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sapphism_no_gensou:3301

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[Anri] ふっふっふーん、ふっふふっふふーん☆

[Narration] 湯気と一緒に杏里のスキャットもこもるバスルーム。杏里にとって、子猫ちゃん達とベッドをともにすることとならぶ至福の時間。

[Narration] しかし、それはバスルームに響いた一声で破られた。

[Unknown] 『杏里!』

[Anri] わ、なに、なに!?

[Narration] 湯船にひたる杏里の耳元から聞こえてきた声。

[Unknown] 『杏里、そこにいるんでしょう? 返事をしなさい』

[Anri] その声は……、もしかして、クローエ?

[Chloe] 『もしかしなくてもわたしよ』

[Anri] ねぇ、これってひょっとして、噂の伝声管?……ボクの部屋にもついていたんだねぇ……。

[Narration] クローエの声は、バスルームのいずこからかしれずに、響き渡っている。

[Chloe] 『わたしだって知らなかったわ。そんなことはどうでもいいの。ちょっとわたしの部屋まで来てちょうだい』

[Anri] それはいいけど……。しかしクローエ、電話を使うとか考えなかったのかな?

[Anri] いつキミから呼び出しがかかってもいいように、ボクはお風呂の中まで子機を持ち込んでいるんだけど。

[Chloe] 『電話は嫌いなの。うるさいから』

[Anri] ……それじゃあしょうがないね、キミの場合。

[Chloe] 『とにかくわたしの部屋まで急いでくれない?』

[Anri] わかったよ。キミのためなら、飛んでいこう。でも、一つだけ答えてくれないかな?

[Chloe] 『なに?』

[Anri] 服は着ていった方がいいのかな?

[Chloe] 『当たり前でしょう! 何を考えているのよ!』

[Anri] ニキ!?

[Narration] 連絡を受けてから5分で、杏里はクローエの部屋にたどり着いた。

[Narration] クローエの部屋は杏里と同じセカンドクラスの学生個室だけあって、それほど離れてはいない。

[Narration] しかし、風呂からあがり、服を着て部屋を飛び出したのを考えれば、上々のタイムだった。

[Chloe] 杏里、ドアを開ける時は、もっと静かに。

[Narration] 杏里の姿を認めたクローエが、いつも通りの剣呑さで声をかける。

[Anri] やあ、ごめん、クローエ。それにしても……、なぜニキがキミの部屋に?

[Narration] 杏里の視線の先には、部屋の隅で膝を抱えているニキがいる。ニキは杏里が部屋に入ってくるのを認めると、立ち上がって駆け出し、杏里にしがみつく。

[Chloe] わたしが聞きたいわよ。一日ぶりに部屋に戻ってこれたかと思えば、知らない子が中にいるんですもの。

[Chloe] そう、この子がバルトレッティさんだったわけ。

[Anri] そうだけど……、クローエとは初対面だったっけ?

[Narration] 杏里の言葉に、しがみついたままのニキがうなずく。

[Chloe] 図書室で何度か見たことはあるわ。でも、利用者全員の顔を憶える趣味はないから。

[Anri] そう。しかし、ニキ、どうしてクローエの部屋に入ったの?

[Narration] 杏里が頭をなでながら尋ねると、ニキは小さなジェスチャーで答えた。

[Anri] ドアから? いやそういう意味じゃなくて。え? 鍵、開いてた? クローエ、ほんと?

[Chloe] ……そうだったかもしれないわね。あまり気にしてないから。

[Anri] 危ないなぁ。レイプ犯が現れている昨今だってのに。

[Chloe] わたしの留守中なら関係ないじゃない。部屋にいる時は戸締まりをしているわ。

[Anri] もし今日、犯人がこの部屋に現れてたら、ニキが襲われてたかもしれないんだよ?

[Chloe] わたしの留守中に忍び込んだ子の心配までできないわよ! さあ、早くこの子を連れていって。わたしに静かな時間を返してくれない?

[Chloe] この子、さっきからあなたを呼んでしょうがなかったのよ。

[Anri] ボクを? 呼んでた?

