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sapphism_no_gensou:7506

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[Anri] かなえさんに会えなーい!

[Narration] 惰性そのものと言える、期末考査も、その結果発表も終わった後の授業を受けた後、杏里は机から立ち上がりもせずに、そう叫んだ。

[Chloe] 場違いな大声を出さないでちょうだい、杏里。

[Helena] そうよ。天京院さんも、身内にご不幸があって、いろいろお疲れなのよ。

[Anri] そうは言っても、かなえさん、もう二日も部屋にこもりっぱなしなんだよ?

[Helena] たった二日よ。

[Chloe] あの人なら、コーヒーの備蓄さえあれば、それぐらい平気でひきこもっていたじゃない。

[Anri] そう、そのコーヒーさ!

[Anri] 二日どころじゃないさ。その前の2週間、かなえさんは不在だったんだよ? つまりあわせて2週間と二日! ボクはかなえさんのコーヒーから遠ざかっているんだよ!

[Anri] この船のどのカフェでも再現できない、あの味、あの香り! これほど長く遠ざかっているなんて初めてだよ! ああ、禁断症状で手が震えそうだ!

[Anne Shirley] なら、いいオクスリを調合してあげましょうか?

[Anri] やぁ、アンシャーリー!

[Chloe] どっからわいてでたのよ……。

[Helena] バンクロフトさん? ここはセカンドの教室よ?他のクラスの教室に勝手に入ってきては……。

[Anne Shirley] あらあらヘレナってば、自分は出ずっぱりだからって、ここに来てようやく出番の回ってきた下級生をいびり倒そうったってそうはいかないわよ?

[Helena] え? 何を言ってるの?

[Anne Shirley] 失礼、今のは業務連絡だわ、いわゆる。杏里、まだまだヌルいわね。カフェインごときで手を震えさせているようじゃ。

[Anne Shirley] ここは一発、震えるどころじゃないオーヴァードライヴなヤツをプレゼントフォーユー。あたしの気持ちよ、受け取って。

[Anri] い、いや、今日のとこはいいよ。

[Anne Shirley] あら残念。こんなにイケるのに。ポリポリ。

[Helena] 何を食べているんですか!

[Anne Shirley] ただの栄養剤よぉ〜。表向きは。

[Helena] お待ちなさい、バンクロフトさん!

[Chloe] やれやれ、騒がしいったら。

[Anri] ねぇ、クローエ。

[Chloe] ……なぁに?

[Anri] かなえさん、帰ってきた時、なにか様子が変じゃなかった?

[Chloe] そうかしら? いつもと変わらないようにも見えたわ。相変わらずのマイペースでいらして。

[Anri] うーん、それはそうなんだけど。

[Chloe] あの人の態度に現れる微妙な機微なんて、わたしにわかるはずがないわ。でも……。

[Chloe] 杏里が変だと感じたのなら、どこか変だったんでしょうね。どういうふうに思ったの? 言ってごらんなさい?

[Anri] うーん、なんて言うか……。

[Narration] 椅子に座り、クローエに見下ろされたまま、杏里は腕組みをして、自分の頭の中のもやもやと格闘する。

[Anri] 乾期の後に訪れた雨を吸い込みようやく芽吹いた草原のような、はたまた、開け放たれた入り口を前に逡巡する檻の中の鳥のような……。

[Chloe] なにそれ。印象が統一されてないわよ。

[Anri] 一週間ぶりのお通じを無事に終えたような。

[Chloe] 文芸という人類文化の生み出した宝に対して、もっと真摯になりなさい、あなたは。

[Anri] ボクはいつだって真剣だよ!

[Chloe] ………………。

[Helena] あ、ああっ! おやめなさい、バンクロフトさん!

[Anne Shirley] へっへっへ、観念しなよ、子猫ちゃん。

[Chloe] あら?

[Helena] ん、んんっ!? な、何を飲ませたの!?

[Anne Shirley] 強情を張るのはよしなよ、へっへっへ。自分の身体の変化がわかるだろう? ええ?

[Helena] 変化……? え、ええ!? あ、あっ……。か、身体が……、あ、あつい……?

[Anri] おや。

[Anne Shirley] そろそろ火照ってたまらなくなってきたんじゃないのかい? いいんだぜ、ここでいじりはじめても。

[Helena] そ、そんな……、こんな場所で……。

[Chloe] 逆襲にあったみたいね。

[Anri] やれやれ、ヘレナを助けてあげなくっちゃ。

[Narration] 教室のすみで、クルクルと踊りながら言葉でなぶってくるアンシャーリーを前に、ヘレナは自らの体を抱きしめて、顔を真っ赤にさせて荒い息をついていた。

[Narration] 杏里は立ち上がって、そのヘレナの方に歩いていく。

[Chloe] まぁ、杏里の心配もわかるけど。

[Narration] その杏里に、クローエが声をかける。

[Chloe] そろそろ食事もいるだろうって、イライザが天京院さんの部屋に行ってみると言っていたわ。ついでに様子もうかがってきてくれるでしょうよ。

[Anri] そりゃ助かるや。さすがはイライザだ。

[Helena] あ、ああ……、だめよ、ヘレナ・ブルリューカ、欲望に負けてはダメ……。

[Anri] さ、ヘレナ、部屋に帰って休もう?

[Anne Shirley] 大丈夫大丈夫、ちょっと一休みしていくだけだから。

[Anne Shirley] ほんとだってば、シャワー浴びるだけだよ。だーかーらー、何もしないって。

[Anne Shirley] ベットはあるけど、少し昼寝するだけだから。ほーんと、何にもしないから!

[Anne Shirley] そう言って、強引にハンドルを切ると、二人を乗せた車はやけに派手な外観に趣味の悪いネオンの看板を掲げた建物に、ゴムの暖簾をくぐって車ごと吸い込まれていったのでした。

[Anne Shirley] ああっ!? ヘレナ・ブルリューカの貞操や、いかに! 初めっからそんなのないってツッコミはなしでお願い。

[Anri] ……あのね、アンシャーリー?

[Anne Shirley] ええ!? あたしも一緒に? そいつは掟破りな!

[Chloe] やかましい! さっさと連れて行きなさい!

[Narration] 教室のすみで繰り広げられる小喜劇に、クローエが声を荒げた時、教室の扉が開き、一度、終業の合図とともに姿を消した、彼女達の担任教師が入ってきた。

[Rachel] ああ、杏里さん、まだ教室にいたのね。

[Anri] はい?

[Narration] レイチェルは杏里の姿を見つけ、まっすぐに、やや急ぎ足で、その元に向かう。

[Rachel] 杏里さん、あなた、聞いていた?天京院さんのことを。

[Anri] え?

sapphism_no_gensou/7506.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)