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sapphism_no_gensou:7005

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[Helena] ほんとにもう、困ったものね……

[Helena] そうとうな重症だわ、杏里ときたら。

[Eliza] そうですね。みなさんのご尽力の甲斐なく……

[Chloe] イライザ、あなた……

[Chloe] どうせこういう展開になるって、解っていたのでしょう。

[Chloe] ちがう?しまいには、あたしたち“杏里のおふる”にお鉢がまわるだろうって。

[Narration] イライザは瞼を伏せ、肩をすくめた。

[Eliza] 私は、一日もはやく杏里様が記憶を回復されるよう、全力で皆様方をお手伝いするだけですわ?

[Chloe] ……口ではそう言いながら、自分はなにか別の方法を考えているのでしょう。言いなさいよ。

[Helena] やめなさい。ケンカは。

[Helena] でも……はぁ……

[Helena] こんな時こそ、お力を借りたい天京院さんは、天の岩戸にこもったまま出てきてくださらないし。

[Helena] どうしたらいいのかしら。

[Eliza] ……天京院様のことは、杏里様もきちんと覚えていらっしゃいますから、力を貸す理由もありません。

[Helena] そうだけど……。杏里の性格があんなに変わってしまっているのだし、他人事ではないでしょう。

[Chloe] 皮肉なものね。

[Chloe] 覚えていられたことのほうが、逆に怒りを呼んでしまっているのだから。

[Chloe] もしかして……このまま放っておくほうが、学園の静寂には貢献するのでは……

[Helena] とんでもない!本気で言っているの、クローエ?

[Chloe] 冗談よ。

[Helena] やっぱり、あたしたちで何とかしなきゃ。

[Helena] なにか手があるなら、ぜひ教えてちょうだい? ランカスターさん。

[Narration] 二人にじっと見透かされて、イライザはそのさも不安げな表情を保つことが難しくなってきた。

[Eliza] ……フッ。おふたりにはかないませんね。

[Eliza] ええそうです。私、ちょっとした噂を耳にいたしました。

[Narration] やっぱり、とクローエは無言で腕をあげた。

[Helena] 噂?

[Eliza] ええ、実は……

[Helena] 盗み食い……?

[Eliza] はい。メイドたちの間で、ちょっとした話題になっています。

[Chloe] 飽食の象徴のようなこの船にかぎって、そんなスケールの小さい犯罪が……?

[Eliza] いえ、実のところは、しょっちゅうあります。

[Eliza] 育ち盛りのビジターたちや、わたしたちメイドが味見と称して、配膳台やギャレーから、ちょっと。

[Helena] あきれた。

[Chloe] でも、そんなささいなこと、誰も気にとめないでしょう?

[Eliza] ええ。ただ……

[Eliza] 奇妙なのは、そのあとが、まるで動物のように食べ散らかされているのです。

[Helena] それは……

[Eliza] この船で飼われているペットは、みなよく躾けられていますし、じゅうぶんに餌も与えられていますから。

[Helena] じゃあ、またノラ猫?いえ、それよりもこれが杏里の件とどういう関わりが?

[Eliza] 一致するんです。この話の出た時期と、杏里様が記憶喪失になられた時期が。ぴったりと。

[Helena] ……それでも、二つの話に何か関係があるとは思えないわ?

[Eliza] ええ……私にも今のところまったく。

[Chloe] 推理その一、頭を打った杏里がおかしくなって夜な夜な徘徊している。

[Helena] PSがほうっておかないわ?

[Chloe] では推理その二、煙突内に生息しているという謎の原住民が……

[Helena] まじめにやりなさいよ。

[Narration] 三人がかけているテーブルを、すっと一人の少女が横ぎった。

[Helena] ……アイーシャさん?

[Aisha] ル〜〜ルルルッル〜〜♪今日もいい陽気〜〜♪

[Narration] アイーシャは三人には目もくれず、一つ離れたテーブルにつくと、メニューにくいいるように見入った。

[Aisha] うわ……美味しそうな洋菓子がいっぱいだよ!どれにしよう〜、迷う迷う!

[Aisha] ねえ! ちょっと!誰かいないっすかー!?

[Narration] アイーシャは、あわててオーダーを取りに来たメイドに、メニューをつきつけ、指さしながら訊ねた。

[Aisha] この、ザ……ザ……

[Aisha] え? ザッハトルテっていうの?これって美味しい? そうなんだ!じゃあそれ1個! あ、2個!

[Aisha] あと、これと、それと、あれと、そっちと、おまけにこれと、あとミルクたくさん! 急いでね!?

