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sapphism_no_gensou:7502

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[Tenkyouin] 開いてるよ。

[Eliza] 私が。

[Narration] 部屋の主にかわって、イライザがドアへと向かう。

[Eliza] あら……。いらっしゃいませ、アイーシャ様。

[Tenkyouin] ……珍しい客だな。

[Aisha] こんばんわ。あら……。

[Narration] イライザが扉を開けると、褐色の肌をした少女が部屋に入ってきた。そして、室内の光景に目をしばたたかせる。

[Aisha] ずいぶん、にぎやかなのね、今夜は。

[Nicolle] よぉ、アイーシャ。

[Aisha] どうしたの? パーティーをしてるようには……見えないわよね。

[Nicolle] そんな楽しいもんじゃないよ。見てくれよ、これが浮き世ってもんさ。

[Aisha] ……ああ。そう、期末考査なのね。

[Alma] ええ、みんなで集まって、お勉強会を。

[Aisha] ……ここで……?

[Soyeon] ええ!

[Tenkyouin] ……理解に苦しむよ。

[Aisha] 天京院さんに教わってるの?

[Nicolle] まさか! 試験でミキサーのことなんか聞かれるわけないだろ?

[Soyeon] ヤーンもいるし、落ち着くので場所をお借りしているんです。

[Tenkyouin] ……出ていってくれ。

[Nicolle] 大人げないぞ、カナエ!

[Tenkyouin] ……こういう次第さ。

[Narration] 憮然とつぶやいてから、天京院はアイーシャへと視線をあげる。

[Tenkyouin] 何か用か?わざわざ訪ねてきてくれたんだろう?

[Aisha] あ、え、ええ。

[Tenkyouin] なにを笑っている?

[Aisha] ごめんなさい、少し、おかしくって。……そうそう。

[Narration] にらみつける天京院の表情を見て、アイーシャは話を切り出す。

[Aisha] 今ね、私の部屋にイリヤが来ているの。

[Tenkyouin] 彼女が? ああ……。

[Aisha] そう、このあいだの話をすませてしまおうと思って。

[Tenkyouin] そうだな。彼女も呼んで……。

[Aisha] 無理じゃないかしら、この部屋じゃ。

[Tenkyouin] ……そうだな。

[Narration] 子猫のような面もちで二人を見つめるソヨン達がいる室内を、天京院は憮然と、アイーシャはおかしげに見渡す。

[Aisha] 私の部屋まで来てもらえる?

[Tenkyouin] いいよ。そうしよう。

[Narration] 答えて、天京院は椅子から立ち上がる。たまりかねたように、ニコルが声をかける。

[Nicolle] なんだい、内緒話かい? みずくさい

[Aisha] そうなの、ごめんなさい。ちょっと天京院さんを借りますね。

[Tenkyouin] いいよ、彼女達の相手は、ヤーンで十分だ。

[Aisha] じゃあね、3人とも。お勉強、がんばってね。

[Narration] 床に座るソヨンと堆積物をよけて、天京院がドアへ向かう。見送りのために、イライザがその後に従った。

[Eliza] なにか、お持ちしましょうか?

[Aisha] じゃあ、なにか軽いものをお願いできますか?

[Tenkyouin] コーヒー。君の部屋には確かなかった。

[Aisha] チャイじゃだめかしら?

[Tenkyouin] 悪いけどね。

[Eliza] かしこまりました。ギャレーに寄ってからお持ちしますね。

[Tenkyouin] 頼む。

[Narration] パタン、とドアが閉じられる。

[Soyeon] ………………。

[Alma] ………………。

[Nicolle] ………………。

[Narration] 防音のしっかりしたポーラースターでは、扉の向こう、廊下での会話も足音も聞こえてこない。

[Soyeon] あー…………。

[Alma] えーと………。

[Nicolle] んーと………。

[Narration] 主のいなくなり、客人だけが残された部屋で、留守番をおおせつかったヤーンが、ソヨンの膝の上で丸くなったまま、ピスピスと鼻を鳴らしている。

[Soyeon] 勉強…………。

[Alma] しましょうか……。

[Nicolle] そだな………。

[Narration] なんとはなしに、3人は手にした参考書やレポート、ノートをそれぞれ相手にし始める。

[Soyeon] ………………。

[Alma] ………………。

[Nicolle] ………………。

[Narration] 紙のめくる音、ペンを滑らせる音、理解不能の文言に頭をかく音だけが部屋に静かに響く。

[Soyeon] ………………。

[Alma] ………………。

[Nicolle] …………なぁ。

[Narration] ニコルが沈黙を破って声をかけたところで、他の二人の手がピタリと止まる。

[Nicolle] アイーシャの用ってなんだ?

[Nicolle] カナエと内緒話するって間柄じゃぁ……、ないよな?

[Soyeon] うん……。

[Alma] そうですわね……。

[Narration] いつの間にか、ニコルとアルマも床に座り込み、ソヨンと額を付き合わせている。

[Nicolle] まさか、アイーシャも試験勉強ってオチでもなさそうだしなぁ。

[Soyeon] それはないよ、ニコル。だって、アイーシャさん達はもう、試験終わってるもの。

[Nicolle] え!? そうなの?

[Alma] ええ。サードクラスの期末考査は一週間も前に終わってます。

[Nicolle] なんで!?

[Soyeon] なんでって……。

[Alma] それは……、ああ!

[Nicolle] なんだ? どした?

[Alma] アイーシャ様の用件って、もしかしたら……。

[Soyeon] なになに? 何か思い当たるの?