[Chloe] ええ。伝声管の前にじっと座ってたのよ、その子。それから不意に立ち上がって、伝声管の前で足踏みして手を振り回し始めて。

[Chloe] 静かにしてるうちはいいかと思って放っておいたんだけど、そのうち、うめきだしたから……。

[Chloe] その子がいた伝声管から、あなたの声が聞こえてきてたのよ。だから、杏里を呼んだの。

[Anri] はあ、なるほど……。

[Narration] クローエの説明を聞き終えて、杏里は自分にしかと抱きついているニキの頭を見下ろした。そして、その後頭部の髪の毛をやさしく撫でる。

[Anri] ねぇ、ニキ。ひょっとして、ボクに何か用があったのかな?

[Niki] ……。

[Narration] 杏里に張り付いたまま、ニキはコクコクとうなずく。

[Anri] じゃあ、ちゃんとお話ししてくれないとわからないよ?

[Niki] ……こっち……に……きて……。

[Narration] ニキは杏里から体を離すと、その手を引っ張って、部屋の奥へと導く。

[Anri] おじゃまするよ、クローエ。

[Chloe] 好きにしなさい。ただし、静かに。

[Anri] ……しかし、この光景はいつ見ても壮観だね。

[Narration] 奥の間の壁の三面を埋め尽くした無数の伝声管。どれもおろしてある蓋を跳ね上げれば、管がつなぐ先の音が手に取るようにわかる。

[Narration] この船、H・B・ポーラースターの設計者である父と兄が、愛しい娘であり妹であるクローエ・ウィザースプーンのために特別にあつらえた細工だった。

[Anri] これ、どこがどこにつながってるの?

[Chloe] 教員室とか、物音を聞けばわかる場所なら把握しているわ。名札がついているでしょう?

[Anri] ほんとだ。で、ついてないのは……?

[Chloe] どこにつながっているのかわからないわね。

[Anri] そっかぁ……。あれ、ニキ!?

[Narration] ニキは突然、壁の伝声管にとりつくと、閉じてある蓋を片端から跳ね上げていく。

[Narration] 部屋の中には、初めは少しづつ、そしてだんだん大きく、あちこちの物音が満ちあふれてくる。

[Anri] うわ、学園中の音か。すごいな、これは。

[Chloe] うるさい! いったいなにやってるのよ!

[Niki] ………………!

[Anri] え? なに? 右から12番目、上から6番目?

[Narration] 杏里は、ニキのジェスチャーで示された伝声管に耳を近づける。

[Anri] この声は……、礼法のジョアンナ先生?え? 同じ列の14番目? あ、こっちからも同じ声が聞こえる……。

[Chloe] なんですって?

[Anri] 次は上から5番目……。うん、声の主、ジョアンナ先生が移動している……。

[Narration] ニキのジェスチャーがまるで誘導するように、礼法のジョアンナ先生の声が、無数の伝声管上を移動する。

[Anri] もしかして……、今、ジョアンナ先生は教員室からどこかへと移動している……?

[Narration] 杏里は伝声管の侵略からまぬがれた壁にかけられた時計に目をやる。

[Anri] クローエ! 授業の予定表を持ってるかい?

[Chloe] ? 今、持ってくるわ。

[Narration] 杏里はクローエの手から渡された講義予定表をニキと一緒にのぞき込む。

[Anri] あった! ジョアンナ先生は、この時間、右舷第4小講義室で授業だ!

[Anri] つまり、この伝声管で授業が聞こえるから、ここが右舷第4小講義室。そして、途中の通路は、教員通路ってことだ!

[Narration] 杏里の言葉に、ニキが嬉しそうな顔で大きく何度もうなずく。

[Anri] すごいよ、ニキ! これなら、どこからどんな通路が通っているのか、調べることができる!

[Narration] 杏里はニキの手をとってダンスを踊り出す。手をひっぱられたニキが杏里の周りをクルクル回る。有頂天の二人に、クローエが冷めた声をかけた。

[Chloe] 確かに大発見よね。それはわかったから、さっさと調べちゃってくれる? ここでいつまでも騒がれるのはたまらないのよ。

[Anri] ウ、ウィ。了解了解。ととと、さっきの通路はどの伝声管を通っていったんだっけ?

[Unknown] ちょっと待ったぁ!

[Anri] む、何者!?

[Visitors] 美少女探偵団、参上!

[Anri] ………………。

[Chloe] ………………。

[Niki] ………………。

[Narration] 颯爽と登場したクレア、ミリエラ、コーの三人に、なぜか、初めから部屋にいた三人は冷たい視線を送った。

[Mirriela] ……やめといた方がいいって言ったよな、あたしは。

[Coe] コーもちょっとやだって言ったよぉ。

[Clare] な、なによ! わたしばっかり悪者にする気!?二人とも、絶対いやって言わなかったじゃない!