[Narration] ヘレナたちは、あっけにとられ、こわばった表情でその様子を見つめていた。

[Chloe] なんだと思う……あれ……

[Eliza] アイーシャさんですね。

[Chloe] そうじゃなくて。

[Helena] ………………ア……アイ……ッ……

[Narration] テーブルに届くやいなや、アイーシャは夢中でケーキをほおばった。

[Aisha] もふもふもふもふもふ……

[Aisha] あ、まーい!

[Aisha] こ〜んな美味しいものがあるなんて、まさにこの世のパラライス! もふもふもふもふもふもふ……

[Aisha] もふっ! ふっ、ふぐぐぐ……

[Narration] アイーシャは目を白黒させながら、自分の胸をどんどん叩いている。

[Chloe] まあ詰まりもするでしょうね。一気に3個もケーキを放り込めば。……手づかみで。

[Narration] 見かねたイライザがさっと出て、テーブルのミルクをコップにそそぎ手渡した。

[Eliza] アイーシャ様、これを!

[Narration] しかし少女は目を白黒させながら、首を振り、しきりにテーブルを指さす。

[Eliza] え? お皿にあけてしまうんですか?ミルクを?

[Narration] イライザが言うとおりにすると、少女はがばと皿に顔をつけて、ぴちゃぴちゃと舌ですくいながら飲み始めた。

[Narration] まぶたに手を置いて天をあおぐクローエの横では、わなわなとヘレナが震えている。

[Helena] ア、アイーシャさん!あなた……ッ!

[Narration] ようやくケーキを飲み込んだアイーシャは不思議そうに顔をあげた。

[Narration] 口のまわりにミルクをつけたまま、きょろきょろとあたりをみまわす。

[Aisha] へ? あたし?

[Chloe] 他に誰がいるのかしら。

[Narration] アイーシャはいまだに、きょとんとしている。

[Aisha] なに怒ってんの?

[Aisha] ……うわ、でっかいおっぱいだァ……

[Narration] アイーシャは両の手を握ると、身をのりだしてせまるヘレナの胸にぽんと置いて、むにむにむにむにと交互に揉みはじめた。

[Helena] お行儀の悪さにもほどが……な、な、なにをするんですかっ!

[Aisha] ……出ない。

[Narration] アイーシャは手を止めずに悲しそうな顔でヘレナを見あげる。

[Helena] なにがですか!だからやめ……あっ……やめ……

[Chloe] キャラクターって悲しいわね。

[Eliza] 今回は無いと思ったんですけどね。

[Helena] アイーシャさん……ッ……だめ……こんなところで……いえ違っ……ああ……

[Narration] ヘレナがムニムニされている脇で、二人が冷静な会話をしていると、どたどたと聞き慣れた靴音が近づいてきた。

[Nicolle] あーっ! もーッこんなところに!

[Nicolle] コラぁ、アイーシャ!コローネのドッグフード食べただろ!

[Eliza] ど、ドックフードをですか!?

[Collone] ウ───ッ!ウォウオゥ!

[Aisha] げげっ!イヌだ! イヌがいる!なんじゃそれ! 騙された!

[Nicolle] にゃにおうっ……うわっ!

[Narration] アイーシャは立ちあがりざまにテーブルを蹴り上げると、進路にいたメイドを突き飛ばして逃げていった。

[Nicolle] また逃げやがった!待て────ッ!

[Aisha] 金なら払わん!

[Narration] 二つのおさげが水平になるほどの素早さで、アイーシャは走り去った。

[Narration] コローネは善戦していたが、あとに続くニコルの鈍足ではまったく話にならない。

[Eliza] アイーシャさん……

[Narration] 倒れたテーブルや食器をかたづけながらイライザは言った。

[Eliza] ケーキの代金でしたら、あとでもよろしいのに……

[Chloe] ……そういう問題だった?

[Narration] ヘレナは床にうつぶせになって、ぐったりしている。

[Narration] そこへ、またしずしずと一人の少女が現れた。

[Aisha] …………

[Chloe] …………

[Eliza] …………

[Narration] アイーシャは流れるような動作で席につくと、おっかなびっくり現れたメイドにオーダーした。

[Aisha] ……レモンティーを。お砂糖はいりません。

[Narration] やがて、ずっと視線を注いでいるクローエたちに気がつき会釈した。

[Aisha] あ……あの……今日は……いいお天気ですね。

[Aisha] ………………

[Aisha] ……こんな日は、もしかしたら蜃気楼が見られるかもしれないって、ソフィア先生にお聞きしたものですから……

[Aisha] ………………

[Aisha] あ……あの……私の顔に……何か?

sapphism_no_gensou/7005.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)