[Alma] ええ、思い出しました。

[Alma] マルグレーテさんから聞いたんですけど、この学園の伝統に……。

[Alma] というか習わしというか、慣習というか因習というか、俗習に……。

[Nicolle] いかがわしくなってきたな、おい。

[Alma] 卒業するサードクラスの学生が、学園に贈り物をするというものがあるんです。

[Nicolle] 卒業……?

[Soyeon] えっと、それって卒業記念品てこと?

[Alma] ええ、個人や友人同士でいろいろなものを遺していくんだそうです。

[Soyeon] ああ、学園側でやるわけじゃないんだ。

[Alma] ええ。あくまで、個人や有志で、ということらしいんです。

[Alma] カリヨン広場の噴水とか……。

[Soyeon] ええ!?

[Alma] ゴルフ場のOUT側ホールとか……、船首デッキのボードウォークとか……。

[Soyeon] えええ!?

[Alma] ……などが、有名なところらしいんです。

[Soyeon] ふ、噴水やゴルフコースなんて! ここ、船なんだから、か、簡単に遺していけるものじゃないよ!?

[Alma] でも、ボードウォークに使われている木板にはすべて、裏側に寄贈者の名前が彫られているらしいんです。

[Soyeon] はわ〜……。

[Alma] 伝説的なものはさすがにそのぐらいだとか。他にも、いろいろあるのでしょうけど……。

[Soyeon] じゃ、じゃあ、天京院先輩やアイーシャさんも、そういうものを……。

[Alma] やっぱり、そうなんでしょうか?

[Nicolle] ちょ、ちょっと待った!

[Nicolle] て言うことはさ……、カナエ、卒業するのか!?

[Alma] あら? 天京院様、もしかして、単位、足りていないのでしょうか?

[Soyeon] え? そんなことは聞いてないけど?

[Alma] じゃあ、卒業なさいますわね。

[Nicolle] ……じゃぁ、この船から降りるってことか?

[Alma] ええ……? だからこそ、記念に何かを遺していこうってことになるのですし。

[Nicolle] ちょ、ちょっと待った! あのカナエが卒業? この船から降りる?

[Nicolle] まさか! この部屋、見てみろって!こんな、根っこまではやしたヤツが?信じられないって!

[Soyeon] それはそうだけど……。

[Narration] 3人は部屋の中を見渡した。確かに、出て行けといわれても無理とすぐに答えられそうな暮らしぶりがうかがえる。

[Soyeon] でも、卒業したのに、船を降りないでどうするの?

[Nicolle] そ、それは……。

[Nicolle] あ、ほら、カナエなんて、ミキサー回して研究する以外、まともな人生送れるわけないんだからさ。

[Nicolle] あ、確か、ここだって研究施設はあるんだろう?ずっとここでケンキューしてりゃいいじゃん。

[Soyeon] でも、それは、先生達のでしょう?

[Alma] まぁ、では天京院様は、先生になられるのですか?

[Soyeon] どうなんだろう? でも、この学園の先生になるのはすごく難しいって聞いたよ。レイチェル先生が確か、最年少で採用されたって……。

[Alma] まぁ……。フォックス先生のお年は、確か……。

[Rachel] 年の話しちゃ、イヤ!!

[Alma] ……はっ!?

[Soyeon] ど、どしたの?

[Alma] いえ、何か今、悪寒のようなものが……。

[Soyeon] でも、天京院先輩、本当に進路はどうするつもりなんだろう……。

[Alma] まぁ、誰もお聞きになっていないのですか?

[Narration] アルマの問いに、残りの二人は、互いの顔を見合わせてから、首を縦に振る。

[Nicolle] なんていうか……、あたしは、カナエが卒業することすら、思いもつかなかった。

[Soyeon] あたしも……。

[Alma] まぁ……、でも、それも仕方ないことですわね。天京院様、本当に、この学園になじんでいらっしゃいますから。

[Nicolle] 主みたいなもんだろ、あれは。

[Soyeon] でも……、普通は、卒業したら、船は降りるよね……。

[Nicolle] ………………。だ、だからさぁ、それがすんなり想像できないからこういう話になってるんだろ?

[Alma] 杏里様なら、ご存じかしら……。

[Nicolle] わかんないぜ? 杏里も、そういうとこぜんぜん気にしないヤツだしさ。

[Alma] まぁ、いくらなんでも、天京院様のことですよ?どこかでお聞きしているかもしれませんわ。

[Nicolle] ほんとにそう思ってるのか?

[Alma] それは……、まぁ、杏里様のことですし……。

[Nicolle] ほらみろ。

[Soyeon] なんで、天京院先輩に直接聞けないのかな? あたし達……。

[Narration] 目の前の二人のどちらにも特に視線をあわせずに、ソヨンがつぶやく。

[Nicolle] う……。

[Alma] それは……。

[Soyeon] あ、うん、天京院先輩が卒業されるなら、お祝いしなくちゃいけないよね。

[Alma] そ、そうですわね。船を降りられるのでしたら、それこそ、お別れをしなければなりませんし。

[Nicolle] カナエが船を降りる? ははっ、ほんとに想像もつかないね。それよりさ。

[Nicolle] あたしらには、まず、期末考査の方が重要な問題だよな。

[Alma] ……そうですわね、特にニコルは。

[Soyeon] ……うん。がんばらなきゃダメだよ、ニコル。一緒に進級するんだから。

[Nicolle] あーはいはい。やりますってば。

[Nicolle] ……カナエが船を降りる……。

[Nicolle] ……なんかやだな、そんなの……。

[Alma] ニコル? どこかわからないところでも?

[Nicolle] あ? あ、ああ。えっと、全部だな。ちんぷんかんぷん。

[Alma] ニコル!

sapphism_no_gensou/7502.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)