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sapphism_no_gensou:3461

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[Narration] 講義が終わった大講堂は、次々と学生を通路へと吐き出していく。

[Narration] 杏里は、その人波のピークをやりすごすと、出入り口から大教室の中に首だけを差し入れてのぞき込む。

[Anri] ん〜と……。あ、いた。ヘレナぁ!

[Narration] 杏里の呼ぶ声に、教壇の前で講師に質問をしていた少女が振り返る。

[Helena] あら、杏里。

[Narration] 大教室に入ってきた杏里を見て、ヘレナは質問を切り上げて、駆け寄る。

[Helena] 杏里、あなた、またこんな時間から出歩いて。

[Anri] 今さら、ボクが謹慎してるって言っても誰も信じないよ。それに……。

[Narration] 杏里はあごで大教室の出入り口を示す。

[Anri] なんだか知らないけど、PSがご苦労にもボクに張り付いているし。

[Narration] 杏里の言うとおり、扉のところには、制服を着たPSが二人、杏里に向かってサングラスをかけていてもわかる剣呑な視線を送っていた。

[Helena] ……まったく、あなたってば、神経が太いというか……。いいわ、ここで待ってなさい。

[Narration] ヘレナはため息を一つつくと、出入り口に向かい、PSに声をかける。

[Helena] ご苦労様です。杏里・アンリエットへの監視は私が引き継ぎます。

[P.S.] は? しかし……。

[Helena] 心配はいりません。私が責任を持って、自室まで送り返します。何か問題がありますか?

[Narration] 相手に反論を許さない強い視線と口調で、ヘレナはPSを大教室の側から退散させることに成功する。

[Anri] やあ、さすがはヘレナだ。

[Narration] 戻ってきたヘレナを杏里は拍手で迎える。

[Helena] ふざけるのはやめなさい、杏里。それで?なんの用なの?

[Anri] ……土曜日のことなんだ、こないだの。

[Helena] あ……。

[Narration] ヘレナは言葉を失う。

[Narration] 先週の土曜日の夜に起きた事件。杏里はアイーシャという名の少女を、レイプ事件の被害者という形で奪われる。

[Narration] 事件の起こった場所には、ヘレナも杏里とともに駆けつけた。そして、痛々しい少女の姿を目撃した。

[Narration] 杏里が、その少女に惹かれていたのは確かだ。それだけに、今の杏里の中に渦巻いているであろう、絶望と怒り、悲しみを思いやる。

[Helena] あ、杏里……、あの、ヤンさんのことは……、その、残念だったけど……。

[Anri] え?

[Helena] ……元気を出してね? あと、無茶をしたらダメよ? こういう時こそ慎重に……。

[Anri] え、あ? 元気だよ、ボクは。無茶もしないし。こうしてヘレナに、なにかわかったことがないか聞きにきてるんだし。

[Helena] え? え?

[Narration] 杏里の予想外の反応に、ヘレナは戸惑う。

[Narration] どうしたことだろう? 愛しい少女が暴行された。杏里だったらどこまでも落ち込むか、激昂するするかのどちらかのはずなのに……。

[Narration] 戸惑いつつも思考を重ねて、ヘレナはもう一つの気づきにくい解答へとたどりついた。

[Helena] あ、杏里……? その、ヤンさんは……。

[Anri] あ、アイーシャ?

[Narration] その名前を言った瞬間、杏里の口元が弛んだのをヘレナは見逃さなかった。

[Anri] その、さすがにショックを受けてたけど、もう心配いらないよ。ボクが真犯人を叩き出せば、学園にも残れるだろうし……。あれ? ヘレナ?どうしたの?

[Helena] 杏里!

[Helena] あなた、いったいヤンさんに何をしたの!まさか、またふしだらなことを……!

[Anri] わ、ちょ、ちょっと待って!な、なんでヘレナが怒るのさ。

[Helena] これが怒らずにいれますか!

[Narration] 火がついたように怒るヘレナをなだめるのに十数分を費やしたものの、杏里は彼女から情報を引き出すことになんとか成功した。

[Helena] 私と杏里が一緒になってから、ヤンさんの部屋の前まで行くあいだ、誰ともすれ違わなかったわね。

[Anri] うん、そうだね。

[Helena] ヤンさんが暴行を受けた部屋の窓には鍵がかかっていたわ。窓の外から侵入した形跡はなかった。

[Helena] ヤンさんをクローエに預け、通路を直進し、T字路でランカスターさんと会うまで、不審な人影はなし。

[Anri] うん。

[Helena] T字路は、私達が進んできた道、ランカスターさんが進んできた道、そして、開け放たれた船外への窓に突き当たる道に別れていたわ。これはつまり……。

[Anri] つまり……?

[Helena] 犯人は、窓を越えて船外へ、そして低気圧の海の真ん中へ逃げるしかなかった。でも、それは自殺行為だわ。

[Helena] 今、私の話に出てきた通路に面した個室を使っている学生には、全員、現場不在証明があるそうよ。

[Helena] 不思議なことよ、杏里。……犯人はどこへ逃げていったのかしら……。

sapphism_no_gensou/3461.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)