User Tools

Site Tools


sapphism_no_gensou:7252

Place translations on the >s

[Anri] 最近、アンの様子がおかしい?

[Narration] ある日の昼下がり。いつもの通り、杏里が気の向くままにお茶の時間を楽しんでいる時に、その話題はふとしたはずみで転がり出た。

[Anri] おかしいってどういうふうに?

[Alma] 妙にそわそわしていることが多いんです。

[Aisha] それに、時々、ぼーっとしていたかと思うと、急に笑い出したり。

[Nicolle] それって、おかしいことなのか?

[Chloe] 落ち着きのなさと多幸感。いつものアンシャーリー・バンクロフトではなくて?

[Alma] あ、そう言われれば……。

[Aisha] あの、でも、ちょっと違うんです。

[Narration] アイーシャは、少しの間、いつものアンと、自分が気づいた最近のアンの変化の様子を頭の中で重ね合わせて違いを探す。

[Aisha] その、確かに、そわそわしていることも、不意に笑ったりすることも、彼女にはめずらしいことじゃないんだけど……。

[Nicolle] なるほど、読めた!

[Nicolle] 新作ができたんだな。さっそくお裾分けしてもらわないと!

[Alma] まぁ! ダメですよ、ニコルさん!

[Nicolle] お? ヘレナがいないと思ったら、アルマからツッコミが!?

[Alma] お薬は用法を守って正しく使用しないと、保険を水増し請求されてしまうとお父様が……。

[Nicolle] はいはい。だいたい、あたしはクスリはそんなに好きじゃないんだ。

[Alma] まぁ、では、どなたの具合が悪いのですか? お見舞いに行かなくては……。

[Nicolle] ちがうって。クスリがほしいのは、あたしのフトコロ具合が微妙に寂しいからで……。

[Nicolle] できれば、そんなにキツくないやつがいいなぁ。こないだのは、ちょっとマニアックすぎて、在庫をかかえちまったっけ。

[Nicolle] やっぱ、空が飛べるってのと、鳥になれるってのの間には、そこそこ深い川があるっつーことだね。

[Nicolle] て……。

[Narration] ひとしきり、自分のアルバイトの現状報告をすませてしまってから、ニコルは自分に集中している視線に気づく。

[Narration] 好奇心がひとつ、無関心がひとつ、わかってないのがひとつ、少しおびえているのがひとつ、若干の憐憫がひとつ。

[Nicolle] え、えーと、つまり、アンの様子がおかしいって? そわそわしたり、ニヤニヤしたり。で、それがいつもとどうちがうんだーいって話で、それで?

[Chloe] たいがいにしておくことね。

[Narration] 冷ややかなクローエの言葉が、ニコルにあびせられる。

[Chloe] もしこの次、図書室で騒ぐ輩がいたら、そいつと一緒に、あなたの頭上にも、神の怒りが降り注ぐわよ?

[Anri] わーお、ニコルもついに、クローエの足にメロメロの会に仲間入りだね!

[Nicolle] 全然うれしくないね……。

[Chloe] それで? あのアンシャーリー・バンクロフトがいったい何を企んでいるんですって?

[Nicolle] ……おいおい、それはちょっとうがちすぎじゃないか?

[Nicolle] 今はただ、様子がおかしいって話をしてるだけで……。しかもそれすらも、普段とどう違うのか、目撃者の証言をもとに議論を重ねているところだろ。

[Chloe] だったら、あの人は普段から、何かを企んでいるってことよ。

[Chloe] このポーラースターの静寂を乱す、恐るべき陰謀をね。

[Nicolle] なんじゃそりゃ。被害者意識強すぎだぜ、クローエ。

[Chloe] 被害者なのよ、わたしは。いったい何度、図書室であの奇声を聞かされたことか。

[Nicolle] そのたびに、蹴り倒しているじゃないか。

[Chloe] 神の鉄槌ね。

[Anri] まぁまぁ、クローエ。

[Chloe] 杏里!

[Narration] 爪さえ噛んで、アンシャーリーの存在におぞましさを覚えていたクローエは、声をかけてきた杏里にきっと視線を向ける。

[Chloe] なんとかしなさい。

[Anri] え? なんとかって?

[Chloe] あの子が何を考えてるか知らないけど、もし、それがこの船の静寂を破るものであるなら……。

[Narration] たん、とクローエの拳がテーブルを叩く。

[Chloe] あなたが、なんとしても阻止するのよ。

[Anri] ええ!? ボクが!?

[Chloe] あなた以外の誰が、あの子を止められるっていうの?

[Nicolle] 杏里が一緒で騒ぎが大きくなる可能性もあるぜ。しかも、けっこういいオッズで。……おっと。

[Narration] クローエににらまれて、ニコルは慌てて口をふさぐ。

[Anri] ま、まぁ、様子がおかしいっていうなら、ボクも気になるけど……。

[Chloe] 絶対に、大騒ぎにはしないこと、いいわね? このことがはっきりするまで……。

[Chloe] 二度と、わたしには近寄らないでちょうだい。

[Anri] えええっ!?

[Anri] そんな!今晩の図書室でのDVD上映会の約束は!?

[Chloe] 無期限延期。

[Anri] あんまりだ! 殺生な!

[Chloe] 問答無用!

