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sapphism_no_gensou:3472

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[Helena] ……あまり賢くはないわよ。

[Narration] きっと傷つくことになる。ヘレナはそう思った。どんな理由があるにせよ、アイーシャの犯した罪は重い。話せば、その重さに見合う傷を負うのは杏里だ。

[Narration] それでも、杏里はアイーシャをわかろうとするだろう。その外れそうにない予想が、ヘレナの心を重くする。なぜかはわからせないまま。

[Anri] ……ねえ、ヘレナ。エッチしよ。

[Narration] ヘレナの耳に、杏里の声が届く。

[Helena] な、何を考えているのよ、あなたは! ま、またこんなとこで!

[Anri] 前にしたことあるじゃないか。

[Helena] う……、第一、そんなことしてる場合じゃないでしょう!?

[Anri] ボクは、ヘレナと話してる時はいつでもこう思ってるけど?

[Helena] 変なこと言わないで! 私は、そんなふうに思ったことは一度もないわよ……!

[Narration] その言葉に嘘はない。進んで杏里を求め、受け入れたことはない。それでも、今ほど杏里の申し出に戸惑うことはなかった。

[Narration] 杏里は、ヘレナの拒絶を受け入れたことはほとんどなかった。大抵は身体を押し開かれ流された。しかし、今はどうなるだろう。今、拒んだら杏里はどうするだろう。

[Narration] そのまま、立ち去ってしまいそうだった。それほど、心許ない杏里をヘレナは初めて見た。その原因は自分ではない。あの少女だ。

[Narration] 杏里がヘレナ自身を求めているのはわかる。誰かの代わりではないことは確信できる。

[Narration] 目の前にいる相手に、愛を注ごうとするのは、迷惑な話だが、杏里の本質に基づく行動だ。しかし、その杏里の心の中に誰かが影を落としている。

[Anri] だけどヘレナ、キミを抱きたいんだ。……抱かせてよ。

[Helena] 甘えないで。そんな……。

[Narration] しかし、ヘレナはそこで口を閉ざす。彼女の体の中で、ある思考がとぐろを巻こうとしていた。

[Narration] もし、この場で杏里のすべてを受け入れられたら、することすべてを受け入れられたのなら。

[Narration] 彼女を留めることができるだろうか?

[Narration] もしかするとこのまま、いつでも会える場所から離れかねない杏里を、引き留めることができるだろうか。

[Helena] (ニェート! ニェート!)

[Narration] ヘレナの理性が、激しく否と叫んでいる。

[Narration] 望むべくもないことだ。杏里はきっと、なにものにも囚われない。彼女は自分の信じたとおりに進む。ためらっても決して引き返したりはしない。

[Narration] 杏里をまっすぐに見つめていた。張りつめた視線を向けていた。緩めばすぐに、涙があふれてくるのではないかと思えた。

[Narration] 押し黙ったまま、ヘレナは、杏里の言葉を待った。そして、杏里はゆっくりと口を開く。

[Anri] 誰もいないよ。

[Helena] 神がご覧になってるわ。

[Anri] かまうものか。ボクも罪人になる。

[Helena] ……じゃあ、強く激しく私を抱いて。あなたの罪がどこまでも重く、あの娘と一緒に地獄へ堕ちていけるようになるほどに。

[Narration] ヘレナは、杏里に背を向ける。そして、自分の襟元へと指を伸ばした。

[Narration] 指先が、かすかに震えているのがわかる。杏里の見ている前で服を脱ぐ。それは初めてのことだった。服はいつも、杏里が脱がせていた。

[Narration] 貞淑に、高潔に、そう育てられてきた。淫らな行いのために自ら服を脱ぐなど、あってはならぬと教えられてきた。

[Narration] それでも今、自分の指で、一つづつボタンをはずしていった。上着を脱いで、傍らのベンチにかけ、その上にブラウスを乗せる。

[Narration] 肌が外気にふれる。その感触で、自分の今の格好に気づく。

[Narration] 肌もあらわに、下着だけの姿で、これから身体を重ねる人の前にいる。自ら望んでそうなった。

[Narration] 胸の前で指を組んだ。しかし、祈る対象が見つからなかった。父にも母にも、主にも、不実だ。だから、そばにいる者に呼びかけた。

[Helena] 杏里、私……。

[Helena] ぁ……!

[Narration] 小刻みに震える肩に杏里の手がおかれた。それだけで声がもれ、体の中に官能の小さな火が起こる。

[Narration] いや、その火はすでについていた。灰の中から出てきたにすぎない。杏里を見た瞬間に、自分の中に火が灯る。その小さな種火は、杏里が触れると燃え上がる。

[Narration] そして、今日、今、この時に限っては、いつものように燃え上がろうとする炎に灰をかけてしまおうとは思わなかった。

[Narration] 燃え尽きるまで、自らを焼いてしまおうと決めていた。

[Helena] あ、うあ……!

