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sapphism_no_gensou:3421

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[Tenkyouin] さて、今週の捜査の結果を聞かせてもらおうか。

[Anri] いいとも、かなえさん。

[Narration] そう答えて、杏里は受け取ったコーヒーに一度口をつける。今日はとりわけ煮詰められたコーヒーの酸味が舌の上で踊る。

[Anri] うん、今日も素晴らしいコーヒーだね。土曜の昼下がり、難事件解決のために推理を働かせる二人にぴったりだよ。

[Tenkyouin] ……お世辞はいいから、報告を聞かせな。

[Anri] ウィ。

[Tenkyouin] 何をやってたんだ、君は。

[Anri] 面目ない、かなえさん。精一杯頑張ったつもりなんだけど。

[Tenkyouin] ……疑わしいね。それとも、あたしがよっぽど杏里のことを買いかぶっていたのか……。

[Narration] そう言うと、天京院は大きくため息をついた。

[Tenkyouin] 驚いたね。手がかりになりそうなことは何一つない。

[Anri] えー! いくらなんでもそんなぁ!

[Tenkyouin] そんなもなにもない。杏里、自分でもうすうす気づいているんじゃないか? 先ほどの君の一時間にわたる報告は、ただのおしゃべりとなんら変わりない。

[Tenkyouin] つまり、あたしの推理の役に立つ情報は何ら含まれていなかったってことだ。

[Anri] う……。わかったよ、明日から頑張る。どっさり手がかりを見つけてみせるさ。

[Tenkyouin] 頑張りな、と言いたいところだけど、正直、厳しいね。最初に言っただろ? 三週間はギリギリのラインだって。

[Tenkyouin] 杏里、その一週間をムダに過ごしたんだ。挽回できるかどうか……、難しいところだね。

[Tenkyouin] ……あたしとしては……、身の回りを整理することを勧めるね、残念だけど。

[Anri] ………………。

[Narration] 一週間後、天京院の不吉な予言は当たった。

[Narration] その後の杏里の捜査は芳しいものではなく、結局、天京院の頭脳をしても、真犯人へとたどり着くことはできなかった。

[Narration] そして、杏里は三週間前の教員会議での決定通り、ガラパーティーの翌日、退学処分を受け、船を去った。

[Narration] 友人の見送りさえ許されぬ、寂しい下船だった。

[Anri] ……というとこなんだけど。

[Narration] 杏里は、メモを並べ、証拠品を並べ、身振り手振りを交えて、証言を再現した。天京院は黙ったまま、時折わずかにうなづくだけで、それを聞いていた。

[Tenkyouin] ……厳しいね。

[Narration] 杏里の報告が終わってから、一分ほど黙ったままでいた天京院は、一つ、息をついてから、そう言った。

[Tenkyouin] 杏里、あんたが遊んでいたとは思いたくないけど、正直、手がかりが少なすぎる。

[Tenkyouin] これだけじゃ、犯人が誰かもわからないし、次にこちらがどう動けばいいかの見当もつかない。

[Anri] うーん、そっか……。

[Narration] 眉間にしわを寄せる天京院に杏里もならう。

[Anri] まあ、来週は頑張るよ。きっとかなえさんの推理の役に立つ手がかりを持ってきてみせるよ。

[Tenkyouin] 頑張りな、と言いたいところだけど、正直、厳しいね。最初に言っただろ? 三週間はギリギリのラインだって。

[Tenkyouin] 杏里、今週の遅れは大きいよ。なんとか……、挽回できるといいんだけどね。

[Anri] ………………。

[Narration] 一週間後、天京院の不吉な予言は当たった。

[Narration] その後の杏里の捜査は芳しいものではなく、結局、天京院の頭脳をしても、真犯人へとたどり着くことはできなかった。

[Narration] そして、杏里は三週間前の教員会議での決定通り、ガラパーティーの翌日、退学処分を受け、船を去った。

[Narration] 数人の友人達に見送られ、ひっそりと船をおりた。

[Anri] さてと……。まずはね。

[Tenkyouin] ……また君は、アイーシャって子を追い回してばかりいたのか……。

[Anri] あ、そんなあきれた声を出さないでほしいな、かなえさん。ちゃんと捜査の方だって進めたよ。

[Tenkyouin] それはどうだか。

[Anri] いやしかしね、かなえさん。つぼみが徐々に開いていく様を間近でずっと見ていられるというのは、実に素晴らしいことだね!