[Narration] テーブルを手で叩きつけて立ち上がり、クローエはその場をカフェテリアから去っていく。

[Nicolle] うわぉ、どうしたんだろう、クローエのやつ。

[Alma] クローエ様、この間も、図書室で、アンシャーリーさんと一戦、交えておいででした。

[Aisha] 結果的にKOするまで、図書室中に、誰も近づけないような奇声が響き渡っていたそうで……。

[Nicolle] なるほど、これは責任重大だな、杏里。きっと白黒ハッキリするまで、クローエの機嫌は直りそうにないぜ。

[Anri] そんなぁ〜。

[Anri] ……まぁ、アンのことも確かに気になるしね。アルマとアイーシャが、ふだんと違うと思うなら、きっと、なにかあったんだろうし。

[Anri] うん、アンに会ってみよう。……ところで、アンがどこにいるか、誰か知らない?

[Narration] 杏里が見渡すと、ニコル、アルマ、アイーシャの3人がきれいにそろって、首を横に振る。

[Anri] あ、やっぱり……。

[Narration] そんな会話を、仲間達とかわして戻った自分の部屋で、杏里は、その会話の中心だったアンシャーリーの名前を目にすることなる。

[Narration] 自分の部屋の机の上に置かれた一通の封書。

[Narration] その差出人の位置に、流暢な字体で、彼女の名前は綴られていた。

[Narration] 杏里は特にためらわずに、その封を切り、中の手紙を手の中で開いた。

[Anne Shirley] 「ハロー、杏里。風薫る五月、あなたはいかがお過ごしですか?」

[Anne Shirley] 「といっても、私の故郷のコロンビアでは、5月なんて、風薫るもなにもありません」

[Anne Shirley] 「赤道がすっごい近いくせに、標高は平均1000メートルぶっちぎりなので、実はけっこう寒かったりするのです」

[Anri] いや、その前に、今は五月じゃないし……。

[Anne Shirley] 「そんな野暮なツッコミはさておき、アンシャーリーからのとっておきのお知らせです」

[Anne Shirley] 「いよいよ、あたしの秘密の畑にも、収穫の季節が近づいて参りました」

[Anne Shirley] 「今年は作柄もよく、実はすくすくと育ち、いよいよ後は、取り入れだけとなりました」

[Anne Shirley] 「親愛なる杏里。ぜひ、今年最初の味をあなたに味わってほしいのです。そのために、今日はこの手紙をしたためました」

[Anne Shirley] 「今度の日曜日、ぜひ、あたしの小さな農園までおこしくださいませ。素敵な贈り物を用意してお待ちしております」

[Anne Shirley] 「あなたのアンシャーリーより」

[Anne Shirley] 「追伸」

[Anne Shirley] 「たまには一人で来いよ、コラ」

[Narration] 目を通し終えた手紙を、そのまましばらく、杏里はまじまじと見つめていた。

[Anri] えーと……。

[Anri] この手紙、どうしたの?

[Eliza] 先ほど、アンシャーリー様が直接、お持ちになりました。

[Narration] 部屋には、杏里より先に、掃除のために訪れていたメイドのイライザがいた。

[Anri] アンが? 直接?

[Eliza] ええ、私は、部屋のお掃除をしていたんですが……。

[Eliza] 入るなり、まっすぐにキッチンへと向かい、杏里様とっておきのチーズタルトをむさぼり食べた後……。

[Anri] なんだって!?

[Narration] イライザの説明に、杏里はキッチンへと走り、冷蔵庫の扉を開け放ち、そして中をのぞき込んで崩れ落ちる。

[Anri] あああ……、みんなで食べようと思っていたのに……。

[Eliza] アンシャーリー様はそのまま、バスルームに駆け込み、20分ほど、出てきませんでした。杏里様、そのタルト、いつのものですか?

[Anri] あれ? もう4日たってるかな?

[Eliza] ……お手洗いをすまされた後、アンシャーリー様は杏里様のベッドの上でひとしきり、回り受け身の練習をされた後、机の上にこの手紙を……

[Anri] 置いて出ていった、と……。

[Eliza] いいえ、散らかっていた机の上に、巧妙に隠そうとしていたようです。

[Anri] あれ? ボクが戻ってきた時には、この手紙は机の上に出ていたよ?

[Eliza] 勝手ながら、机の上を整理させていただいた時に、発見いたしましたので、私が上に置いたのです。

[Anri] ああ、そうなんだ。さすがはイライザだ。

[Eliza] アンシャーリー様にもお声をかけたのですが、気づいてもらえなかったようで……。

[Anri] うーん、彼女、どこか変わった様子はなかったかな?

[Eliza] ……はぁ、いつも通りともうしますか……。

[Anri] いつも通り、変わっていた?

[Eliza] ……はぁ。

[Anri] えーと、それはそうなんだけど、どこかいつもとちがうところと言うか……。

[Eliza] そうですね……。少し、足取りが軽かったようにも思えます。あれは……。

[Eliza] そうですね、新しい作品ができた時……、できそうな時のアンシャーリー様のようでした。

[Anri] 新しい作品……、キミもか、イライザ。

[Eliza] あら、ささやかなアルバイトがばれてしまったようですわね。

[Anri] やれやれ、どうやらボクは、アンシャーリーから素敵な招待を受け取ってしまったよ。

[Anri] きっと、素晴らしいティータイムになるんだろうな!

sapphism_no_gensou/7252.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)