[Narration] 立ったまま背中から、ヘレナは杏里の愛撫を受けた。

[Narration] 杏里の手が、肩と脇腹を撫でる。熱い吐息がうなじにかかる。

[Helena] あ、杏里、き、キスを……。

[Helena] ふあぁ!

[Narration] 杏里の唇が首筋に触れた瞬間、大きく一度、震える。まるで、体中に刻まれた、これまでの杏里のキスの痕が一斉に声をあげたかのように。

[Helena] あ、はぁ、あ……、ん、ふぁ、い、いや、だめ……。腋の下なんて、汚……い……。

[Anri] そんなことないよ、ヘレナ。

[Helena] うあぁ!

[Narration] 腋の下に舌が這う感覚に身悶える。羞恥に彩られた快楽というのは、自らの受け入れ方で、こうも変わるものなのか。

[Anri] 素敵だね、ヘレナの胸も。大きくて、柔らかくて……。なのに、先っぽはこんなにかたくなってる……。

[Helena] あ、や、あぁ! だめぇ、そんなに強くつまんだら……!

[Narration] 身悶え、ヘレナの体から力が抜けていく。体中を、刺激が、感覚が支配する。

[Narration] 膝から崩れていく。杏里の足下に座り込み、その脚に背を預ける。早くも軽い絶頂を迎えて、茫洋とするヘレナの顔に、杏里は手を近づける。

[Helena] ん、んく……。

[Narration] 口元に差し出された指をヘレナはくわえ、舌を絡めていく。杏里の空いた手がヘレナの顔を撫で回す。座り込んだ絨毯にできたしみが大きくなっていく。

[Helena] ……んは、あ、はぁ……。

[Narration] 自分の唾液が絡んだ指が、瞼や首筋をなぞる。身体を震わせてその指を受けるヘレナ。

[Narration] 杏里が肩を軽く押すと、ヘレナはなんの抵抗も見せずに、床へ背中から倒れ込んでいった。

[Anri] ……すごいよ、ヘレナ。もう、すっかり濡れている。

[Helena] ひぁ、あ……! そ、そう……、わかるの、濡れてるの……!

[Narration] 杏里の指で押し開くまでもなく、ヘレナの秘唇のあわせはすでにほつれ、蜜をあふれさせている。

[Narration] 杏里は、両の親指で秘唇を左右に押し広げると、そこに熱い息を吹きかけた。

[Helena] あ、あ、あああっ……!

[Narration] 背をそらせ、はしたなくも腰を突き出すような姿勢でヘレナは震えた。

[Helena] 杏里、私……。

[Anri] もうイったんだね、ヘレナ。可愛いよ。

[Helena] ええ……。あ、ひぁ!

[Narration] 達したばかりで、全身の感覚が鋭敏になっている。その肌の上を、杏里の手が這い回る。

[Helena] は、あ、あん……!ん、はぁ、ぅあ……!

[Narration] 秘部への直接的な刺激ではないが、その愛撫は確実にヘレナを押し上げていく。

[Helena] あ、あぁ……、だめ、うそ……。

[Narration] ついさっき、達した高みをあっさりと乗り越えて、なおも昇りつめていく感覚。

[Helena] あ、杏里、だめ、あ、や、やめて、なんだか……、こわい……!

[Anri] こわくなんかないよ、ヘレナ。それに……、やめたらヘレナの身体に怒られそうだ。

[Helena] うそよ……、あ、ふあぁ……!

[Anri] ほんとに……?

[Helena] ぁ……。

[Narration] 杏里の指と舌が止まる。放り出され、ヘレナは身体を震わせながら身悶える。

[Helena] あ、あぁ……、杏里……。わ、私……。

[Anri] どうしてほしい、ヘレナ。キミが望むなら、どこにだってつれていってあげるけど?

[Helena] …………。

[Helena] つ、つれていって、杏里。どこまででも……。

[Helena] あ、は、ふあぁ!

[Narration] 杏里の指と舌に呼応して、身体が何度ものけぞり、震える。指を噛んでこらえようとしてもかなわない声があがる。

[Helena] ふ、ん、んん! あ、だめ、い、いい……! そこ、そこは、だめな、の……!

