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sapphism_no_gensou:4641

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[Anri] 喜んでくれ、ニキ!

[Narration] ニキの部屋にノックもなしに飛び込んできた杏里は、いつもより更に更に上機嫌に見えた。

[Niki] ……?

[Narration] 読みかけの詩集を置いて、ニキは杏里のそばに近づいた。

[Narration] その細い身体を、杏里がぎゅうっ、と抱きしめる。

[Anri] 実はさっき、かなえさんのところで例のものを改造してもらったんだ!

[Niki] ……?

[Narration] ニキが不思議そうに杏里の顔を見る。

[Narration] 杏里は誇らしげに、バネ付きスピーカーを取り出して見せた。

[Anri] ──これさ!

[Narration] それは、つい先だって杏里の持ちこんだ、身振り翻訳機だった。

[Anri] 新しい静音設計のミキサーを積むことで、なんと騒音をこれまでの15%まで減少したすぐれもの!

[Anri] 今度こそいけるよ、ニキ!さあ、さっそく装着だ!

[Narration] 杏里はニキに翻訳機を装着すると、背中のスイッチをいれた。

[Narration] きゅんきゅんと股間のミキサーが回転音をたてるが、この前ほどではない。

[Anri] やってくれ、ニキ!

[Narration] ニキは促されるまま、大きく身振り手振りをはじめた。

[Narration] 自分の思いを、感じていることを、伝えたい言葉を、ひょっとしたら、余すところなく、表現できるかもしれない。

[Narration] わかってもらえるかもしれない!──杏里に!

[Niki] (杏里、好きです!)

[Niki] (杏里の全てが、みんな好きです!)

[Niki] (ぎゅっ……て、いつも抱きしめられて いたいぐらいに!)

[Narration] そして、ニキの情熱をこめたジェスチャーが、言葉へとかわる。

[Narration] スピーカーから、言葉が吐き出された。

[Niki] 「杏里っ、むっちゃ好きじゃあっ!」

[Narration] ──ピキッ、とニキが凍りついた。

[Narration] 「なんちゅうかもう、ひんむいて頭の テッペンからツマサキまでしゃぶって やりたいでぇホンマ!」

[Narration] 「サバ折りかますぞコラァッ!」

[Narration] 杏里が目を丸くして見ている。

[Niki] (ち、違う、そうじゃない!)

[Niki] 「間違っとんじゃ殺すぞボケェ!」

[Niki] (ああ──杏里の視線が痛い……)

[Niki] 「なんじゃその眼は文句あるんかい!」

[Niki] 「見んなくそだらぁっ!」

[Narration] 焦れば焦るほど、無茶苦茶な言葉がほとばしってしまう。

[Niki] (杏里、これダメです、外して ください、早く!)

[Niki] 「杏里、ダメダメじゃねぇかこの ド畜生! はよう脱がさんかい おんどりゃ────っ!!」

[Narration] ──10分後、ようやく翻訳機を外してもらったニキはすっかり落ち込んで、トイレにこもったまま出てこなくなっていた。

[Anri] おーい、ニキ、悪かったよ!

[Anri] ごめんね、許してよ、言語ソフトが不完全だと聞いてはいたけど、あんなとは知らなかったんだ。

[Anri] ねえ、怒ってないで、出てきてよー。

[Narration] ニキは怒っているのではなく恥ずかしくて死にそうだったのだが、結局あの言葉ではそれすらも伝わっていなかった。

[Narration] トイレの中で、トイレットペーパーに顔をうずめたまま、ニキはがっくりと落ち込みつづけた。

sapphism_no_gensou/4641.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)