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[Anri] ……ふぅ、たまにはサウナもいい。
[Narration] 蒸し風呂の熱気にからだを預けて、杏里は幸せそうに呟いた。
[Narration] 例の事件も解決し、ようやく学園は本来の落ち着きを取り戻しつつあった。
[Narration] 事件の渦中にあった杏里も、こうしてのんびりサウナでくつろいでいられる。
[Narration] 慌ただしい3週間は、もう過去の出来事なのだ。
[Narration] 外はおりしも猛烈な嵐の真っ最中。
[Narration] しかし、巨大なポーラースターは平穏そのもの。微動だにしない。
[Eliza] だからといって……あまり長居すると、逆にお体に悪いですよ?
[Eliza] 何か飲んで、少しお休みになる方がよろしいと思います。
[Anri] うん、そうだね……。なんかクラクラする。
[Narration] 杏里は、イライザの差し出した濡れタオルで額をぬぐった。
[Anri] ボク、どれぐらい入ってるかな?
[Eliza] もう2時間になります……無理が過ぎますよ。
[Anri] そうだねぇ、誰も遊びに来ないし、そろそろあがろうか。
[Eliza] そういった狙いがおありでしたら、事前にどなたかと約束をしておけばよろしかったのではないですか?
[Anri] いや、これはこれで回転寿司のようなランダムな楽しみが……って、イライザは回転寿司は知らないかな。
[Eliza] はい、存じません。
[Anri] じゃあ購買部通りに出店してくれるよう嘆願書を……っと!?
[Narration] 起きあがった杏里は、その場で立ちくらみを起こして、フラッと倒れた。
[Anri] あらら……?
[Eliza] 杏里様っ!?
[Narration] ガツ──────ンッ!
[Eliza] あ、杏里様、大丈夫ですかっ!?
[Anri] う……うぅん……?
[Anri] ……あれ?
[Eliza] 杏里様?
[Anri] ……キミ、誰?
[Eliza] は?……え? えぇ?
[Eliza] ええぇぇぇっ!?
サフィズムの舷窓 追加シナリオ
『杏里の記憶』
[Helena] 記憶喪失……って、杏里が?
[Chloe] えぇ、サウナで立ちくらみを起こしたそうよ……。
[Chloe] 転んだ拍子に頭を打ったんだとか。……医者は、一時的なものだろうと言ってるようだけど。
[Helena] もう……次から次へと、どれだけ人を心配させたら気が済むのかしら?
[Helena] わかったわ、授業が終わったらお見舞いに……。
[Chloe] ……行かない方がいいかもよ。
[Helena] え? どうして?
[Chloe] すでに何人か、杏里の所を訪れて……。
[Chloe] けっこう、ショックを受けているみたいだから……。
[Anri] やあどうも、皆さん。こんなにたくさんの人がお見舞いに来てくれるなんて嬉しいよ。
[Anri] そんな辛気くさい顔はやめにしようよ。ねぇ?えーと……。
[Soyeon] ソヨンです……。ファン・ソヨンです。
[Soyeon] 杏里さん、本当にあたしのこと、忘れちゃったんですか!?
[Anri] あぁそうそう、ソヨンさんだったね。
[Soyeon] そんな……「ソヨンさん」なんて……。
[Alma] ……杏里様は、本当に記憶をなくされてしまったのですね。
[Anri] どうも、そうみたい。
[Anri] 自分の名前や、ここが何処かは覚えてるんだけど、キミらの……えーと……。
[Alma] アルマです、アルマ・ハミルトン。
[Anri] そう、アルマさん達のことが思い出せないんだよ。
[Aisha] それだけじゃない……。
[Aisha] たとえ初対面の相手でも「さん」付けで呼ぶなんて、杏里らしくない。
[Nicolle] 確かにそうだな……傍若無人を絵に描いた、杏里らしくない振る舞いだ。
[Anri] ボクってそんな人だったの?
[Nicolle] 普段の自分の行いとか、覚えてないわけ?
[Anri] う〜ん……授業をさぼってたような記憶はあるんだけど……。
[Anri] あとは、まあ普通の学生だったんじゃないかなぁ、と……?
[Anri] ……どうしたの、みんな?そんな呆れたような顔して?
