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sapphism_no_gensou:7512

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[Aisha] というわけで、説得役をまかされたの。

[Anri] ようこそ、アイーシャ! 歓迎するよ!

[Aisha] ふふ……、私は歓迎されるのね。

[Anri] もちろんさ! 君のために閉ざす扉なんてないよ!

[Narration] 本来、乱雑に散らかっているはずの天京院の部屋も、大部分はアルマの貢献のおかげで、今はほどよく片づいていた。

[Narration] その部屋の中に、6人目の客人として、アイーシャが招き入れられた。ただし、部屋の主は締め出しをくらっていて、部屋は5人の先客が勝手に占拠している状態にある。

[Narration] おのおのが好きな場所に腰を下ろし、いつの間にか運び入れられたお茶やお菓子を広げてすっかりくつろいでいる。

[Aisha] ブルリューカさんに頼み込まれて、こうして来たんだけど……、けっこう悠々としているのね。

[Aisha] 籠城犯って聞いていたから、もっと物々しいのだと思っていたわ。

[Anri] 籠城犯はひどいなぁ。

[Nicolle] 何言ってる、そのまんまじゃないか。

[Alma] まぁ、わたし、籠城犯は生まれて初めてです。そう言われると、なにやら、ドキドキしてきますね。

[Anne Shirley] へっへっへ、もっとドキドキするいいブツがありますぜ。

[Narration] 見渡せば、キッチンのシンクには、今日の夕食でたいらげたイタリア料理が盛られていた大皿が水につけてある。

[Narration] 普段はシーツも見えないベッドも、堆積物は脇によけられ、今は半ば、夢の世界へと旅立ちつつあるニキが、くたっと横になっている。

[Aisha] ちょっと、あきれたわ。実は、少し、心配してたの。でも、杞憂というか……、損した気分ね。

[Nicolle] 主犯は杏里だぜ? 深刻な顔して、立て籠もっているわけ、ないじゃないか。

[Aisha] それもそうね。

[Narration] 納得の表情で、アイーシャは笑みを浮かべる。

[Aisha] でも……。

[Aisha] 先に折れるつもりはないんでしょう?

[Anri] もちろん!

[Aisha] やっぱり。

[Nicolle] おいおい、もう説得をあきらめちまうのか? ずいぶんと不熱心なネゴシエイターだな。

[Aisha] だって、杏里だもの。

[Narration] 寝椅子に腰掛けたまま、アイーシャは肩をすくめる。

[Nicolle] でも、なんで説得役がアイーシャなんだ?

[Nicolle] こう言っちゃなんだけど、あたし達、けっこうとんでもないことやってるよな?

[Anne Shirley] そうね、あたしも飛んでる。

[Nicolle] 教師連中や、PSの偉そうなのがやってきてもおかしくないと思ってたんだけど。

[Aisha] ブルリューカさんが学園長と話をつけたのよ。これは、友人同士のちょっとしたトラブルですって。

[Anri] 友人同士……。

[Narration] 杏里は、知らず、胸を手で押さえる。

[Aisha] そう。天京院さんは、杏里の部屋に泊まってるわ。そして、解決は学生同士にまかせるってことになったの。

[Nicolle] つまりなにか? あたしらはカナエに意地悪してるとかそんな感じか? うわ、カッコ悪い!

[Anne Shirley] ほんとにカナエをいじめていいなら、もっといろんな手を考えるだわ!

[Alma] えーと、靴に画鋲を入れたり、教科書を隠したり、机の中に雑巾を入れたりするのですか?

[Nicolle] えらく古典的な手法だな。

[Anne Shirley] 食事にクスリを混ぜたり、夜中に部屋に忍び込んで壁中に手形をつけたり、ノートにびっしり文字を埋めて郵便で送りつけたり?

[Nicolle] えらくサイケデリックな方法だな。

[Anne Shirley] どれかひとつくらい、やっておく?

[Nicolle] 意地悪の話だよな? 手にアンプルとカプセルを持つの、やめれ。

[Narration] わいわいと騒がしい同い年のファーストクラスの面々の様子を見てわずかに笑い、アイーシャは杏里に向き直った。

[Aisha] 杏里、わかっているでしょう? 天京院さんの態度、あれ、わざとだって。

[Anri] ……うん。

[Narration] しばらく、押し黙った後、杏里はうなずく。

[Aisha] それがわかっていても、許せないかしら。

[Anri] ……許せないってことじゃないかな?あのかなえさんを、認めたくないんだ。

[Anri] ボクは、かなえさんに見返りを求めたりはしない。でも……。

[Anri] かなえさんがボクとの友情を否定するとしても、それがなぜかは知りたい。

[Anri] 何も教えてくれないまま、この船を出ていってしまうなんて……、耐えられないよ。

[Aisha] そう……。それなら、ちゃんと教えてくれたら、天京院さんを見送ることができるのかしら?

