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sapphism_no_gensou:7511

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[Helena] 杏里!? 聞こえてる!?

[Anri] やぁ、ヘレナ!

[Narration] インターホンから、ヘレナの苛立ちを加速させる、明るい杏里の声が響いてくる。

[Helena] やぁ、ヘレナじゃありません!

[Helena] あなた、自分がいったい、なにをやっているのか、わかってるの!?

[Anri] えっと、ヘレナ、かなえさんも外にいるの?

[Helena] 今はいないわ。私の部屋に来てもらっています。

[Anri] あ、そう。じゃあ、今、開けるね。

[Helena] え?

[Narration] 杏里の言葉に疑問を浮かべたのもつかの間、天京院の部屋のドアが、目の前で開き、杏里が姿を現した。

[Helena] 杏里! このドア、開くんじゃない!さっきは開かないなんて、嘘をついたのね!?

[Anri] 嘘はついてないよ。さっきまでは本当に開かなかったんだ。

[Narration] 杏里は、開いたドアを眺めやって、言葉を続ける。

[Anri] さすがに、ドアがあかないと不便だからね、いろいろ試してみたら、自由に開けられるようになったんだ。

[Helena] そ、そう……。

[Narration] 天京院でなくても脱力したくなる、杏里のあっけらかんとした態度にヘレナはそう思う。

[Helena] それより杏里!まったくこんなことをしでかして……!

[Helena] ドアが開いたのならちょうどいいわ。今すぐ、全員、ここから出なさい!

[Narration] 杏里越しに、ヘレナは部屋の中へと視線を向ける。

[Narration] ニコル、ハミルトンさん、バルトレッティさん、バンクロフトさん! 全員よ!

[Narration] ヘレナが部屋の中へと声をかける。しかし、期待していた素直な返事も、ブーイングすらも返ってこなかった。

[Anri] ヘレナ、ごめん。

[Narration] 杏里が、わずかに肩をすくめて、そのヘレナの言葉に答える。

[Anri] 今、この部屋から出ていくことはできないよ。

[Narration] いつもと変わらぬように聞こえる明るいトーンの声の中に、強い意志がこめられているのがわかる。

[Helena] できないって……、杏里、あなた、まさか、さっきの要求を本当に押し通すつもりじゃ……。

[Anri] うん。

[Helena] 本気なの!? 考えてもごらんなさい! 天京院さんの進路なのよ? あなたがワガママでどうこうできるものではないのよ!?

[Helena] それも、こんな子供じみたやり方で無理を通そうとするなんて……。分別のつかない子供じゃないんだから……。

[Anri] うん、無理はわかってるよ。でも……。

[Anri] このまま、かなえさんを船から降ろすわけにはいかないんだ。

[Helena] だから、それが無理だって言ってるのよ!?

[Helena] まったく! ファーストの子達まで巻き込んで……。

[Anri] うーん、確かに、ニコル達には悪いことをしたと思ってるけど……。

[Nicolle] こっちのことなら、気にしなくていーぞ、杏里!

[Narration] 部屋の中から、明るい声が返ってくる。

[Helena] ニコル!?

[Nicolle] あたしらは好きで杏里につきあってるんだからさ。

[Alma] ええ。今回は杏里様のお好きなようにやればよいと思います。わたしも、喜んでお手伝いさせていただきますから。

[Anne Shirley] 24時間、戦えるおクスリならあるわよ?

[Niki] あの……、あ、杏里……の、ため、なら……。

[Helena] あきれた……。

[Narration] 代わる代わる返ってくる言葉に、ヘレナは脱力して、壁にもたれかかる。

[Anri] あはは、ありがたいや。

[Helena] 笑い事じゃないのよ! すでに、学園側にも、このことが問題になっているのよ?