[Chloe] ……うるさい。

[Clare] あ、はい、ごめんなさい!

[Anri] で、どうしたの? 愉快な赤ちゃん猫達。

[Clare] あー、愉快って言ったぁ!

[Mirriela] 言われるよな。

[Clare] もういいの、黙ってて!

[Clare] 杏里先輩! 事件を解決するため、そして犯人を捕まえるため、わたし達も協力します!

[Anri] え?

[Coe] 杏里さんにまかせてたら、犯人、見つからなさそうだもん。

[Mirriela] ま、そゆこと。

[Anri] なんかひっかかる言い方だけど……、それならまあ、手伝ってもらおうかな。ね、ニキ?

[Narration] いつの間にかニキは杏里の背中にぴったりとはりついている。

[Anri] 大丈夫だよ、この子達もニキに意地悪したりしないから、ね。さ、さっきみたいに、どこから誰の声が聞こえてきているか、ボク達に教えておくれ。

[Narration] かくして、ニキのジェスチャーを杏里が解読し、それをビジターズ達がわいわいとメモをとる光景がしばらくにわたって繰り広げられることになる。

[Narration] その間、クローエは完全にベッドルームに引きこもり、読書に没頭しているようだった。

[Narration] 時折、杏里はベッドの中で毛布を被って、いらつきからでる歯ぎしりを必死に抑えているクローエを想像して、背筋に冷たさを感じたりしていた。

[Anri] ……やれやれ、またキミ達か。

[Clare] またって言わないでください! わたし達のサポートできっと犯人に近づくことができますよ!

[Anri] どうだかなぁ。

[Mirriela] やっぱ、こないだのあの登場でひかれたな。

[Coe] だからやめようって言ったんだよぉ。

[Clare] うるさ〜い!

[Chloe] うるさいのはあなたよ。

[Narration] 低い、そして妙に迫力のある声がビジターズと杏里達を黙らせる。

[Anri] まあ、手伝ってくれるなら、こっちからもお願いするよ。ね、ニキ。

[Anri] 大丈夫だよ、この子達もニキに意地悪したりしないから、ね。さ、さっきみたいに、どこから誰の声が聞こえてきているか、ボク達に教えておくれ。

[Narration] かくして、ニキのジェスチャーを杏里が解読し、それをビジターズ達がわいわいとメモをとる光景がしばらくにわたって繰り広げられることになる。

[Narration] その間、クローエは完全にベッドルームに引きこもり、読書に没頭しているようだった。

[Narration] 時折、杏里はベッドの中で毛布を被って、いらつきからでる歯ぎしりを必死に抑えているクローエを想像して、背筋に冷たさを感じたりしていた。

[Narration] それから、しばらくの間、杏里はニキのジェスチャーを解読しつつ、伝声管の配置をメモし、船内の通路を把握する作業に追われた。

[Narration] その間、クローエは完全にベッドルームに引きこもり、読書に没頭しているようだった。

[Narration] 時折、杏里はベッドの中で毛布を被って、いらつきからでる歯ぎしりを必死に抑えているクローエを想像して、背筋に冷たさを感じたりしていた。

[Anri] お、終わった……。

[Niki] ……ふぅ……。

[Narration] さすがに、ここまでやれば十分だろうというところまで調べきった時には、杏里もニキもクタクタになっていた。

[Narration] そこに、ベッドルームからクローエが出てくる。

[Chloe] 終わったようね。

[Anri] ああ、なんとかね。いや、疲れた疲れた。でもこれで、船内のいろんな通路のだいたいのつながりは見当ついたよ。

[Chloe] そう、それはよかったわね。ここまで騒ぎ立てておいて、なんの成果もなしでは……、安らぎの時間と場所を侵害されたわたしがあまりにも不幸だわ。

[Anri] ああ、クローエ、このお礼は必ず……。

[Chloe] あら、杏里、そんなこと気にしないでいいわよ。

[Narration] クローエはにっこり微笑んでそう言う。

[Chloe] 杏里・アンリエット。

[Chloe] ニキ・バルトレッティ。

[Chloe] クレア、ミリエラ、コー……。

[Narration] クローエは一人づつの名を呼んで、その顔を見回し、そして宣言した。

[Chloe] あなた達、二度と私の部屋には入らないでちょうだい!

sapphism_no_gensou/3301.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)