[Anri] それは……。

[Narration] 杏里は一瞬、言葉に詰まる。それから、ゆっくりと、問いへの答えをつないでいく。

[Anri] まだ、よく、わからないんだ。ただ、大切な日常がひとつ、壊れてしまうのは確かだ。

[Anri] とても、優しくて暖かくて心地よい日常。それが、かなえさんがいなくなることで変わってしまう。なくなりはしないけど、変わってしまう。それは確かだ。

[Anri] 今回、こんなことを言ってしまったけど……、無茶でも、ワガママでも、本当は、かなえさんにポーラースターにいつまでもいてほしいんだ。

[Anri] ボクはこのポーラースターが好きだ、大好きだ。この、いつまでも変わらぬ楽園を、愛してやまない。……いつまでも変わらぬと、信じていた。それは、無邪気に……。=

[Aisha] なにか……、ちょっと恐ろしい人ね、杏里って。

[Anri] なんだい、恐ろしいって。

[Aisha] 変わらない楽園、というところが。こうやって、毎日、すぎていく中で、そう思えるところが。

[Anri] そうだろうか? そんなに変なことかな?楽しい日々をずっとと望むことは。

[Aisha] 信じてしまうと、ちょっと。ね。

[Anri] ?

[Aisha] ねぇ、杏里。

[Aisha] 私、明日、この船を降りるの。

[Anri] ……! そっか、卒業したんだものね……。

[Aisha] ええ。見送りに、来てくれる?

[Anri] もちろんだよ! ……あ。

[Narration] 勢い込んで答えてから、杏里は現在の状況に思いいたり、周囲を見渡す。

[Anri] そっか、籠城中だっけ……。

[Aisha] ふふ……。

[Narration] くすくすと笑うアイーシャを前に困惑する杏里を見かねて、ニコルが助け船を出した。

[Nicolle] なに言ってんだよ、杏里。行ってこいよ。

[Anri] でも……。

[Alma] あら、杏里様。わたし達でも留守を預かることくらいはできますわ。

[Anne Shirley] そうそう、留守番なら、ボゲードンにおまかせ。

[Nicolle] まかせられるか。それじゃもぬけの殻だろうが。

[Aisha] ふふ……。それじゃ、そろそろ私は失礼するわね。

[Nicolle] おかまいもしませんで。

[Aisha] ううん、楽しかったわ。明日、また、最後に顔を出すわね。

[Narration] 席を立ったアイーシャに続いて、杏里も立ち上がる。

[Narration] 二人して、そのまま、ドアの前まで進んだところで、アイーシャは杏里を振り返った。

[Aisha] それじゃ、お休みなさい、杏里。

[Anri] お休み、アイーシャ。

[Soyeon] ひどい人ですね、かなえさん。

[Narration] 普段なら、杏里が座っているはずの椅子に、天京院は表情をまったく消したまま、コーヒーカップを片手に、体を沈み込ませていた。

[Tenkyouin] 昼間のことか?

[Soyeon] ええ、聞きました。かなえさんにとって、杏里さんやあたし達って無意味なものだって言ったんですね。

[Tenkyouin] ………………。

[Narration] ソヨンからの言葉に視線も向けずに、天京院は押し黙る。

[Soyeon] あたしは、そんなこと言われたら、すごいショックです。

[Soyeon] もう少し……、杏里さんのことを考えてあげてもよかったんじゃないですか?

[Soyeon] かなえさん……、まるで子供みたい。

[Tenkyouin] 天の邪鬼、だとでも?

[Soyeon] 杏里さんに嫌われようとしているのが、丸わかりです。

[Soyeon] あれじゃ、杏里さんにもバレちゃいますよ。

[Tenkyouin] もし、そう思うなら、杏里こそ、もっと大人の態度をとるべきじゃないのか?

[Narration] 苛立たしげにため息をついて、天京院は言った。

[Soyeon] でも、杏里さんだから、ああいう行動にでちゃったんですよね。

[Soyeon] 逆効果でしたね。

[Tenkyouin] ソヨン。

[Soyeon] はい?