[Anri] アイーシャこそ、まさに大輪の花と咲ける少女だよ。出会ったばかりの頃は、まさに花開く前だった。

[Anri] つぼみにはつぼみの趣がある。でもね、花はやっぱり太陽の下であでやかに咲いてこそなんだよ。

[Tenkyouin] ……それで? 花は庭師に想いをよせてくれそうなのかい?

[Anri] ボクがどれほど彼女を丹誠こめて咲かせようとしているかは伝わっていると思うよ。

[Anri] でもまあ、庭師でいるのは、そこまでだね。そこから先は、美しい花を愛でる王子たるボクの出番だよ、ふっふっふ。

[Tenkyouin] そうかい。それならその耳と牙と尻尾をしまうんだね。王子じゃなくて、まるっきり狼だよ、杏里。

[Anri] おっと、これはしまった。……まあ、楽しい話はこれまでかな。

[Anri] 今週はちゃんと捜査したよ。正直、先週はあまり身が入らなかったとこがあったんだけど……。

[Anri] でも、ソヨンまでもが襲われてしまったからね。あまり親しくしてきたわけじゃないけど、彼女はいい子だよ、とてもチャーミングだ。

[Anri] その彼女をひどい目にあわせたんだからね。捜査に対するモチベーションに、はっきりと犯人に対する怒りが加わったよ。

[Tenkyouin] ……それはいいことだろうね、杏里にとっては。じゃあ、その成果を聞かせてもらおうか。

[Anri] 襲われたソヨンの話を、ヘレナが聞いてきてくれたんだ。

[Tenkyouin] ほう、それはたいへん、興味深い。

[Anri] ボクが犯人じゃない、……ってはっきりと証言してくれたらよかったんだけど、残念ながらそうはいかなかったよ。

[Tenkyouin] そりゃ、虫がよすぎるね。

[Anri] ソヨンは襲われた時、目隠しと手足を拘束されていたんだって。でも、他の感覚から、犯人は女性だろうって言ったみたい。

[Tenkyouin] ふぅん……、けっこうやるもんだね。ああいった状況で、そこまで判断できるんだから。

[Anri] あと、今までと同じように、器具を使われたみたい。

[Tenkyouin] 犯行の手口はこれまでとかわらないってことか。

[Anri] うん。……ひどいことだよね。

[Tenkyouin] そう思うなら、あたしに早く犯人を推理させるんだね。さ、次の情報を聞かせておくれ。

[Anri] うん。次はね……。

[Anri] 犯行があった夜、つまり日曜日から月曜日にかけてだね、PSが徹夜で通路の警備を行っていたんだ。

[Anri] 通路といっても、学生が使用するものだけなんだけどね。

[Tenkyouin] へぇ、それは気がつかなかったな。

[Anri] かなえさん、また一日中、部屋にこもって一歩も出なかったんじゃない?

[Tenkyouin] その通りだけどね。情報の続きを。

[Anri] あ、うん。そういったわけで、学生用通路にはPSが目を光らせていたってわけ。でも、連中は職員と教員の通路には注意をしてなかった。

[Anri] だから、犯人はこの職員用のか、教員用の通路を使ってソヨンの部屋の側まで移動したんじゃないかって。

[Tenkyouin] ……当日、そのPSの警備があることを事前に知っていた者は? それから、職員通路と教員通路の場所を把握していた者は?

[Anri] えーと、ね。PSの警備を事前に知ってたのは、警備の関係者くらいだって。

[Tenkyouin] 教職員は?

[Anri] 教職員もあまり知らなかったんじゃないかな? それから、教員は教員通路、職員は職員通路の場所は知ってて当然じゃないかな?

[Anri] 学生は、両方ともほとんど知らないだろうね。実際、ちょっとわかりにくいもの。

[Tenkyouin] ふぅん、なるほど。……杏里はその警備はどうしたんだっけ? 引っかかったら面倒なことになるだろ?

