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sapphism_no_gensou:3444

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[Narration] 服を整えてからも、下生えの草をシーツにして、二人はしばらくの間、まどろみに身をまかせていた。

[Narration] 目の前で穏やかな寝息をたてるアイーシャの顔がある。杏里の腕に頭を預けている。すぐにでも抱き寄せたい気持ちになる。

[Narration] それを抑えながら、彼女に今のこの時間を与えることのできた自分に満足していた。

[Aisha] あのね、杏里……。

[Narration] いつの間に目を覚ましていたのか、アイーシャが杏里の顔を見つめて、声をかける。

[Anri] ん、何……?

[Aisha] 私、船を降りることになったの……。

[Anri] ……なんで!?

[Aisha] きゃ!

[Narration] 杏里が勢いよく上体を起こしたために、アイーシャの頭が投げ出される。

[Anri] なんで、どうしてさ!

[Aisha] 両親や学園も……、そうした方がいいって……。

[Anri] なんでさ! ちっともよくないよ! 誰がそんなこと決めたのさ!

[Aisha] ……最後は、自分で決めたの……。

[Anri] そんな、アイーシャ! なぜ……。

[Aisha] だって……。

[Narration] アイーシャは杏里から顔を隠すように俯く。

[Aisha] ……だって、怖いのよ、この船にいるのが……。

[Anri] あ……。

[Narration] アイーシャの言葉に杏里は悟った。まだ、彼女を傷つけた犯人は捕まっていない。この船の中にいるのだ。

[Narration] アイーシャにとって、これほど恐ろしいことはないだろう。

[Aisha] それに……。

[Aisha] つらいの、今のまま、杏里のそばにいるのが……。

[Anri] またそんなことを言う! キミがそんなふうに思う必要ないよ!

[Anri] 犯人だって、きっとこの手で捕まえてみせる! そうしたら、アイーシャだって船を降りる必要だってなくなるだろ!

[Aisha] やめて!

[Anri] ……アイーシャ?

[Aisha] そんな危ないことはしないで! 相手は、……レイプ犯、なのよ……。

[Anri] そうさ! だからこそ、許せない! 野放しにしておくわけにいかないじゃないか!

[Aisha] あなただって女の子なのよ!

[Aisha] お願い……、私のために危険な目にあうことなんてないのよ……。

[Narration] 杏里の胸に額を押しあて、アイーシャは震える。

[Anri] ……このまま捜査をあきらめたら、ボクは一週間後には退学だよ。

[Aisha] そんな……、だって……!……夕べ、あの時、杏里は……。

[Anri] 言わなくていいよ、アイーシャ。そう、ボクは間に合わず、キミを救えなかった。

[Anri] でも、PSの連中はそれだけじゃ納得してくれないだろうね。

[Anri] ボクはキミを守ることもできず、犯人を放置したまま、誰かが新たな被害者になるのを見捨てて、船を降りることになる。濡れ衣だけを被ってね。

[Anri] そんなの、我慢ならないよ。

[Narration] そう言うと、杏里は胸の中のアイーシャの頭を優しく撫でた。

[Anri] ありがとう、アイーシャ。心配してくれて嬉しいよ。キミの方がよっぽど辛いのにね。

[Narration] アイーシャは小さく首を振った。

[Aisha] ねえ、杏里……。

[Aisha] 私が船を降りるのも来週のパーティーの後なの……。

[Aisha] もし……、杏里が船を降りるのだったら……、私と一緒にいてくれる……?

[Aisha] ……こんなこと、願ってはいけないのに……。

[Anri] ありがとう、アイーシャ。でもね……。

[Anri] ボクのいちばんの望みは、犯人を叩きのめして、キミと学園生活の続きを満喫することなんだ。

[Narration] 杏里はそう言って、アイーシャを胸に抱いた。

sapphism_no_gensou/3444.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)