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sapphism_no_gensou:4541

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[Narration] 静寂を愛する少女、クローエ・ウィザースプーンにとって、大図書室での読書の時間は、彼女の心の平穏にとって欠かせない時間と言えた。

[Narration] カウンターの内側で椅子に腰をおろし、机の上に本を広げて、指でページを繰る。視線は本に落としたまま、片肘をついて、その手の上にあごを乗せる。

[Narration] ゆるやかに流れる時間の中で、お気に入りの銘柄で淹れたコーヒーを傍らに、偉大なる先人の叡智に触れる。

[Narration] それはまさに、読書家にとって至福の時間であるだろう。

[Anri] やあ、クローエ。

[Narration] 無法な闖入者に、クローエは視線もあげない。

[Narration] 反応すらしないクローエの態度にこたえる風もなく、杏里はカウンターを乗り越え、その傍らに腰掛けた。

[Anri] やあ、大図書室の麗しき女神様。ご機嫌はいかが?

[Narration] クローエは小さなため息をついた。

[Chloe] 五分前まではたまらなく幸せだったわ。でも、今はこらえきれないほど不幸よ。

[Anri] それはかわいそうに。いったい何があったんだい?

[Chloe] あなたがここに来たのよ。

[Anri] やれやれ、相変わらずだな。

[Narration] 杏里は肩をすくめると、口を閉ざし、クローエを眺め始めた。

[Narration] 確かに杏里は、しばしば大図書室で騒ぎ立て、クローエを怒らせている。

[Narration] しかし、クローエの意志と時間を尊重し、こうしておとなしく読書を待つこともある。ごくたまにだが。

[Anri] ……あれ?

[Narration] 杏里のつぶやきに、クローエの眉がわずかにあがる。

[Anri] クローエ、この本、何語で書かれてるの?

[Chloe] ……中国語よ。

[Anri] そんなの読めたんだ。

[Chloe] 読めるわけないでしょ。

[Anri] あとさ、この本、もしかして逆さまじゃない?

[Chloe] そうかもしれないわね。

[Anri] しれないって……。

[Chloe] 杏里、うるさいわよ。わたしは静かな時間を過ごしているの。わたしにとって何よりも重要な時間よ。

[Chloe] どんな本を読もうと関係ないわ。本なんて関係ないの。いい、この時間の静穏を守れないと言うのなら……。

[Chloe] 杏里、あなたを、どんなことになってもここから叩き出すわよ。わかってるわね。

[Anri] はい……。

[Narration] 本から視線を微塵も動かさずに告げたクローエに、杏里はそう答えるしかなかった。

sapphism_no_gensou/4541.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)