[Tenkyouin] あの言葉は、何も杏里にだけに言ったんじゃない。

[Tenkyouin] あたしにとって、ここでの人間関係なんてものは……。

[Soyeon] そうやって……。

[Narration] 天京院の言葉を、ソヨンは静かに遮る。

[Soyeon] そうやって、あたしにもそういう態度をとるんですね。

[Tenkyouin] ………………。

[Narration] 再び、天京院が押し黙った時、部屋のドアがノックとともに開いて、アイーシャが姿を現した。

[Aisha] こんばんわ。

[Soyeon] あ、アイーシャさん。

[Aisha] 様子見てきたわ、杏里達の方。

[Soyeon] あの、どうでした……?

[Aisha] 杏里達は、あまり心配しなくてもいいみたい。

[Soyeon] そうですか……。

[Narration] 安堵と気遣いを混ぜ合わせた吐息を、ソヨンはつく。

[Narration] そこに、ヘレナ、クローエ、イライザの3人が、部屋に入ってくる。

[Chloe] ああ、戻っていたのね、アイーシャ。

[Helena] ヤンさん、どうでした? 杏里の方は。

[Aisha] すごいリラックスしていたわ。まるで、キャンプかパジャマパーティーみたい。

[Eliza] お食事の方は?皆様、ちゃんととられてましたか?

[Aisha] ええ、それはもう、しっかり。

[Helena] いえ、あの、杏里達の様子が聞きたいわけじゃなくて……。

[Chloe] まぁ、説得されて、杏里が素直に聞くとは思わなかったけど。

[Aisha] ごめんなさい、少し、話はしたんだけれど……。

[Helena] はぁ……。

[Narration] ヘレナは大きなため息をついて、肩を落とす。

[Helena] もういいわ、今日のところはここまでにして、後は明日にしましょう。

[Chloe] 明日になれば、何か事態が動くわけでもなさそうだけど。

[Helena] そう言わないでよ……。学園長に言ってきた手前、少しはなんとかしないと……。

[Tenkyouin] 迷惑をかけるね。

[Narration] 天京院の短い言葉に、部屋を出ようとしていたクローエとヘレナ、イライザが振り返る。

[Chloe] そうね、確かにいい迷惑だわ。

[Tenkyouin] ふん……。

[Chloe] でも、天京院さんが詫びることではないわね。実際に迷惑をかけているのは杏里達なんですから。

[Tenkyouin] 原因は、あたしにもある。

[Chloe] ええ、そうでしょうね。でも、せいぜい、口げんかですむことを、ここまで大騒ぎにした杏里に、同情する余地はないわね。

[Helena] クローエ……。最初にあたし達が止めてれば……。

[Chloe] 忘れたわ、そんなこと。

[Chloe] とにかく、天京院さんが責任を感じることはないと思うわ。ただ……。

[Narration] 天京院に向けられたクローエの目がすっと細められる。

[Chloe] 杏里に向けられたあの言葉、もし、このままにして、あなたがこの船を降りるなら……。

[Chloe] わたしは、あなたを軽蔑する。杏里の友人としてね。

[Narration] そう言うと、クローエはまっすぐに出口へと向かっていく。

[Helena] ちょ、ちょっとクローエ! もう……。それじゃ、私も今日はこれで失礼しますね。お休みなさい。

[Eliza] では、私もこれで。

[Narration] クローエに続き、ヘレナ、イライザも部屋を出ていく。

[Aisha] 私も、もう、戻ります。明日の支度もあるから。お休みなさい、天京院さん、ファンさん。

[Soyeon] あ、はい、お休みなさい、アイーシャさん。

[Narration] アイーシャを出口まで見送ってから、ソヨンは室内を振り返った。

[Narration] 天京院は、変わらぬ姿勢のまま、コーヒーを口に運んでいる。

[Soyeon] かなえさん……。

[Tenkyouin] ………………。

[Soyeon] あの、かなえさん、あたしが、こんなこと言うのは生意気なんですけど……。

[Soyeon] ……後悔しちゃ、いやですよ……?

[Narration] 天京院が視線を向けないまま、ソヨンは頭を下げると、なるべく音を立てないように、部屋を出ていった。

[Tenkyouin] 後悔なんて……。

[Tenkyouin] どうしたってするようにできてるんじゃないのか……?

sapphism_no_gensou/7512.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)