narration] 杏里に最後の数段をエスコートされて、注視の中、アイーシャはホールへとおり立った。

[Narration] そのままホールの中央へと進んでいく二人を中心に置き、数メートルの空間をあけて、人の輪が形作られる。

[Narration] 杏里とアイーシャが足をとめると、指揮者のタクトが振り上げられる。そして、オーケストラが円舞曲を奏でだす。

[Narration] 三拍子のゆったりとした音の流れに、二人はそのまま体を乗せる。

[Narration] 白いドレスの裾と結われた黒い髪が、アイーシャの体の揺れにあわせて広がり、なびく。

[Aisha] 杏里、踊れたのね。

[Narration] ステップを踏みながら、アイーシャは少し杏里の胸にもたれるようにして踊る。その胸元からの囁きに杏里は答えた。

[Anri] うん……。それに、リードするのは慣れてるから……。

[Aisha] 杏里らしいわ。ねぇ、このドレス、杏里が選んでくれたものよ。憶えてる?

[Anri] うん……。すごく似合ってる。

[Aisha] ほんと……?

[Anri] うん……。見とれた……。

[Aisha] 嬉しい……。着てきてよかった……。

[Aisha] ……遅くなってごめんなさい。

[Anri] そうだね……、少し待ったし、捜しちゃったけど……、すまなく思うことはないよ。

[Aisha] ありがとう……。なんだか、夢みたいよ。

[Anri] 何が?

[Aisha] ……船を降りる最後に、杏里とこうして踊れるなんて思わなかったから。

[Aisha] このまま、ずっと音楽が終わらなければいいのに……。

[Anri] ボクも、少しだけそう思う。今、アイーシャと踊ってることが、すごい幸せに感じられる。でも……。

[Narration] 杏里は、すっと体をずらして、アイーシャから離れる。同時に、オーケストラは最終小節を奏で終える。

[Anri] 終わらない曲っていうのはないよね。

[Aisha] そうね。

[Narration] わずかな距離を置いて、二人は向き合っている。

[Aisha] 話があるって言ってたわよね、杏里。

[Anri] うん……。でも、ここじゃちょっとかな。

[Aisha] 私は別にかまわないけど。……そうね、外に出ましょう。きっときれいよ、夕陽が。

sapphism_no_gensou/8190.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)