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sapphism_no_gensou:7203

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[Nicolle] それで杏里は、その日はすごすごと自分の部屋に帰りましたとさ。それが、夕べの顛末ってことだけど。

[Helena] まぁ……、そんなことが……。それにしてもすごいわね、まるで見てきたようじゃない。

[Nicolle] そりゃあ……。

[Helena] 杏里とバルトレッティさんしかいなかったんでしょう?

[Nicolle] だから、そのニキに聞いてきたのさ。当の本人だぜ、見てきたようにも語れるさ。

[Helena] バルトレッティさんから……!

[Nicolle] びっくりしたぜ、朝方、あたしにとっちゃ寝る前だけどさ、置いてきたコロを引き取りに行ったんだ、ニキの部屋まで。

[Nicolle] そうしたら、部屋の真ん中で、ソファーのシーツをグショグショにしながら、ニキが泣いているんだもの。

[Nicolle] 何事かと思ったね。

[Nicolle] それで、泣いているニキをなだめながら、なんとか事情を聞き出したというわけ。

[Helena] 泣いているバルトレッティさんから事情を聞き出すのもすごいと思うけど……。

[Narration] ヘレナは、自分の抱いているイメージでニキ・バルトレッティのことを思い返す。

[Narration] 少なくとも、ニコルと同じケースでここまで事情を聞き出せる自信はない。

[Nicolle] ま、コツみたいなもんがあってって、それは別の話として。

[Nicolle] ま、ニキもたいしたことをやったもんさ。あの杏里を自分で部屋から追い出したんだからね。

[Nicolle] 毎度毎度、押し込まれてはなすすべもなく部屋にあげたあげく、いいように食われちまう誰かさんに教えてあげたいよ。

[Helena] ちょ、ちょっとニコル! それいったい誰のことを言ってるの!? 失礼な!

[Nicolle] 誰とは言わないさ、本人には心当たりがあるだろうけどさ。

[Helena] わ、私は、杏里にはちゃんと毅然とした態度で……!

[Nicolle] だから、誰がヘレナのことだって言ったんだよ。ここまでくると、からかいがいもないな、かえって。

[Helena] ………………。

[Nicolle] そんな目で見るない。あたしは何にも悪くないぞ。

[Helena] そ、それで……。

[Helena] もう一方の杏里はどうしたのかしら?今日はまだ、見てないんだけど……。

[Nicolle] みたいだね、ここにもいない。いい話を聞いたもんだから、いっちょ杏里の顔でも拝んでやろうと思ってきたのに。

[Nicolle] ヘレナのところに泣きついてくると思ったんだけどなぁ。

[Helena] な、なんで私のとこなのよ!

[Nicolle] わかんない? あいつ、せっかくのニキとの夜なのに、追い出された上、閉め出されたんだぜ。そりゃもう、行き場のない劣情をためこんでいるにちがいない。

[Nicolle] そんな杏里の向かう先は? たわわに実った果実をぶらさげたヘレナ・ブルリューカさんロシア生まれのとこしかないじゃないか。

[Helena] その発想がわかりません! 第一、もし、杏里が昨夜、ニキさんの部屋にいられなかったとして、今日、この授業をサボっていい理由にはならないわ!

[Helena] まったく、どこにいるのか知らないけど、きつく言ってあげなくては!

[Anri] ヘレナ〜〜〜〜!!

[Narration] 決意とともにヘレナが拳を握り固めたところで、この大教室に入ってきた杏里がまっしぐらにがぶり寄る。

[Helena] きゃああっ!! あ、杏里!?

[Anri] ヘレナ! ボクはもう、どうしたらいいんだ!

[Helena] あ、杏里!? や、やめなさい!

[Anri] 何が悪かったと言うんだろう、ボクはニキを傷つけてしまった! あのガラス細工のような脆くはかなく繊細な魂を!

[Helena] だ、だめよ! こ、こんなところで! な、何を考えているの!?

[Anri] ああ、どうしたらこの罪を償えるというのだろう!? そして、今、このボクの心の渇きは、どうして癒せばいいのだろう!

[Nicolle] なんか、疑問を差し挟む間もないほど、実行しているヤツがいるぞ。

[Helena] ああっ!? だ、だめよ! やめ、やめなさい、杏里!

[Anri] ああっ、ヘレナ、ヘレナ! ボクを慰めておくれよ!

[Nicolle] ……ばからし。おーい、ヘレナ、あたし、もう行くから、あとはしっかりやんな?

[Helena] そ、そんなニコル! 待って、この人を……。

[Nicolle] どーにもならないって。じゃね。

[Anri] ああっ! ヘレナっ! ヘレナぁ!!

[Helena] 杏里、だめよ、やめてぇ〜〜〜〜!!

