User Tools

Site Tools


sapphism_no_gensou:7457

Place translations on the >s

 新たに広場に現れた人影を見て、クローエがぎょっとした。

「お話し中、悪いんだけどさあ……」

 頭から真っ赤な返り血を浴びた学園長が、自前の長ドスを肩にのせ立っていた。

「なんでも本当のボスは、あんただってなあ、ボニー。キャリコ・ジャックとかいうヤツが、泣きながら口走ってたぜ……」

 ばっと、ボニーはその場から飛びすさり、ブーツの先でサーベルをはねあげた。

 腰だめに長ドスを構えると、けーこ学園長は、嬉々とした笑い声をあげて、相手に突っ込んでいく。

 先ほどの、杏里たちとはまるで比べものにならない血戦。加える一撃一撃に、凄絶なまでの重みがあった。

 かろうじて、けーこの凶刃を受けとめながら、ボニーは叫んだ。

「リードォォ、来いッッ! あたしの船へッ! いや───オレとオマエの、二人の船だ!」

「…………ッ……」

 リードは歯をくいしばり、うつむいたままだ。

「思い出せ! 何のために、オマエは海に出たんだ、リード! 女だからって、力が弱いからって、バカにされるためじゃないはずだ!」

 刃と刃が打ち合わさり、ぎりぎりと互いの力を振りしぼる鍔ぜりあいとなる。

「リードッ! オマエが海に出たのは、毎日かわりばえしない、退屈な人生を送るためじゃないはずだ! 冒険が欲しかったからじゃないのか!」

 苦悩の色を濃くするリードの横に、よろよろとクローエが立ち、静かに告げた。

「誰にも強制されることなんてない……自分自身の心で決めるのよ……」

 やがて、リードはゆっくりと顔をあげた。

「ボクは……そうだ……ボクが欲しかったのは……一生、狭っ苦しい台所に閉じこめられることなんかじゃないんだ!」

 ざっと、リードが振り向いた。

「アイーシャ……ごめん!」

 その顔は、もはやおびえ震える少女のものではなく、悲痛ながらも、強い決心に満ちていた。

「えっ……あっ、リード!」

 アイーシャの手からピストルを奪い取ると、少女はボニーの元へと駆け寄った。

「ボニー! あなたの背中は、ボクが預かる!」

 リードの手の中で、けーこの眉間めがけ、ピストルが構えられた。

「ふっ……」

 それでも、ぐっと足を踏み出したけーこの長ドスが、ボニーの一閃でなぎ払われた。

 キンッ!

 ドスの刃が折れ、のほほんと観戦していた杏里の目前にさくっと落ちる。

「わっ」

 そこへ、遅ればせながら捕獲ネットを構えた増援のPSが駆けつけてきた。

「こっちだよ!」

 リードは、ボニーの手をとって、駆けだした。

 学園長の叱咤が飛び、PSが二人に追いすがる。

 しかし二人は、息のあった見事なタッグで追跡をかわし、ボニーが殴り、リードが足をひっかけ、海の見えるデッキまでたどり着いた。

 PSが取り囲むなか、息を切らせてアイーシャたちが追いついた。

 水平線はうっすらと明るくなり、朝を迎えようとしている。

「リードッ!」

 胸の裂けるようなアイーシャの叫びに、リードがゆっくりと振り向いた。

 強い海風に、アイーシャが何度も梳きけずって整えたリードの長い髪が、大きくひるがえる。

「ごめん……アイーシャ、本当にありがとう。でも……」

 リードは、ボニーに背をあずけるようにして、その腕をしっかりと握った。ボニーが、にやりと微笑む。

「ボクはもう、海賊なんだ。アイーシャ」

「リード…………」

 少女の黄金の髪と、ボニーの黒い髪がまじりあい、旗となってたなびいた。

「アンシャーリーも、ありがとう」

「バイバイ、リード。元気を大切にね?」

 二人はさっとデッキの柵に飛び乗った。

 取り巻いていたPSが、走り寄る。

「久々にいい喧嘩だった。またやろうぜ」

 ボニーは、けーこに向かってウインクする。

 そして、次の瞬間、二人しっかりと抱き合いながら、遙か下方の大海原に向かって飛び降りていた。

 海面に水柱があがるのと、日の出の光が差すのは同時だった。

 そこに映り込んでいた海賊船たちは、次々と薄れ、消えていく。

「あれ! 見てよ!」

 杏里が、最後に消えようとしていた影を指さす。

 それは、ポーラースター自身の舟影と重なるように映る、あの杏里の語った三本マストのフリゲート艦だった。

 その舷側には見慣れたつづりの文字が、粛然と並んでいた。

     POLAR STAR

「初代……ポーラー……スター……号……」

 自分の肩を押さえながら、クローエは目に涙すら浮かべてつぶやいた。

 悠然と、鯨が泳ぎ去るように、巨大な舟影は海の底へと、静かに消えていった。

sapphism_no_gensou/7457.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)