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sapphism_no_gensou:7102

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[Chloe] つまり……。

[Narration] 10分ほどのイライザの「いつまでもいっしょ」プレイ講座を聞いた後、クローエはわずかに眉根を寄せたまま、まとめを切り出した。

[Chloe] パスワードを入力して、本人認証をとれないと、いくらゲームをプレイしても、親密度はあがらない、と。そういうこと?

[Eliza] はい。登録されたユーザー以外でのプレイでは、ペットへの単語と、リアクションパターンの入力しか行えません。

[Chloe] 親密度は、放置しておくと下がっていくだけ。親密度が下がると……。

[Eliza] はい。旅立ってしまう確率が上がります。

[Chloe] なんてことよ。パスワードはわからないの?

[Eliza] 以前、一度だけ、ヘレナ様がうっかり漏らしてしまったのをうかがったことがありますが。

[Chloe] 教えて。この際、メイドのつとめとか、そういうのは無しにして。

[Eliza] わかりました。4桁の数字です。お誕生日ですね。……杏里様の。

[Chloe] なにか腹立たしいわね、そのストレートさは。

[Narration] そう言いながら、クローエはポケットエアポートの少ないボタンから該当する数字の羅列を入力する。

[Chloe] ……ちがうみたいよ?

[Eliza] あ、やっぱり。

[Narration] イライザの反応を聞いて、クローエは厳しい視線を彼女に向ける。その視線をさりげなく受け流して、イライザは答えた。

[Eliza] 以前、ヘレナ様が同じようにこのゲームを落とされた時、杏里様に拾われたんです。

[Eliza] 杏里様はあっさりパスワードを見つけてしまって……。

[Chloe] おそらく、論理的な課程をたどった思考の末ではないわね。それ、カンよ、きっと。

[Eliza] ええ、まぁ、それで、ヘレナ様のそれまでの努力が、それは無惨な姿に変わり果ててしまったそうで……。

[Chloe] ……世の中、無駄なことをしたい人が多いのね。

[Eliza] おそらく、それ以降、パスワードを変えたものと思われます。

[Chloe] どうすればいいのよ……、まったく……。

[Eliza] 少々、お待ちください。今、天京院様に聞いてみます。なにか、よい方法がおありかもしれませんし。

[Chloe] そうね、蛇の道は蛇と言うわ。

[Eliza] 失礼します。

[Narration] そう言って、イライザは職員用の携帯電話を取り出し、ルームナンバーをコールする。

[Eliza] あ、天京院様ですか?お休みのところ、申し訳ありません……。

[Narration] 携帯に向かって話すイライザから、手元のポケットエアポートに、クローエは視線を戻す。

[Narration] 液晶画面の中に、『あんり』と名付けられたデジタルペットがどこかものほしげに、パスワードを求めている。

[Narration] その愛想のいい甘えぶりが、どこか、同じ名前をした人間を思い出させて、胸がざわめく。

[Narration] 詳しい扱い方は今日初めて知ったものの、このペットの姿は何度か見た。妙に恥ずかしがったヘレナに見せてもらったりもした。

[Narration] その時は、鼻で笑ったような気もするが、今、こうして、真っ向からその顔を自分に向けられると……。

[Chloe] わからない趣味じゃないけど……。あなたの待ち望むご主人様がヘレナだというのがどうにも、ね……。

[Eliza] あの、クローエ様?

[Chloe] ああ、なんとかなりそう?

[Eliza] どうやら、そのゲームのプロテクトの改造を、天京院様がされたそうです。

[Chloe] はぁ。

[Eliza] ちょっと電話では詳しく聞けなかったので、今からちょっと、天京院様のところまでお邪魔して、プロテクトの解き方をお聞きしてきますね。

[Chloe] ああ、そう。そうね、よろしく。

[Eliza] クローエ様、お暇でしたら、ペットのお相手をしてはいかがですか?

[Chloe] ……そうね、気が向いたら。

[Eliza] では、失礼します。

[Narration] イライザが一礼してカフェテリアから立ち去る。その姿が船内の方へと見えなくなってから、クローエはできる限りゆっくりとした動きで、先ほど教わった通りにゲームを起動した。

[Anri (hiragana)] ふぁああああ……。

[Narration] 徐々に浮かび上がってくる液晶画面の中で、『あんり』があくびをしてから、目をしばたかせて、こちらを見る。

[Narration] その仕草に一瞬、息をのむ。

[Anri (hiragana)] だぁれ?

[Chloe] クローエよ。

[Narration] 声に出す必要はないとわかっていても、つい、出てしまう。なんなんだろう、このゲームは。妙にいらつく。

[Anri (hiragana)] くろーえ!

 あんり、

くろーえ

をしってるにゃあ!

[Narration] 頭の悪そうな語尾にめまいを覚える。なんだろう、この、腕を引っ張られて、見知らぬ路地に連れ込まれていくような感覚は。

[Anri (hiragana)] ……

くろーえ

、こんにちわ!

[Chloe] ………………。

[Anri (hiragana)] ……

くろーえ

、こんにちわしてくれにゃいの?

[Chloe] ………………。

[Anri (hiragana)] あんりがうるさくて、

くろーえ

フキゲンにゃあ?

[Chloe] ……誰よ、こんなこと言ったのは……。

[Anri (hiragana)] ……あんり、

くろーえ

にこんにちわしてほしいにゃあ?

[Chloe] ……こんにちわ。

[Anri (hiragana)] こんにちわにゃあ!

[Narration] 満面の笑みが画面に広がる。めまいどころか、頭痛までしてきた。

[Anri (hiragana)] ねぇ、

くろーえ

、シツモンしていい?

[Chloe] ……好きになさい。

[Anri (hiragana)] きょうは、へれにゃはどこにいったの?

[Chloe] ……!

[Anri (hiragana)] あんり、きょうはへれにゃにあってないにゃあ。

[Chloe] ……ヘレナは今、出かけてるのよ。

[Anri (hiragana)] オデカケ? へれにゃ、オデカケしてるの?

[Chloe] そうよ。おとなしく、待ってなさい。すぐに帰ってくるから。

[Anri (hiragana)] へれにゃ、あんりをオデカケしてくれにゃかった?

[Anri (hiragana)] へれにゃ、オデカケはあんりといっしょにゃのに?

[Chloe] 知ったことじゃないわよ……。

[Narration] なぜか、ゲーム機を持った手が震える。

[Chloe] もう一度言うわよ。いいからおとなしく待ってなさい。

[Anri (hiragana)] オトナシクしてにゃいと、ケルの?

[Chloe] ……!

[Anri (hiragana)] にゃあ! ごめんなさい、けらないで!

[Eliza] どうしたんですか? クローエ様。

[Narration] 思わず、ぐっとゲーム機を握りしめた時、戻ってきたイライザが声をかけた。

[Chloe] ……なんでもないわ。

[Chloe] それで? そっちはどうだったの?

[Eliza] それが……。

sapphism_no_gensou/7102.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)