[Anri] それでも、ひくことはできない。ボクの方からは、ね。

[Helena] なんでよ……。天京院さんともう一度、落ち着いて話し合えばいいじゃない。

[Anri] かなえさんと話し合うことができるなら、ちゃんとするよ。でも、ボクの要求は、このままじゃさげられない。

[Anri] かなえさんは、こう言ったんだ。この学園での3年間、研究に費やした時間以外に、意味なんてなかったって。

[Helena] そんなこと、言葉のあやじゃないの!?

[Anri] そうかもしれない。でも、取り消してくれなかった。

[Anri] ボクは、それを認めることはできない。かなえさんと会った、ボクの2年間は、ボクの人生の中でかけがえのない時間だもの。

[Anri] ボクは、けして、一方通行にかなえさんに友情を投げかけていたわけじゃない。ボクの中に、ちゃんとかなえさんから受け取ったものがあるんだ。

[Anri] それを否定したまま……、ボクとかなえさんとの時間を認めないまま、かなえさんがこの船から去るのを、許すわけにはいかないんだ。

[Helena] 杏里……。

[Narration] 軽い絶望感をヘレナは味わう。杏里のこの穏やかな声、口調。それは、昂揚した愛の言葉と同じくらい、杏里が彼女の中の真実を伝えている時のものだと知っていた。

[Anri] ごめんね、ヘレナ、迷惑をかけて。でも、ボクは負けないよ。

[Helena] ……勝ち負けの問題じゃないでしょう……。

[Narration] めまいを覚えながら、かろうじてヘレナが答える。

[Anri] そうかもね。それじゃ、引き続き、閉じこもらせてもらうね。

[Helena] あ、待ちなさい……!

[Narration] そのヘレナの言葉も、閉められた扉に跳ね返される。ヘレナは閉ざされたドアの前で途方に暮れた。

[Helena] まったく、どうしたらいいのよ……。

[Anri] あ、そうだ。

[Narration] 軽快にドアは開き、明るい表情の杏里がヘレナの前に再び現れる。

[Anri] イライザに伝言をお願いできるかな?7時ごろ、夕食を届けてほしいって。今夜は多数決でイタリアンのコースをお願い! じゃ、よろしく!

[Narration] そして、扉は再び閉ざされる。

[Helena] ………………。

[Narration] ヘレナは今度こそこらえきれず、その場にずるずると座り込んだ。

[Chloe] ヘレナ?

[Narration] どこかで今までの光景を見ていたのか、いないのか、クローエとイライザが並んでくずおれたヘレナの前に現れる。

[Chloe] しっかり?

[Eliza] あ、夕食の件でしたら、承りましたから。後で、お届けしますね。

[Narration] ヘレナは二人の友人を、そのうち、特に黒髪の方を見上げる。

[Helena] ほら……、とんでもないことになったじゃない……。

[Chloe] ……恨みがましい目でわたしを見ないでよ。それより……。

[Chloe] 学園長が呼んでいるわ。この事態の説明をしてほしいって。

[Helena] 学園長が!?

[Helena] ……それ、私が行くの?

[Chloe] 当事者達はごらんの通りじゃない。あなた以外に誰が行くって言うのよ。

[Helena] ……あなたでもいいのよ?

[Chloe] 冗談でしょう? 無駄な抵抗はやめて、出頭してきなさい。あなた以外に、学園長相手にうまくやりおおせる人はいないわ。

[Helena] はぁ……。無駄な抵抗をやめて出てきてほしいのは、この中の人達なのに……。

[Narration] ヘレナは肩を落としたまま、立ち上がり、いかにも重たげな足取りで、その場を後にした。

[Principal] 集団による、自室以外の学生個室を占拠、ねぇ……。

[Principal] はっはっは、相変わらず、面白いことしてくれるじゃないか、杏里・アンリエットは。

[Principal] お前ら、あれか? くだらん面倒ごと起こして、大人に迷惑かけるのが若者の特権だと思ってないか?

