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sapphism_no_gensou:7004

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[Unknown] やっぱりここにも……ううっ……なんて暑いんだろ……

[Unknown] …………ハッ!

[Narration] 話し声が近づいてくると、その人影はスッと物陰に潜んでしまった。

[Anri] ねえ、バルトレッティさんって、とても静かな人だね。

[Niki] (ガーン)

[Narration] 小さく息をのんだニキを、アイーシャは気のどくそうに見た。

[Aisha] ……ちがいます。ちがうの、杏里。

[Aisha] 彼女はほとんど話せないんです。言葉を口であらわすためには、とても重い胸のつかえと闘わないといけない。

[Aisha] だから、せめて身振りで……

[Anri] え……っ、じゃあさっきからボクに向かってブンブンと腕をふりまわしていたのは……

[Anri] あれは、怪しい拳法の真似をしてボクを笑わせようとしていたんじゃなくって……

[Niki] (ガガガガーン)

[Aisha] 必死に話しかけられていたんです。

[Anri] ご、ごめんよ。ホントにごめん。

[Anri] でも、ボクにはきみの伝えようとしていることがわからない。

[Aisha] 私も、まだ、おぼろげにしか……

[Anri] ああ、ボクの知らない間にも、どれだけみんなの心にくさびを打ち込んでしまっているのだろう。

[Anri] 一刻もはやく、記憶をとりもどすことが、ボクの最大の使命だ!

[Aisha] 私はべつに……

[Anri] え?

[Aisha] バルトレッティさん、あれを。

[Narration] ニキはすがるようにして、杏里に数片の紙を渡した。

[Aisha] ……台本です。

[Aisha] 皆さんに聞きとり調査をして、記憶を失われるまでの、やりとりを記してあります。

[Anri] わかった。この通りにやればいいんだね。うん。がんばるからね?

[Niki] …………(コクン)。

[Aisha] まず、このサウナに入室された時、そこには杏里さんの他にはまだ誰もいらっしゃいませんでした。

[Aisha] イライザさんの推測によれば、杏里さんは個室ではタオルをとって、椅子に寝そべっていることが多いそうです。

[Anri] えっ……これとるの……?そんなの……は、恥ずかしいよ……

[Aisha] それは堂々としたものだそうですが。

[Anri] わかったよう。

[Narration] 杏里はしかたなく台本の通りにした。

[Anri] ええーっと、それで、「変な替え歌を歌う」? 大音量で?。

[Anri] 本当にそんなことするの?

[Niki] …………

[Anri] やるよ、やります。あーあー、オホン。ポ、ポー

[Anri] 「ポパイ・ザ・セーラーガール♪ ポパイ・ザ・セーラーガール♪」

[Anri] 「ポーパーイ! たすけてー! アーウチ、オリーブ なんてこったい!」

[Anri] 「(低い声で) へっへっへ、オリーブちゃん、 なあええやろ。ええやろ?」

[Anri] 「(カン高い声で) キャー、ポーパーイ! 犯されるー! イヤァー!」

[Aisha] そこへ……

[Narration] 申し合わせてあったとおり、サウナ室の扉がバーンと開く。

[Helena] 「あ、杏里… 公共の場でなんて破廉恥な歌を 歌っているのよ(棒読み)」

[Helena] 「あたり一面に響いてるわよ(棒読み)」

[Niki] …………(もっと感情をこめて、のジェスチャー)

[Helena] ご、ごめんなさい。わたし演劇とか、こういうの苦手で……

[Helena] 「と、とにかく静かにしなさい!」

[Anri] 「やあ、ヘレナ。 きみを待っていたよ。」

[Anri] 「きみが一緒なら、もうここは 二人のための楽園だもの。 どんな言葉を囁いても許されよね?」

[Anri] ……恥ずかしいなあ。よくこんなセリフ、真顔で言えるよ。

[Aisha] わりと迫真な感じでしたが。

[Helena] えっと、それから……「それが囁くどころじゃないから、 注意しているんです!」

[Anri] 「まあまあ、とにかくヘレナは ボクの元へやって来たんだ。うん」

[Aisha] ───杏里、パンにバターを塗るように自然な動作でヘレナを押し倒す。

[Anri] え? するの?

[Helena] ウソっ、もうイヤよ、私!

