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sapphism_no_gensou:3431

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[Anri] 芸術家の気持ちが初めてわかったよ、かなえさん! 真っ白なキャンバスを前にして、人はかくも創作意欲を刺激されるものなんだね!

[Tenkyouin] ………………。

[Anri] 彼らは、絵を描くのではない、絵を白布に浮かび上がらせるんだってね! つまり、神の領域にあるものをそこに引き出してきているわけさ!

[Tenkyouin] ………………。

[Anri] ボクもそうありたいね。彼女の秘めた魅力をあますとこなく導き出してみせるよ! それがボクの使命なんだ! ねえ、聞いてる、かなえさん!

[Tenkyouin] 杏里の話は土曜日にたっぷり聞かせてもらった。今の話は……、それに追加されるもんじゃないね。

[Anri] ちちちっ! わかってないね、かなえさん。自ら磨き上げた原石が輝きだす瞬間は、きっと何にもましてきれいなものにちがいないよ。

[Tenkyouin] 興味ないね、まったく、いっさい。まだマグネシウムの酸化反応の方がましだね。

[Anri] ああ、それならわかるよ。一瞬のきらめきを見逃したくないってことだよね。

[Tenkyouin] ……ちがうね。

[Narration] 天京院がため息とともに短い答えを返したその時、部屋のドアがあわただしくノックされた。

[Tenkyouin] ……誰だい? 騒々しい。

[Helena] ああ、杏里、部屋にいないと思ったら、やっぱりここにいたのね!

[Anri] やあ、ヘレナ、おはよう。まったく、かなえさんはボクがいつ来るのかをお見通しだけど、ヘレナはボクがどこにいるのかお見通しなんだね。

[Helena] そんなこと言ってる場合じゃないわよ。大変なことになったのよ!

[Tenkyouin] ……まさか!

[Anri] どしたの、かなえさん。

[Helena] 落ち着いて、よく聞きなさい、杏里。その、また被害者が出たのよ。

[Anri] なんだって!?

[Narration] ヘレナの言葉に、杏里は叫んで立ち上がる。

[Tenkyouin] 誰だい、被害者は。

[Narration] 椅子に座ったまま、天京院がたずねる。

[Helena] ……箝口令がしかれてるんです。

[Tenkyouin] それを律儀に守ってる場合じゃないだろう?

[Anri] そうだよ、ヘレナ! 教えてよ!

[Helena] ……ファンさんよ、ファーストクラスの。

[Anri] ……!

[Narration] その名前を聞いて、立ち上がったままの杏里は身じろぎをする。つい昨日、言葉をかわしたばかりの少女だ。

[Anri] なんてことだよ、ソヨンには昨日あったばっかりなのに……。

[Tenkyouin] ……ほう、で、犯行時刻はいつごろなんだい?

[Narration] 杏里は眉根を寄せてつぶやく。それを聞き拾った天京院が、ヘレナにたずねる。杏里はそれをとがめた。

[Anri] かなえさん!

[Tenkyouin] なんだ? 言っとくけど、デリカシーとかはこの際問題にしないからね。起こってしまったものはしょうがない。ここからどうするか、だろ?

[Narration] 天京院はそう答えて、ヘレナに返事を促す。

[Helena] あ、昨日の深夜か……、今日の未明ということです。

[Tenkyouin] ふん……。杏里、昨日、彼女にあったのはいつだって?

[Anri] 夕方だよ。アイーシャとのデートの帰りに会ったんだ。ちょっと話をして、すぐわかれたんだけど。

[Helena] 杏里、また、あなたデートとかふしだらなことを……。謹慎中って自覚がないの、まったく!

[Anri] 昨日はまだ、買い物をしたり食事をしたりしただけだよ。残念だけど、友達の域をまったくでれなかった。……でもないかな?

[Helena] 杏里、何をしたっていうの!?

[Anri] まだなんにもしてないよ!

[Tenkyouin] 二人とも、うるさい。

[Narration] 天京院の、少し投げやりな、仲裁に杏里とヘレナは一度、口を閉ざす。

[Anri] ごめんよ、かなえさん。でも、いよいよもって犯人を許せなくなってきたな。今まではサードクラスだけだったのに、ボクの可愛いファーストの子まで襲うなんて!

[Helena] サードクラスの方だって襲われていいってことはありません!

