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sapphism_no_gensou:7552

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[Narration] 一瞬、前が何も見えなくなるほどだった。

[Narration] 視界のすべてを埋め尽くす、白い、花の雨。

[Narration] まっすぐにのび、エレベーターへと続いていく階段に敷き詰められた緋毛氈の赤の中に、よく見ると淡く、青、黄、ピンクなどに色づいた花びら。

[Narration] 天井からふりそそぐシャンデリアの光を、それたちはまぶしいくらいにまとって、ゆっくり、ゆっくりと舞い降りてくる。

[Girls] ぁ……。

[Narration] 港からポーラースターへと自分達を運んできた小船を下りたとたんのこの光景に、5人ほどの少女達は息をのむ。

[Narration] 話には聞いていた、そして、秘かに憧れていたに違いない、この船の歓迎の儀式。実際に今、それを目の当たりにして、彼女たちはただ、息をのむ。

[Narration] 目を輝かせながら、それでいて陶然とした顔でという離れ業で、この花吹雪を見つめていた。

[Narration] 時は9月。長いバカンスの季節を終えて、洋上に浮かぶ巨大な花籠は、新しい小さな花を迎え入れる。

[Narration] ようやくほころび始めた、まだつぼみとも言えるほどの幼い花。

[Narration] しかし、この船での3年間で、どれほどの大輪へと自分は花開いてゆけるのか。

[Narration] そんな想いへと彼女達を駆り立てさせる、花吹雪だった。

[Niki] ……あ、あの……。

[Narration] 歓待の余韻もさめやらぬまま、エレベーターに揺られて、噴水のある広場まで案内された新入生達の前に、セカンドの制服の少女が現れた。

[Niki] ……あ、うぅ……。

[Girls] ?

[Niki] ………………。

[Girls] ………………。

[Narration] 顔をうつむかせたまま、何か、話しかけようとしていることだけはうかがえるものの、初めて足を踏み入れた学園の上級生に対し、新入生たる彼女達は困惑するしかなかった。

[Nicolle] ほら、ニキ! しっかりしな!

[Narration] 突然、ふりかかってきた声に、その上級生も含め、全員がびっくりして背筋を伸ばす。

[Nicolle] 段取りはちゃんと最初に確認しただろ?

[Narration] 少し離れたところ、ちょうど大廊下と小さな通路がつながるところに、上級生が二人、立っている。

[Niki] ……う、うん……。

[Narration] その二人に小さくうなずくと、新入生の前にたつ少女は、抱えていたブリーフケースから、人数分のパンフレットを引き出すと、それを配り始めた。

[Niki] ……こ、こちらを、お読みください……。

[Narration] おずおずと差し出されたものを、やはり、おずおずと受け取る。

[Narration] きれいなカラー刷りのパンフレットに、船内見取り図や施設の案内、スケジュールなどがまとめられている。

[Niki] ……にゅ、入学式までの、予定や、この、学園での、生活の案内です……。

[Niki] な、なにか、わからないことが、あったら……、な、なんでも、きいてください……。

[Narration] 時折、言葉につかえ、そのたびに、手をバタバタと動かしながらも、ニキ・バルトレッティは案内の役をつとめていく。

[Narration] その光景を、少し離れた場所から、ニコル・ジラルドとヘレナ・ブルリューカが見守っていた。

[Helena] ……大丈夫みたいね。

[Nicolle] ん、まあね。上出来だろ?

[Helena] ええ……。それにしても、驚いたわ。

[Nicolle] ん? ニキのことかい?ははは、あたしもびっくりだ。ここまでうまくいくとは思わなかったね。

[Helena] いいえ、あなた達みんなのことよ。

[Nicolle] へ? あたしら?

[Helena] ええ。まさか、あなた達がそろって、新入生への案内役を買ってでるなんて、思ってもみなかったわ。

[Nicolle] え? あー……、うーん、そっか。

[Helena] アルマさんとソヨンさんは、不思議ではないけど……。あなたと、ニキさんがね。

[Helena] どういった心境の変化かしら。

[Nicolle] ……たいしたことじゃないさ。あたしは単なる気まぐれさ。

[Nicolle] でも、ニキのことはほめてやってくれよな。そりゃ、あぶなっかしいかもしれないけど……。

[Narration] そう言って向ける視線の先で、まだ、ニキは伝わりにくいジェスチャーを交えながら、新入生を相手に奮戦を続けている。

[Narration] なんとしても十分な説明を受けたい、不安だらけの新入生の必死さもあいまって、それはどこか微笑ましい。

[Helena] もちろんよ。それは、今この場はどうしても不慣れでしょうけど、この先のことを考えれば……、とても頼もしいわ。

[Nicolle] へへ……。

[Narration] そうこうしているうちにやがて、なんとか説明をすべて受け取った新入生が、ぎこちなく頭を下げて、廊下の向こうへと去っていく。

[Niki] ……お、終わった……。

[Nicolle] よしよし、よくやった!

[Niki] はぁぁ……。

[Narration] 気疲れからか、ため息をつくニキの肩を、ニコルが優しく叩く。

[Helena] ご苦労様。大丈夫よ、明日はきっと、もっとうまくこなせるわよ。

[Niki] う、うん……。がんばる……。

[Niki] あ、あと……。あの、い、今の人たちの、中に……。

[Helena] ……ああ、いたわね。

[Nicolle] ありゃ一目でわかるね。

[Niki] ……ふふ……。

[Narration] 大廊下の端、今にも視界から消えそうな新入生に、3人は視線を向ける。

[Narration] その中の特に一人、少し小柄な、黒い髪の少女の背中に。

sapphism_no_gensou/7552.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)