[Alma] 杏里様の記憶……戻るんですよね?
[Aisha] ショックによる一時的な記憶の混乱というのは『いつか戻る』という程度の意味だと聞いたことがあります……。
[Aisha] だとしたら、このまま放っておくと記憶が戻るのは今日か、明日か、それとも1年後、2年後か……。
[Alma] そ、そんな……。
[Soyeon] 杏里さんの記憶を取り戻しましょう!
[Soyeon] 杏里さんが、あたし達のことをずっと忘れたままなんて、そんなこと絶対にありません。
[Soyeon] きっかけさえあれば、きっと思い出してくれますよ!
[Alma] ……そうですね……杏里様とわたし達の絆は、すべって転んだぐらいでは無くなりませんよね。
[Aisha] ……私は……いっそ、このままでも……。
[Nicolle] きっかけかぁ……よし、ちょっと考えてみようじゃないか。
[Niki] ………………(コクリ)。
[Anne Shirley] きおくきおく……きおく?
[Narration] わいわいと相談にはいった少女達を見て、杏里はどこか眩しそうな表情をした。
[Anri] 思い出せないけど……でも、みんなボクのことを大事に思ってくれてるのがわかるよ。
[Anri] 思い出したいな……ボクも。ねぇ、かなえさん?
[Tenkyouin] ………………。
[Anri] どうしたの、かなえさん。さっきからムッツリ押し黙っちゃって?
[Tenkyouin] あたしが納得いかないのはなー。
[Tenkyouin] どーしてあたしの事は覚えてるのかってことだっ!
[Anri] ……え?
[Tenkyouin] えぇ杏里!なんであたしを覚えてるんだっ!?
[Anri] な、なんでと言われても……覚えてるんだからいいじゃない。
[Anri] ほら、これがきっと、親友の絆というもので……。
[Tenkyouin] 君の担任の名前は?
[Anri] え、レイチェル先生。
[Tenkyouin] 学園長の名前は?
[Anri] けーこちゃん。
[Tenkyouin] よーするにあたしはそっちに分類されたっつーことじゃないかっ!
[Tenkyouin] よりにもよって子猫ちゃんのことだけスッポリ忘れおって、こいつは───っ!
[Anri] こ、子猫ちゃん?
[Tenkyouin] もういい!あたしは知らない!コーヒー飲んで寝るっ!
[Narration] ずかずかと立ち去る天京院の後ろ姿を、杏里は呆然と見送った。
[Narration] ……なんであんなに怒ってるんだろう、かなえさん?
[Soyeon] ……話し合いの結果、3つの方法が提案されました。
[Soyeon] どれも一長一短なので、あとは杏里さんに決めて欲しいんですけど。
[Anri] うん、わかった。どれかひとつ選べばいいんだね?
[Nicolle] それじゃあまずは、ソヨンとあたしの案。ショック療法。
[Nicolle] 頭をぶつけて失くした記憶なんだから、同じように頭に衝撃を与えれば、もとに戻るかもしんない。
[Soyeon] 色々なモノを用意して、それに頭をぶつけて試していきます。
[Anri] ……痛そうだね。
[Soyeon] 多少のマイナス要素には、目をつぶっていただけると……。
[Anri] わかった……それから?
[Alma] わたしとバンクロフトさんの案です。
[Anne Shirley] 絶対無敵!
[Alma] バンクロフトさんが、特効薬というべきお薬を持っていらっしゃるんだそうです。
[Anri] へぇ……。
[Alma] これを使えば過去の記憶どころか、前世の記憶まで甦ること間違いなし、のスグレモノだそうですよ!
[Anne Shirley] 完全無比!
[Anri] ……なんか、ちょっと本能的な危険を感じるけど……うん、わかった。
[Aisha] 最後は……私たち。
[Aisha] 状況の再現……というものに、挑戦してみようと思うの。
[Anri] 状況の再現?
[Aisha] ええ。記憶を失くしたサウナにもう一度入ることで、きっかけになれば……と思って。
[Niki] ………………(コクリ)。
[Anri] ……うん、3つの中で、一番安全そうな気はする……。
どれにしますか?
ソヨンにお任せですよ
アルマ、キミに決めた
おねがいアイーシャ