[Aisha] ですが、状況の再現ですし。できれば……

[Narration] ニキは、顔を両手で覆いかくしてしまい、肩を小刻みに震わせている。

[Anri] …………えっと。やっぱり本番までは、ちょっと……

[Aisha] ……ではフリまで、ということで。

[Anri] 「へっへっへ、ヘレナぁ、 いいよね。いいよね?」

[Helena] 「キャー、イヤァー!」

[Anri] 「ここかい? それともここ?」

[Helena] 「ダメ、ダメよ〜ッ」

[Narration] 扉が開いてニコルとコローネが顔をあらわす。

[Nicolle] 「あれー、お取り込み中?」

[Aisha] ───ニコル・ジラルド入室。

[Anri] 「やあ、ニコル」

[Helena] 「ジラルドさん……! いえっ、これは違うの……っ」

[Nicolle] 「イライザが、杏里はこっちだって 教えてくれたんだけど。 そーゆーことなら……」

[Nicolle] 「ここで見物してよう。 さ、どうぞ。お気になさらず」

[Helena] 「しません!」

[Aisha] ───せいいぱっい気丈にふるまっていたヘレナだが、すでに自分の乙女がじっとりと濡れている事実は、どうしようもなかった。

[Aisha] ───わざと杏里たちから蒸気で見えにくい場所に腰をおろすと、タオルの間にこっそりと指をはわせ、ひとり肉体の火照りを静めようと……

[Narration] 台本を読み進めるアイーシャの顔が赤らむ。

[Helena] わ、わたしはそんなこと、報告してません!

[Aisha] この部分はジラルドさんの……

[Helena] ヘンなふうに脚色しないで! ニコル!再現にならないでしょう! 人が恥ずかしさを我慢して、真面目にやってるのに!

[Nicolle] いやあ、つい……いひひひひ。

[Narration] また来室があった。

[Eliza] 「冷たいものをどうぞ?」

[Soyeon] 「こんばんわ! 」

[Alma] 「みなさんお揃いですのね。お邪魔してもよろしいでしょうか?」

[Anri] 「わあ、降れば大雨だね? どうぞ、ボクの愛しい子猫ちゃんたち」

[Anri] ……うーん、この感覚がいまいち、ね。

[Aisha] ───さらにイライザ、ソヨン、アルマ入室。

[Helena] 「私は飲み物はいいわ。 それに、もうあがろうとしていたし」

[Nicolle] 「あたしも。コロがダウンしそう」

[Helena] 「犬にサウナはよくないわよ」

[Nicolle] 「だって、勝手についてくんだもん」

[Collone] 「ウォウ〜〜」

[Aisha] ───一刻も早く、個室に戻らなければ。早く、早く。杏里の指の感触が消えぬうちに、シーツに潜り込んでしまおう。

[Aisha] ───ああ今夜は眠れるのだろうか。一度生まれてしまった炎は、燃え尽きるまで私の身を焦がし続けるだろう……

[Helena] そんなモノローグありません!またあなたね!?

[Nicolle] あははははー

[Narration] ニキは一人うんうんと頷いている。

[Aisha] ───ヘレナ、ニコル退室。

[Narration] その後、アンシャーリーが乱入し、すべてをめちゃくちゃにしたあと、杏里だけがサウナ室に残された。

[Narration] 刻々と時間が過ぎ去る。

[Aisha] ───1時間35分経過。クローエ入室。

[Anri] 「やあ、クローエ」

[Chloe] 「さよなら」

[Anri] 「えっ、待ってよクローエ。もうすこし一緒に……」

[Chloe] 「急に立たないほうが───」

[Narration] 杏里は立ち上がったとたん、まっさかさまに倒れた。

[Narration] とっさにニキが助けよる。

[Narration] タオルがはずれ落ち、白い裸身をあらわにしたニキが、杏里の顔を心配そうにのぞきこむ。

[Narration] ニキはハッとして、自分のしていることをふりかえった。

[Anri] ……だいじょうぶだよ?これも演技のうちだから。

[Anri] ……バルトレッティさんはいい人だ。

[Narration] ニキは縮こまるようにして、またタオルで身を包み直した。

[Chloe] 「杏里? すごい音がしたわよ?」

[Anri] 「へーきへーき! ピンピンしてる!」……我ながら頑丈だな。

[Aisha] ───立ちくらみを起こした杏里、椅子の一部を損壊する。

[Anri] ああ、それでここんとこ、まっぷたつに割れてるんだ。

[Chloe] いいえ。その時はヒビだけだった。割れたのは最後に倒れた時でしょう。

[Chloe] 「あなたが、趣味で七転八倒するのは構わないけれど、ポーラースターとその設備をこれ以上破壊しないで」

[Anri] 「ごめん。じゅうぶん気をつけるから」

[Chloe] 「どうだか。」

[Aisha] まったく学習されていませんね。

[Chloe] ……ま、それでこそ杏里よ。

[Aisha] ───クローエ退室。

[Anri] ……ごめん、みんなに迷惑かけてばかりで。今だってそうだ。ボクって最低の奴じゃないか? 今のボクなら決して、そんなヘマしやしないんだけど……

[Anri] ああ、だんだん記憶をとりもどすのが恐ろしくなってきたよ。

[Narration] はっしとニキが腕をとり、首をぷるぷるとふった。そして必死にジェスチャーでうったえる。

[Anri] ごめん、やっぱりわからない。でも、励ましてくれてるんだね?

