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sapphism_no_gensou:7019

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[Narration] 慌ただしい様子で天京院が自室に戻ってきた。

[Tenkyouin] そういえばヤーンに餌をやるのを忘れていたぞ。

[Tenkyouin] えい、この忙しい時に!

[Tenkyouin] 動物も子供も面倒でかなわない。

[Narration] 扉からヤーンが顔を出す。期待に満ちた青い瞳が天京院を見上げている。

[Tenkyouin] ああ了解了解。いますぐに…………ん?

[Tenkyouin] 扉の鍵が……侵入者……か?

[Tenkyouin] ……いや、そういえば杏里に合鍵を渡しておいたな……

[Narration] 一瞬、身をこわばらせた天京院が部屋に入ると、果たしてそこには杏里の姿があった。

[Narration] 昨晩もそう過ごしたようにソファの中で膝を寄せて独り寝している。

[Tenkyouin] わかったよ。爪を立てるな。

[Narration] キャットフードを用意しながら天京院はちらりと杏里の様子をうかがった。

[Narration] 自分の帰りを待ちほうけているうちに寝入ってしまったのだろう。ひどく寂しそうな寝顔だった。

[Narration] 餌をやりおえ、天京院は雑然とした机の上に在るものに気づいた。

[Narration] かなえと杏里の、お揃いのコーヒーカップだった。

[Narration] どうやら珈琲を独力で入れようとしていたらしい。豆や水がこぼれていたりと苦闘の跡がうかがえる。

[Narration] 二つのカップのなかには冷め切ったコーヒーが揺れていた。

[Tenkyouin] …………ほう。

[Narration] 天京院は目をしばたたかせながらおそるおそるカップに口をつけた。

[Narration] 全身に震えが走り、鳥肌に包まれて天京院は硬直した。

[Tenkyouin] う……うげぇ……まずっ……なんだこりゃ……

[Tenkyouin] この味覚を破壊する強烈なえぐみ……溶け残るほど砂糖がザラザラと……だいたい豆が直接入ってるし……

[Tenkyouin] うげ……まず……まずぅぅッ……こいつ、あたしを殺す気か……!?

[Tenkyouin] うげッ……まずッ……まっずぅ……

[Narration] 間もなく天京院は部屋を立ち、再び電算室へと出向いていった。

[Narration] 眠る杏里はタオルがかけられ、その脇には、寄り添うようにヤーンが丸くなっている。

[Narration] 机の上に戻された天京院のカップはいつのまにか飲みほされ空になっていた。

sapphism_no_gensou/7019.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)