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sapphism_no_gensou:3371

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[Narration] 湯船に沈み込みながら、杏里は電話の子機を耳に当てている。

[Anri] ごめんね、ちょっと今日はいろいろ忙しくて……。

[Aisha] あの……、気にしてませんから……。

[Narration] 電話の相手はアイーシャだった。

[Anri] でも、せっかく毎日、会いにいくって約束したのに、次の日からそれを守れないなんて、申し訳なくて……。

[Aisha] あの、でも……、こうして電話してきてくれたし……。

[Anri] ……この電話で許してくれるなら嬉しいな。ありがとう、アイーシャ。本当にごめんね。

[Aisha] あ、私の方こそ……、そう言ってもらえて嬉しいです……。

[Narration] 受話器から聞こえてくる声に、杏里は安堵と喜びと満足感を混ぜた笑みを浮かべる。

[Anri] それでね、アイーシャ。ボク、ちょっと考えたんだ。

[Aisha] はい……?

[Anri] 昨日、アイーシャは、うまく他人に接することができないって言ってたよね。

[Aisha] はい……。

[Anri] それは、他人に接する自分を持つことができないんじゃないかなって。

[Anri] 責めてるんじゃないんだ、誤解しないで。ねえ、アイーシャ。アイーシャはとっても素敵な女の子だよ。

[Anri] でもね、自信を持って自らが輝きだせば、キミの世界は、きっともっと素敵になると思うんだ!

[Aisha] あ……。

[Anri] 明日から、ボクの子猫ちゃん達……、ゴ、ゴホン! ボクの友人達から、いろんなことを教えてもらおうよ!

[Anri] きっと、その中にはアイーシャの自信になるものがあるはずだよ! なにしろ、いろいろいるからね! ボクの友人達ときたら!

[Anri] どうかな、アイーシャ。余計なお世話じゃなきゃいいんだけど……。

[Aisha] ……ううん、杏里の気持ちはとても嬉しいです。私、頑張ってみます。

[Anri] うん! さあ、アイーシャ、明日から特訓だ!

[Aisha] え、ええ……。と、特訓……?

[Anri] うん。

[Aisha] あの、杏里……。日本の『源氏物語』って読んだことありますか……?

[Anri] ないよ!

[Aisha] それじゃ、『マイフェアレディ』は……?

[Anri] 何度も見たよ!

[Aisha] ……。

[Narration] 受話器の向こうから、小さなため息が聞こえた気がした。

[Anri] ふぅ……

[Narration] 湯船につかって、体中を弛緩させる杏里。

[Narration] その時、電話のベルが浴室に響き渡った。

[Anri] いい時だってのに……、誰だろ。

[Narration] 腕を伸ばして電話の子機をとりあげ、耳に当てる杏里。

[Anri] アロゥ?

[Helena] ああ、杏里、部屋にいたのね!

[Narration] 受話器の向こうから響いてきた声はヘレナのものだった。

[Anri] やあ、ヘレナ、こんばんわ。どうしたんんだい、こんな時間に。

[Anri] もしかして、ボクと一緒にお風呂に入りたくなった?

[Helena] そんなこと言ってる場合じゃないわよ。大変なことになったのよ!

[Narration] ヘレナの声にただならぬ気配を感じて、杏里は眉根を寄せる。

[Anri] どうしたの?

[Helena] 落ち着いて、よく聞きなさい、杏里。その、また被害者が出たのよ。

[Anri] なんだって!?

[Narration] ヘレナの言葉に、杏里は叫んで立ち上がる。

[Anri] 誰? 誰が襲われたのさ!

[Helena] ……ファンさんよ、ファーストクラスの。

[Anri] ……!

[Narration] その名前を聞いて、立ち上がったままの杏里は身じろぎをする。つい昨日、言葉をかわしたばかりの少女だ。

[Anri] なんてことだよ、ソヨンには昨日あったばっかりなのに……。

[Helena] 襲われたのは、昨日の深夜から今日の未明にかけてって話よ。

[Narration] 受話器の向こうで、ヘレナの硬い声が響く。杏里は再び湯船へと沈み込む。

[Anri] それで、ソヨンは……?

[Helena] 今は、医務室で手当を受けているみたい。

[Anri] そっか……。すぐに行ってあげなきゃ。

[Helena] 行くって……、杏里、どこに?

[Anri] ソヨンのとこさ!

[Helena] そんなの無理に決まってます!

[Narration] ヘレナの強い否定の言葉が、受話器の向こうから響いてくる。

[Helena] 杏里、あなた自分の立場がわかってるの!?犯人かもしれない人物を、医務室のスタッフがソヨンさんに会わせてくれるわけないでしょう?

[Anri] あ……。

[Narration] ヘレナの指摘にさしもの杏里も想像力を働かせる。

[Helena] それに……、ファンさんは今、落ち着いて話ができる状態じゃないわ。その、ショックが大きかったみたいで……。

[Anri] そっか……。それなのに、会って元気づけてあげられないなんて、残念だな。

[Anri] でも、その、逆に言えばソヨンが、ボクが犯人じゃないことを証明してくれるかもしれないし……。

[Helena] どちらにしても、今すぐに話を聞くのは無理ね。あなたが医務室に出入りするのもよ。

[Anri] えー!?

[Helena] 立場が悪すぎるわ。このまま医務室にのこのこと向かっていったら、絶対にPSに拘束されるわよ。

[Anri] それじゃ、ボクはどうしたらいいのさ!

[Helena] 今日はおとなしくしていて。ファンさんが落ち着いたら、話は聞いておいてあげるわ。そうね、すぐには無理でしょうけど、二、三日のうちには。

[Anri] 二、三日? うーん、そっかぁ。

[Helena] いい、無闇に出歩いてはだめよ。いいわね。

[Anri] ……わかったよ。まじめに捜査しているよ。

[Helena] ほんとにわかってるの!?

[Anri] わかってるって! 明日からだけどさ、まじめに捜査する。ソヨンを襲った犯人は許せないし、その濡れ衣がボクに被せられているのも腹が立つ!

[Anri] 犯人はきっと見つけてみせるよ。そんなヤツのかわりに、この船を追い出されるなんて絶対にごめんだからね!

[Helena] ……まあ、無茶をしたらダメよ、いいわね。

[Anri] だから、わかってるってば!

[Anri] ふぅ……。

[Anri] 信じられないな……。

[Anri] ソヨンが襲われたなんて……。ああ、なんてひどいことをするんだ、犯人は!

[Anri] 犯人はきっと見つけ出すぞ! そんなヤツのかわりに、この船を追い出されるなんて絶対にごめんだ!

[Anri] でも、犯人が学生はほとんど知らない通路を使ったっていうのは、きっと重要な情報に違いないぞ。

[Anri] 教えてくれたイライザに感謝しなくちゃ。

[Anri] おまけに素敵なチップももらえたし……。あ、ボクが払ったのか

[Anri] とにかく、これまで以上に頑張って手がかりを見つけなきゃ。

[Anri] もっといろんな子から話を聞こっと。どんな小さな手がかりでも見過ごせないぞ。

[Anri] よし、頑張ろ!

sapphism_no_gensou/3371.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)