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sapphism_no_gensou:7154

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[Narration] もうすぐ終わってしまいそうな夕暮れの陽射しを投げかけている大廊下を、ニコルは歩いていく。

[Narration] そのすぐ横にはコローネが、いつもよりもまっすぐに首をあげ、まるで誇らしげに、ついて歩く。

[Narration] 時折、すれちがう学生が、何事かと振り返るが、ニコルには気にしたふうはなかった。

[Narration] それよりもいっそ、誇らしげに背中から投げかけられる視線を受けて、歩いていく。

[Narration] つま先には8センチのヒール。足取りに危うさは微塵もない。今のニコルなら、全力疾走だって可能かと思わせるほど。

[Narration] 少し足りない胸も、細いだけの腰も、これまた物足りない腰回りも、今は、自慢のドレスで覆っている。

[Narration] 耳に、胸元に、首回りに、手袋をつけた指先に、自分自身で光らせていると信じて、ジュエルをまとう。

[Narration] 知った顔にも会う。明日、クラスでなんと言われるかなんて、今は少しも気にかからない。

[Narration] 目指す相手はただ一人。どこにいるかはわからないけど……。

[Nicolle] でも、会えるだろ。

[Narration] 不思議と自信がある。あいつは、あたしのこういう姿を絶対に見逃さない。

[Narration] こんなあたしを放っておくはずがない。

[Narration] そう信じていたからこそ、なんの約束もしないでいたのに、この広い船内で偶然にも、見つけることができた。

[Anri] ……!

[Narration] 見つかった。でも、声はかけない。

[Narration] そのそばまで、まっすぐに歩いていく。

[Narration] そして、言ってやるんだ。

[Narration] 目を丸くして、近づいてくるあたしを見つめているあいつに。

[Nicolle] どうだい?

[Narration] 声があかるく弾んでしまったのはご愛想。

[Anri] ワーォ!

[Narration] 胸を張るニコルの目の前で、杏里の笑顔がはじける。

[Narration] それは、屈託のない、満面の笑顔。目の前にいるニコルを見つめ、感情をあらわしている、笑顔。

[Narration] 笑ってくれている、顔。

[Nicolle] へへ……。

[Narration] ゆるみそうになる頬と涙腺を必死になっておさえつける。ここで先に飛びついたら、負けだ。ここまでやったんだ、簡単に折れるな、とニコルは心の中で自分を叱咤する。

[Nicolle] (すぐに、結果は出るんだから……)

[Narration] こらえるニコルの目の前で、杏里は両手を広げて、ドレスアップしたニコルを迎え入れた。

[Anri] 素晴らしいよ、ニコル! とてつもなく、今日のキミはチャーミングだ!

[Narration] もう一声だよ、杏里。その手を握られながら、ニコルは続く言葉を請い願った。

[Anri] ううん、なんてきれいなんだ、キミは! ああ、ボクの目はなんて節穴なんだ! キミがここまでしてくれないと、キミの美しさに気づけない!

[Anri] マイプリンセス、どうぞ、今宵の従僕めに、エスコート先を教えていただけますか?

[Anri] ああ、ニコル……?

[Narration] その前でひざまづき、手を取って、杏里はニコルを見上げる。

[Anri] ボクはキミに謝らなくてはならないよ。

[Nicolle] ……!

[Anri] 昨日、ボクはキミをとても傷つけてしまったようだ。もう、今日は朝から、いろんな人にそれを責められる。そのたびに、ボクはキミへの罪の深さを自覚する。

[Nicolle] その前置きはいらない。

[Anri] そうかい? 

[Narration] 本当に、なんの迷いもなく笑う杏里の顔を見て、ニコルの心の中に固まっていたものがとけていく。

[Nicolle] (なぁ、杏里)

[Narration] あたしは確かに、ふだんはチビであまり見てくれのよくないガキで。

[Narration] でも、それをそんなに隠したりはしないで、むしろ堂々と? いや、他人の視線なんか無視して平気でいられるさ。

[Narration] でも、その気になれば、こんな風にもなれるんだ。今、あんたが絶賛した……美少女にだって。

[Narration] お願いだよ、杏里。今、あたしだけを見てるように、ふだんのあたしもちゃんと見ていて。

[Narration] あんたが望んで、あたしが望むなら、すぐにだって、変身してやるからさ。

[Anri] ボクは、ふだんのニコルが好きだよ。かまわずに堂々と、まるで野ネズミのような俊敏さとかわいらしさがとても魅力的だ!

[Nicolle] (……ほめてるのか、それ)

[Anri] うん、大好きだ! だからこそ、今のキミの美しさに、ボクはこんなにも心を奪われるんだ! 大好きな女の子がきれいですてきで美しくなる!

[Anri] 恋人として、これほどうれしいことはないもの!

[Nicolle] (そうだろう!?)

[Nicolle] あ……。

[Narration] 心の中の快哉が、押さえつけていた感情を、少しだけ解き放つ。あわてて、鼻をすすり、目をこすってなんとかごまかす。

[Nicolle] (へへ、今日のところは、これで勘弁して やるよ、杏里……)

[Narration] ニコルは心の中だけは不敵なイメージのままで、杏里を見つめて笑う。

[Narration] その微笑ましい表情が、杏里の続く言葉で、ひたと固まる。

[Anri] それにしても、今日のキミは今まででいちばん、素敵だよ! いつまでも、閉じこめておきたくなるくらい。ああ、もしキミがシンデレラでないのなら……。

[Anri] 明日もあさってもぜひ、そのままの姿でいておくれ!

[Narration] おいおい、あんまり無茶言うなよ。

[Narration] 第一。

[Narration] 魔法のタネのバスキューブは、もう2ダースも残っていないんだから。

sapphism_no_gensou/7154.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)