[Chloe] なるほどね……。

[Soyeon] それはもう、まるで蜘蛛の巣にがんじがらめにされた蝶のように、ヘレナ先輩は杏里さんに押し倒され、そのままなすがままに……。

[Chloe] ヘレナのことはこの際、どうでもいいわよ。

[Soyeon] そうですか?うらやましいなぁ、ヘレナさん……。

[Chloe] そう思う神経、少し疑うわ……。

[Narration] 杏里とニキの一件は、例によって、またたく間に杏里の友人達のあいだに広まっていった。

[Chloe] そして、杏里のこともどうでもいいわ。ヘレナと遊んでいるんだって、わたしに声が聞こえてこないなら、問題はないし。

[Soyeon] ……そうでしょうか?

[Chloe] それで……。

[Narration] 図書室のカウンターの中、いつもの指定席で、クローエは読みかけの本を広げていたところだった。

[Narration] 立ち寄った、ソヨンと、こうして、カウンター越しに会話をしている。

[Narration] そのクローエがついと視線をあげ、図書室の入り口へと向けた。

[Chloe] あの子はいったい、なにをしているの?

[Narration] そこには。

[Niki] ………………。

[Narration] 入り口の柱に隠れるように、ニキがはりついていた。

[Narration] 特に何を訴えているようにも見えないが、視線だけは、クローエとソヨンの二人に向けている。

[Soyeon] はぁ、あたしについてきたんですけど……。

[Chloe] そうみたいね。ちょっと邪魔だけど、静かにしているからいいわ。

[Narration] 実際に、ニキのいるのは、図書室に出入りする人間が必ず通る場所だった。

[Narration] 誰かが、図書室の中に入ってくるたび……。

[Narration] また、図書室から出ていくたびに、びくっと体を震わせて驚くニキが、わたわたと柱にひっこんだり、扉の陰に隠れたりしている。

[Soyeon] なんでも、杏里さんとのケンカにも関係しているそうで……。

[Chloe] 杏里とのケンカは、あの子が杏里を部屋から追い出したんでしょう? その、本人が部屋を出てうろついているのはどういうことかしら。

[Soyeon] それなんですけど、何でも、今、ニキは作曲をしているそうなんです。

[Chloe] 作曲?

[Soyeon] ええ。

[Chloe] じゃあ、部屋で楽器でもひいていればいいじゃない。なんでまた、こんなところに?

[Chloe] それともまさか、ここでいきなり、トランペットでも吹き出そうというんじゃないでしょうね?

[Soyeon] ク、クローエ先輩、怖いです、お顔が!

[Chloe] 想像のおぞましさが、出てしまったのよ。

[Soyeon] そ、そのですね……?

[Narration] ちらちらと、もしかして頭蓋骨陥没の危機にさらされているかもしれない友人の方を見やりつつ、ソヨンはテコンドーの先輩に聞いた話を伝える。

[Soyeon] ニキは、作曲のモチーフに、いろんな人を見ているんです。

[Chloe] モチーフ? 題材にしているってこと?

[Soyeon] ええ。ニキが知ってる人をテーマに、曲を作っているって。

[Soyeon] それで、今日はあたしのあとを、ああやってずっとついてきていて……。

[Narration] ソヨンはちらっとニキの方を見る。

[Niki] ……!

[Narration] ニキは慌てて、柱の陰に姿を隠す。

[Chloe] なに、あれ……。もしかして、隠れて見ているつもりなの?

[Soyeon] そうみたいなんです。

[Soyeon] でも、楽しみですよね……。

[Narration] 必死になってこちらをうかがっているニキを見て、ソヨンは優しく笑う。

[Soyeon] 友達が、あたし達をモチーフに曲を作ってくれるなんて。

[Chloe] あたし……達?

[Soyeon] ええ、ちょっと話してくれたんです。みんなを、音にしたいって。

[Soyeon] みんなが奏でる音を、楽譜に描きたいって……。

[Chloe] ………………。

[Soyeon] クローエ先輩?

[Chloe] ずっと前にあの子が……。

[Narration] ニキを一瞥した後、クローエは受付カウンターの下で開いたままの本に視線を戻して言う。

[Chloe] 杏里とケンカして、ヒステリーを起こして、一晩中、ピアノをかき鳴らしていた時は、それはもう、ひどいものだったわ。

[Soyeon] あ、で、でも……、今のニキは……。

[Chloe] わたし、雑音と騒音は大嫌いだけど、音楽は好きだわ。そうね、興味があるわ、あの子がどんな曲を作るのか……。

[Narration] クローエの言葉を聞いて、ソヨンは顔中に笑みを浮かべる。

[Soyeon] そうですよね!

[Chloe] ところで……。

[Chloe] あの子に追い出された杏里は、どこで何をしているわけ?

[Soyeon] さ、さぁ……。ま、まだヘレナ先輩のところにいるんでしょうか?

[Chloe] まぁ、どうでもいいわ。静かにしていてくれるなら。

sapphism_no_gensou/7203.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)