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sapphism_no_gensou:7604

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[Narration] 片づけるという行為を放棄して、天京院とソヨンはそのまま思い思いの場で眠りにつき、朝を迎えた。

[Narration] 二人が目覚めてほどなく、杏里も目を覚ます。いつものように、よく寝た、と脳天気に言い放ち、背伸びをしながら。

[Narration] 杏里は、少女のことは憶えていた。しかし、それは、体を明け渡す直前までで、その後はいっさい、先の目覚めまで何も憶えていないと証言した。

[Soyeon] はぁ……、夢だったみたいですね……。

[Tenkyouin] 悪夢だな……。

[Narration] 散乱した部屋を見渡し、天京院は吐き捨てるように言う。しかし、ソヨンには部屋の有様がそれほど悲惨なものには思えなかった。普段のこのよく部屋を知っていたため。

[Soyeon] あの人、どうしたんでしょうか……。

[Tenkyouin] さぁ? あたしの知ったことじゃない。

[Narration] どことなく、太陽の射し込んでくる窓の外を見ながら、ソヨンと天京院は短い会話を続ける。そこへ、杏里が入ってくる。

[Anri] 帰ったんじゃないのかな……。

[Soyeon] 帰るって……、どこにですか? まさか……、天国?

[Anri] そこまではわからない。天国かもしれないし、自分の思い出がある昔の学園かもしれない。もしかしたら、ボクが開けてしまった木箱の中かも。

[Soyeon] 木箱……、ですか?

[Anri] うん! 船倉を探検していたら、見つけたんだ。少し古びた感じの桐の箱でね。お札が貼り付けてあった。

[Tenkyouin] 頼むから、そんなものをうかつに開けたりしないでくれ……。

[Narration] どっかりと椅子に座り込んだまま、天京院がそうぼやく。

[Anri] 彼女からちょっと話を聞いたんだ。なんでも、前の学園でいろいろ徘徊して気味悪がられていたんだって。

[Anri] そんなある日、彼女の前に三つ編みの学生が立ちはだかり、見事、彼女をその箱の中に閉じこめたという……。

[Soyeon] わわっ、ゴーストバスターズですね。

[Anri] 彼女もかわいそうだよ。

[Narration] ふっと視線をさげ、杏里はそう言った。

[Anri] 好きな人がいる、大好きな人がいる、それは素晴らしいことなのに、許されない時代があったんだね。

[Anri] 相手が、女の子だというだけで……。

[Anri] ボクは、今という時代に生まれたことを神に感謝するよ。おかげで、こんなにも幸せな毎日を過ごすことができる。

[Anri] 愛しい子猫ちゃん達に囲まれてね。

[Tenkyouin] それで、彼女に同情したというわけか。

[Anri] 同情? とんでもない!

[Narration] さも心外と言わんばかりに、杏里は抗議する。

[Anri] 彼女のことをかわいそうとは確かに言ったよ。でも、彼女に体を貸したのは同情なんかじゃないよ。

[Anri] なんて言ったらいいのかな……。うーん、そう、愛の証ってやつかな!

[Tenkyouin] ……なんだって?

[Narration] 喜々として出した杏里の答えに、天京院の反応する声が一段、低くなる。

[Tenkyouin] おい、まさか、あの幽霊は……。

[Anri] なんて不幸なことだよ! もし、彼女が自ら命を絶たず、しかも、ボクと同じ時に生まれてきてくれたのなら……。

[Anri] きっと、かわいい子猫ちゃんになってくれただろうに!

[Tenkyouin] ……!!!

[Soyeon] あ、あの人、その、どの時点で区切ったらいいのかわからないけど、杏里さんより年下だったんですか……。

[Anri] そうさ! くわえて彼女は年上が好みなんだってさ。まさに、ボクらは運命の出会いを果たせたというのに!

[Anri] ああ、できれば、体を貸すのではなく、彼女の体をボクに預けてほしかった……。

[Tenkyouin] あ、あ、あ……、杏里〜〜〜。

[Anri] あれ? かなえさん、どうしたんだい?そんな十日もお通じがないような顔をして。

[Tenkyouin] 何を考えてるんだ、お前はーっ!!

[Soyeon] わ、わわっ! か、て、天京院先輩、落ち着いて!

[Narration] 「それは、季節はずれに蒸し暑い夜のことでした」

[Narration] 「あの不思議な事件が起きるには、十分すぎる夜だったんです……」

sapphism_no_gensou/7604.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)