[Helena] あ、あの……。

[Narration] 学園内の、そして、この船の最高権力者である学園長を前にして、ヘレナは恐縮に肩をすくめた。

[Principal] おまけに、杏里達は、占拠した個室の持ち主、天京院鼎の卒業取り消しを要求している、と……。

[Helena] で、ですから……。

[Principal] はっはっは、いいねぇ、青春だ。熱く、青い。明日を担う若者は、難しいこと考えんと、ガンガンいかなきゃなぁ。

[Helena] その……。

[Principal] なーんて言うと思ったか、コラ。

[Narration] ダン、と学園長の拳が舵輪を叩く。

[Principal] わたしゃ、トラブルは好きだが、面倒は嫌いなんだ。卒業取り消し? おーおー、取り消したるわい。ついでにまとめて退学させて、今すぐこの場で船から放り出したろかい。

[Principal] 遺憾、遺憾でありますよ。世界に名だたる良家の娘さんを預かる伝統のポーラースターで占拠だ、たてこもりだ? 一歩間違えればシージャックだ、あたしがルールだ、銃殺するぞ?

[Principal] 籠城犯のいる部屋にPS特殊対応班を突入させたっていいんだぞ!?

[Narration] そこまでまくしたてて、学園長は大きなため息をついた。

[Principal] まったく……。

[Principal] どうにかなんないのかね、ヘレナ・ブルリューカ。

[Helena] は、はい、その、この件についてはですね……。

[Narration] ようやく回ってきた発言権を、ヘレナは必死にたぐり寄せながら、言葉を続けた。

[Helena] 今回の一件は、船内施設の不法占拠でも、学園側に対する特定学生への処分要請でもないというのが、学生自治側の見解です。

[Principal] 学生側に、自治など認めた憶えはない!

[Helena] 問題解決にあたる学生有志の見解です……。

[Principal] うむ、発言を許す、続けな。で? それじゃいったい、何だって言うんだ?

[Helena] は、はい……。今回の杏里・アンリエットらの行動は……。

[Helena] もう一方の当事者、天京院鼎との個人的なトラブルにすぎません。

[Principal] うむ、個人的なトラブル!

[Principal] あのなぁ、元をただせば、原因は個人的なトラブルかもしれないけどさ、ここまで大事にされちゃ、それじゃすまないだろう。

[Helena] あ、あの、まだ大事ではない、と、思います。

[Helena] 確かに、杏里達は天京院さんの部屋に立てこもってますが、天京院さんの方は、現在、杏里の部屋に移って、学園生活を続けています。

[Helena] それに、杏里達の要求も、正式に学園運営側にアピールされたものではなく、あくまで、天京院さん個人に向けての要求です。

[Helena] 学園全体の運営やスケジュールに影響は出ていません。天京院さんはすでに全課程を修了していますし、杏里達も、今期の授業はほとんど終わっています。

[Helena] そ、その、個人間のトラブルで、学園の施設を少し、規則に反した形で使用しているだけなんです。

[Principal] ほうほう、なるほど、事態のスケールを小さくしようってわけかい。

[Helena] そ、その……。

[Principal] あのなぁ、そんなに都合よくいくと思ってるのか?

[Helena] で、でも、このままのレベルで解決すれば、面倒はあくまで、杏里と天京院さんのあいだだけにとどまりますし……。

[Principal] 世間体ってもんがあるだろう?

[Helena] ふ、船の上でですか?

[Principal] 他の学生への悪影響を考えるとなぁ。

[Helena] 二人とも、普段から問題児扱いです。今さら、あの二人の行動が、他の学生へ与える影響を考えるくらいなら、もっと前から対処すべきだったはずです。

[Principal] ………………。

[Helena] あ、あの……。

[Principal] ………………。

[Helena] お、お願いします。なんとか、これで……。

[Principal] あんたも、苦労するねぇ。

[Helena] はぅ……。

[Principal] しょうがない、今回も大目にみてやる。そのかわり、これ以上、大事にせずに、とっとと解決しちゃいなさい。いいな?

[Helena] あ、ありがとうございます……。

sapphism_no_gensou/7511.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)