[Anri] ボクはイライザから抜け道を教えてもらったんだ。

[Anri] 日曜日、アイーシャとのデートの帰りにイライザに会ってね。こっそり職員通路を教えてもらった。そこを抜けて部屋に帰ったのさ。

[Tenkyouin] なるほどね……。

[Anri] あとは……。

[Anri] これが、この船の職員通路と教員通路の概略図。

[Tenkyouin] どれどれ……。こりゃまた、大雑把もいいとこだな。

[Anri] まあね。どっからどこまでに通路があるっていう情報しかわからなかったから。

[Tenkyouin] まあ、ないよりましか。するとここがこうなって……。おや?

[Anri] どうしたの? かなえさん。

[Tenkyouin] 杏里、職員用、教員用の通路ってのはこれで全部なのかい?

[Anri] あ、ごめん。それはわからないんだ。

[Tenkyouin] そうか。しかし、通路の用途を考えれば、理由はできるな……。杏里、面白いことがわかったぞ。

[Anri] え、なになに?

[Tenkyouin] 犯人の当日の侵入ルートさ。最終的にこの職員通路を使えば、ソヨンの部屋のある近くまでPSにひっかからずにこれるんじゃないか?

[Anri] あ、ほんとだ! すごいよ、かなえさん!その調子で頼むよ。じゃ、次はっと。

[Anri] これが当日夜の教員の動向。

[Anri] こっちは学生達のだいたいのアリバイ。

[Tenkyouin] ふんふん……。しかし、読みにくいというか、雑多なまとめかただな。

[Anri] ごめん、でもそれが精一杯。

[Tenkyouin] なるほど。大半の普通のお嬢様は、日曜夜のささやかなパーティーが解散した帰り道にPSにひっかかってるのか。

[Anri] たいていは、PSが部屋まで送ってったんだって。

[Tenkyouin] 教員の方も、証言だけみれば、おとなしくそれぞれの部屋にいたみたいだな。この証言の確かさはなんで保証してくれるんだい?

[Anri] えーと、アンシャーリーのお茶……、っていうのはダメかな?

[Tenkyouin] ……ま、ある意味、誓約書よりは気が利いてるね。

[Anri] だいたいこんなとこだよ、かなえさん。

[Tenkyouin] そうか……。

[Narration] 天京院は杏里の報告を聞き終えると、あごに手をかけ、黙り込む。その横顔を、杏里が期待に満ちた目で見つめる。

[Tenkyouin] ……まあ……。

[Narration] しばらくの沈黙の後、天京院の口から言葉が出る。

[Tenkyouin] まじめに捜査をしたというのは確かみたいだね。情報としてはけっこうなもんだよ。

[Anri] 本当!? じゃ、犯人がわかった!?

[Tenkyouin] ……まだ、確定はできないね。

[Anri] えー!

[Tenkyouin] そんな落胆した声を出しなさんな。しかし、このままのペースで事態が進行するなら、あと一週間で事件は解決だね。それは請け負うよ。

[Anri] ……ならいいけどさ。

[Tenkyouin] そういうことだから、杏里は今まで通り、アイーシャって子にまとわりつき、そしてあちこちで情報を聞きまくる。いいね?

[Anri] ウィ、引き受けた。どちらも望むところさ!

[Tenkyouin] しかし……。

[Anri] どうしたの、かなえさん。

[Tenkyouin] いや、なんでもない。杏里に変な先入観を持ってほしくないから、今の時点で誰が怪しいか言わない。わかってくれるだろ?

[Anri] う〜ん、まあ。ボクは騙されやすいからね。

[Tenkyouin] 騙されても致命傷にならない鼻はきくんだけどね、杏里は。

[Tenkyouin] ともかく、どんなことがあっても変に動じないようにしてくれ。覚悟しとけってことかな? 正直、あんまりいい推理が出てこないんだ。

[Narration] 天京院の言葉は、不吉な予言というよりはむしろ、まるで忠告のように杏里には聞こえた。

[Anri] うん。それはいいけど……。

[Tenkyouin] ああ、そうしておいてくれ。

sapphism_no_gensou/3421.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)