[Anri] ごめん、言葉のあやだよ。ねぇ、かなえさん、一刻も早く犯人を推理しておくれよ。

[Tenkyouin] 無理を言うな。

[Narration] 天京院は苦々しい口調でそう告げて、カップをソーサーに戻す。

[Tenkyouin] いくつかの仮定はできるけど、推理は無理だ。手がかりが少なすぎる。

[Anri] その仮定でいいんだけど。

[Tenkyouin] 甘いね、杏里。うっすらとわかることは、この犯人はバカじゃない。いや、かなり頭のいいヤツだろうね。

[Tenkyouin] この学園にとって、レイプなんて殺人と同じくらいの犯罪だ。当然、回を重ねるごとにPSの警戒だって厳しくなってくる。

[Tenkyouin] もともとのセキュリティはしっかりしてる上でのこの条件で犯行を繰り返している。少なくとも、杏里程度の頭じゃ無理だ。

[Anri] えー、そうかなー?

[Tenkyouin] 逃げ回るだけなら杏里にもできる。だけど、正体をつかませないってのは無理だね。それを実行している犯人の知恵には十分、注意するべきだね。

[Tenkyouin] そんなヤツを相手に、仮定だけで動いてごらん。つけ込まれるのがオチだね。

[Anri] ……じゃ、どうすればいいのさ。

[Tenkyouin] 別に。今までどおりでいい。

[Narration] 立ち上がって、ミキサーからカップにコーヒーを注ぎながら、天京院は言った。

[Tenkyouin] 船中を歩き回って、その顔の広さで手がかりを集めてくればいい。あの沈んだ顔した南国娘に張り付いていてもいい。

[Anri] でも、ソヨンのように他の子が襲われたらどうするのさ。

[Tenkyouin] 運が悪かったと思ってあきらめな。

[Narration] 天京院は、杏里以外の者なら冷酷と評価しかねない口調で言い切る。

[Tenkyouin] 最初にそう言ったはずだ、二兎追う者は一兎も得ずって。あたしは杏里に頼まれた通り、三週間でギリギリ間に合う提案をしたんだ。

[Tenkyouin] これなら、犯人を割り出せることを、あたしの頭脳が請け負う。杏里が受け入れてくれるなら、だ。

[Narration] しばらく、天京院の顔を見つめていた杏里だが、はっきりと答える。

[Anri] ……わかった。かなえさんを信じるよ。

[Tenkyouin] ありがたいね。さ、そうわかったなら、研究の邪魔をしないでほしいな。二人とも、そろそろ出てってくれないかな。

[Narration] 天京院は手でドアを指し示す。

[Helena] あ、ごめんなさい、長居をしてしまって……。杏里、あなたはこれからどうするの?

[Anri] 手がかり探しだよ。あ、でも、先にソヨンに会いにいこうかな? 元気づけてあげなくちゃ。

[Helena] な、だめよ、今は!

[Anri] なんでだい?

[Helena] ……ショックが大きいのよ。それに、今は手当てを受けながらPSが話を聞いてるはずだし。

[Anri] ボクも彼女の話が聞きたいな。それに、慰めてもあげたいし……。

[Helena] ……そんな簡単なことじゃないわ。彼女からしたら、あなただって犯人なのかもしれない人間なんだから。

[Anri] ……でも、手がかりとか……。

[Helena] わかったわ。ファンさんには私が話を聞いてあげるわ。そうね、すぐには無理でしょうけど、二、三日のうちには。

[Anri] 本当かい!? ありがとう、ヘレナ。このお礼は……、そうだな、後で部屋にデリバリーで。なんなら今、先払いでちょっとだけ……。

[Helena] あ、きゃ、きゃあ、何をするの杏里!?

[Tenkyouin] だからさ、君達。

[Narration] ヘレナに戯れかける杏里に冷めた視線を送りながら、天京院が声をかけた。

[Tenkyouin] 人の部屋でそういう夫婦漫才はやめてくれないか? 研究の邪魔だってさっき言ったろ?

[Anri] あ、あはは。ごめん、かなえさん。じゃあね、ヘレナ。今度、話を聞きにいくから!

[Helena] あ、杏里! 逃げるんじゃありません!あ、ごめんなさい、天京院さん。私もこれで失礼します。

[Tenkyouin] ああ、とっとと行った行った。

[Narration] 天京院はひらひらと手を振って二人を追い払う。その天京院に頭を下げてから、ヘレナはドアの向こうに消えた。

[Tenkyouin] まったく、騒々しいったら……。

sapphism_no_gensou/3431.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)