[Narration] 杏里が責め立てる秘部から、蜜が止めどなくあふれる。身体の中は幾度も幾度も爆発を繰り返して、果てのない高みへと昇っていく。

[Narration] 今すぐにも足を踏み外し、奈落に落ちるかもしれない。それでも、駆け上がっていくのをやめられない。

[Narration] そんな、病みつきになりそうな恐怖。いや、すでにそうなっているのかもしれない。心で激しく抵抗しながら必ず繰り返す。いつも、幾度も。

[Narration] そして、すべての感覚を失って墜ちていく。目覚めた時はいつも、杏里に抱きとめられている。

[Narration] 歓ぶ姿を見られるだけで満たされると杏里は言う。その言葉のもっとも純粋な部分は決して好ましからざるものではない。ないのだけど。

[Narration] なぜ、ためらっていたのだろう。この腕の中はこんなにも心地よいものなのに。どうして最初から受け入れられなかったのだろう。

[Narration] 今から間に合わないの? あなたに甘えるだけの子猫にはなれないの? 疑問が渦巻く。

[Helena] う、はぁ……! いいえ、だめ、ちがう、ちがうの、杏里……、杏里……!

[Anri] ヘレナ……?

[Helena] だめ、杏里、もう、だめよ。いく、いきそうなの。あ、はぁ、あ、あん! ん、いく、いくぅ……。だめ、うあ、あ、ああぁ! あ、あああああぁ……!

[Narration] 杏里の指を盛大に濡らしながら、ヘレナは四肢を突っ張らせてのけぞった。暗い底へと意識が落ちていくと同時に、身体は弛緩していく。

[Narration] 杏里はいつもの通り、ヘレナの身体を抱きしめていた。優しく、暖かく。そして心持ち、強く。

[Narration] 白く霞んでいた意識が、まだ朧気ながらも戻ってくると、ヘレナは杏里の腕の中からゆっくりと体を起こした。

[Narration] 胸が、重い。

[Narration] 杏里と、彼女と肌を重ねた時に豹変する自分を受け入れようと、今日だけはそうしようと思っていた。

[Narration] しかし、それでもこの胸の中に残るものはいつもと変わりはなかった。罪悪感。自らの行為が背徳的であると認めている証拠だ。

[Narration] あれほど強く感じても、拭うことはできなかった。自分を変えることはかなわなかったいうことか。

[Narration] きつく結んだ唇が震える。

[Anri] ……ヘレナ?

[Narration] 背を向けたままのヘレナに杏里が声をかけた。

[Anri] ……気持ちよくなかった?

[Helena] そんなわけないでしょう。

[Helena] ……あなたとすると、いつもこうだわ。

[Anri] え?

[Helena] 自分を忘れてしまうくらい気持ちいいのよ。それは、初めての時も今も変わらないわ。

[Helena] ……だから嫌なのよ。飲み込まれそうになるの。いつでも、杏里の身体を求めるだけでいたい、そんな衝動に駆られるのよ。

[Helena] 杏里なら、そういう気持ちをコントロールできるでしょうね。でも、私はだめだわ。それを認めたら、きっとどうしようもなくなる。

[Narration] そして、認めたくてもかなわなかった。それは今、証明された。求めに応じようと、飢えを満たそうとしても、心は開ききらなかった。

[Narration] 結局、それが杏里と自分の関係の限界なのかもしれない。

[Narration] 愛情と友情との差と考えていいものか。生まれてきてから積み重ねてきたものが、最後の一線で杏里を拒んでいる気がした。

[Narration] これを踏み越える存在がこの先現れる保証も確信もないのに、そう結論づける自分がいる。どれだけ泣きたくなろうとも、それを認めざるをえなかった。

[Narration] ヘレナはゆっくりと杏里の方を振り返る。思考をたどっていたヘレナを、杏里は不思議そうな顔で見上げていた。

[Helena] 杏里……。

[Anri] ……なに?

[Helena] お願いだから、もう髪をいじるのはよして。あなたに触られると、それだけでもうどうしようもなくなる時だってあるんだから。

[Anri] ……わかったよ。

[Narration] そう答えてから、なお、もう一度にらまれた後、杏里はヘレナのほどけた銀髪から指を離した。

[Helena] ……やっぱり、私にはヤンさんをそのまま許すことはできそうにないわ。

[Narration] 服と髪を整えた後、ヘレナは杏里にそう言った。杏里が顔をあげる。

[Helena] 彼女にどんな理由があったにせよ……、今までの被害者のことを考えると……。

[Anri] そっか……。

[Helena] 私にはって言ったのよ、杏里。

[Anri] え?

[Helena] あなたなら、どうするかなんてわからないわ。そして、あなたが結論を出すまで、私は何もしないから。

[Anri] ヘレナ……、ありがと……。

[Helena] お礼を言われることじゃないわ。

[Narration] ヘレナはそう言うと、チャペルの出口へとまっすぐに向かう。外に出ると、両開きの扉を閉めて、つぶやいた。

[Helena] ……まったく、調子のいいことばっかり……。

sapphism_no_gensou/3472.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)