[Niki] ……(こく)。

[Aisha] まだ……何も感じるところはありませんか?ちょっとしたきっかけさえあれば、芋蔓式に……

[Anri] ……うーん…………

[Narration] 室内の温度は低めにしてあるとはいえ、さすがに、ずっと2時間近くつきあっているアイーシャとニキも、ぐったりしてきた。

[Aisha] では、最後にイライザさんが様子を見にいらして───

[Eliza] よろしいでしょうか?

[Narration] 扉の合間から、待機していたイライザが顔を出す。

[Anri] ちょっと待った!

[Anri] あれ……? あれ?ヘン……だぞ? あれれ?

[Nicolle] どーしたどーした。なんか出たか?

[Anne Shirley] ココイチの新メニュー?

[Narration] サウナルームの外で時間をつぶしていた面々が、やってきた。

[Anri] ヘンだ。なにか抜けてる。

[Eliza] 杏里様、ついに記憶が……?

[Anri] うん……そうだよ。ランカスターさんがやってくる前、ボク、誰かとここで会ってる!

[Chloe] わたしと別れたあとに?ヘンね、このあたりは静かなものだったけど。

[Anri] でも……確かに。……その、いわゆる「子猫ちゃん」だったと思う。そして……黒かった。

[Narration] 「黒い?」

[Narration] みんなの視線がなにげなくアイーシャに集まる。

[Aisha] はっ! 人種差別的な視線が私を直撃?

[Nicolle] そーじゃなくて。ん? そうなのか? まーいいや。

[Nicolle] また自作自演か?同じネタは二度は通用しないぜ?

[Aisha] 本当です……嘘じゃありません!

[Anne Shirley] そうよ。芸の道は厳しいのだわ。

[Nicolle] アンはクスリの種類を変えるだけじゃんか。

[Helena] この台本には無いけれど、ヤンさん、実は、あなたサウナに来ていたの?

[Aisha] いえ、そんな……っ

[Aisha] だって私、サウナに入ったのは今日が生まれてはじめてです。

[Narration] ざわめく少女たちの中で、アルマは眉をひそめた。

[Alma] まあ……でもそれは、少々不衛生ではありませんか?

[Alma] お父様も申しておりました。連中はフロに入る金もないものだから、垢と日光が化学反応を起こして───

[Chloe] ストップ、ストーップ!お風呂には入っているわよ!あたりまえでしょう!

[Chloe] サウナははじめてだと言ってるの!

[Alma] まあ……申し訳ありません。わたし、とんでもないことを……

[Soyeon] はっ!

[Soyeon] そういえばゲーム本編では、アイーシャさんのタオル姿はお見かけしませんでした!

[Nicolle] あー……それはー……

[Anne Shirley] よくあるのよ。「だれか使うだろう」って思っていたら、これがけっきょく、だーれも使わなかったなんて、とっても不幸なCGが。ケッサク!

[Chloe] ケッサク! じゃなくて。泣いてるわよ。きっと。

[Anri] そうか、それでソフィア先生とはサウナで会えなかったんだ!

[Nicolle] いや、それは誰も見たくないからじゃ。

[Sophia] 失敬な。

[Helena] でも、ヤンさん。私の思いちがいでなければ……

[Helena] あまり、今回の件では気乗りしなさそうに見えたのだけど。

[Aisha] それは……

[Narration] アイーシャは言いよどみ、沈黙が降りる。沈黙は、真実を意味していた。

[Narration] そんなアイーシャの前に、杏里とニキが立ちはだかる。

[Niki] …………

[Narration] アイーシャの前に手を広げて立ち、小さく首をふる。

[Eliza] 彼女は無実です、とおっしゃってます。

[Nicolle] わかるさ。そんなのはわかってる。

[Anri] ごめんなさい、ヤンさん。ボクが不用意なことを言ったばかりに。辛い想いをさせて……

[Aisha] 杏里……

[Helena] どうやら、この方法も、いま一つだったようね。

[Nicolle] この際、誰か一人だけでもいいから、思いだしておくれよ、杏里。

[Anri] そんな器用な真似、ムリだよっ。

[Anri] だいたい、どうしてこんなたくさんの“子猫ちゃん”がいるんだい? まったく、とんだ浮気者だよ、ボクって奴は!

[Eliza] ……そ……そんな……

[Eliza] ……杏里様が壊れていきます……っ

[Chloe] ……そうかしら?記憶を取り戻しても、ぜひその自覚については心に留めておいてほしいものだわ。

[Anne Shirley] ここはやっぱりおクスリで。

[Soyeon] 勇気と友情と勝利のショック療法です!

[Alma] そうですわ、両方いっぺんというのはいかがでしょう?

[Anri] きみたち、実は楽しんでないかい?ボクはこんなに真剣なのにぃ。

[Narration] サウナ室からひとけが消え、しばらくして───

[Narration] 部屋の一角。水をためておく大きな水瓶の中から、小さな人影がコロンところがり落ちた。

[Unknown] けほ、けほっようやく出られた……

[Unknown] あやうく土瓶蒸しに……ハァ……ハァ……

[Unknown] けほ、けほっけほっ……

sapphism_no_gensou/7004.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)